今年も祭りシーズンがやってきた。
私の住んでいる大阪南部は秋祭りが盛ん。
いやいや。
盛んというよりもほとんど狂乱状態で、この時期一般常識が通用しないこともある。
その中でも特に岸和田のだんじり祭が有名だ。
その有名な理由はいくつかあるが、生活のかなりのパーセンテージが祭文化に基いているため他所では見られない様々な事例が展開されることに有名になる理由があるのかもしれない。
例えば会社で、
「今度の祭り、わるいけど仕事にでてくれへんやろか」
と頼もうものなら、ここではその場で辞表を叩きつけられる可能性がある。
これはホントにある。
会社の仕事よりも祭りが重要なのは言うまでもなく、
「祭り休め言うたから、会社辞めたんや」
というと、周囲も苦笑しながら、
「そらしゃあない」
となる文化なのだ。
会社の代わりはあるが、祭りの代わりはない、という思想なのだ。
このため以前、祭りが暦通りの平日に開催されていた時は周辺の会社はたとえ大手でも「休業」するのが当たり前だった。
岸和田祭りは日本三大喧嘩祭りの異名を取るぐらい有名だが、じつは岸和田だけではなく他の地区の祭りも多少強弱があるものの、どこも基本的には同じと言って過言ではない。
町内を走り抜ける重量4tのだんじり。
それを曳く100人を越える老若男女の曳き手たち。
しかも時として1台のだんじりに対して曳き手は数百人に膨れ上がる。
それが一斉に全速力で走り、曲がり角をグイッと曲がる(=やりまわし)のだから時に電信柱に激突し、時にバランスを失い横転し、時に沿道の家の庇を吹き飛ばすのだ。
この脅威の祭りは岸和田だけではなく、政令指定都市の堺市から泉南市あたりまで毎週のように交代で開催されている。
祭りが盛んな一方、この極端な祭り好きが地域の祭りに興味のない住民の不興を買っている。
例えば、道路事情。
祭りとなれば交通規制は当たり前。
普段は自動車が行き交う国道もだんじりや神輿が通るために通行止めになる。
大阪と和歌山を結ぶ片側3車線の国道26号線でもだんじりが通過するときは一時的に通行止めになる。
このため周辺道路は大渋滞となり、いつもなら10分で走れるところも時として30分以上かかってしまうこともあるのだ。
当然、祭りから出るゴミも膨大だ。
最近は行政が「クリーン活動」を一生懸命にPRしているのでゴミの量は少なくなったように思えるが、それでも食べカス、紙袋、ビニール袋にビール缶などが道路の角に放置されていたりして見苦しい。
屋台が立ち退いた後も汚いところがあったりして、私はタイのバンコク都心部の屋台の方がゴミの始末や清潔さでは遥かに上ではないかと思っている。
そんな祭りに、昨年辺りから大きな変化が生まれている。
それは言うまでもなく、外国人観光客の増加なのだ。
大阪府南部はなんといっても日本第2の玄関口、関西空港の立地しているところで、近年LCCの就航で外国人、とりわけアジア系外国人の数が信じられないほど多い。
中国、韓国はあたりまえ。
日本人と区別のつかない台湾人や、タイ人、マレーシア人、インドネシア人などがわんさか訪れている。
関空と大阪都心部を結ぶ南海電車やJR線の急行や快速は大きなスーツケースを抱えた外国人に占領され座ることもままならない。
この外国人観光客が祭りのギャラリーとして参加している。
今年の岸和田祭りは大勢の外国人の姿が見られた。
台湾人や中国人は見分けが難しいが、インドネシアやマレーシアの人たちは顔形が違うばかりかイスラム教徒なので女性はスカーフをしておりひと目で分かる。
アメリカ人やカナダ人、フランス人は言うにおよばずだ。
言葉が通じないことは祭りにとっては関係ない。
祭りに出る方も見る方もある種の興奮状態にあるため、まったく関係ない。
イスラム教やキリスト教を崇拝する人たちが「神さん」の乗り物である神輿やだんじりが疾走する姿を見てどう思うのか、定かではないが、ニコニコ笑って写真を撮ったり屋台で買い物をしている姿を見ると日本というガラパゴス宗教の国で十分に楽しんでいるのだと思うと、なんとなく楽しくなってくる。
ところで、大阪人は中国人や韓国人のでかい声や図々しい態度に負けないバイタリティーを持っている日本人として全国に認知されており、時々ややもすると「大阪人なんですか?」と嫌な顔をされることもなくはない。
そんなパワーは国際交流には実は欠かせないエッセンスであり、そのうち、
「おい、見てるだけやったらつまらんやろ!祭りに参加せんかい!」
という時が来るかも知れず、近い将来外国人向け祭り保険を確保して、ハッピを着てだんじりと共に疾走する外国人の姿が出てくるのではないかと思ってしまう。
今年の祭りを見ているとそんな風景が秋風とともに頭に浮かんでくる。
大阪の祭りなのであった。
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