なんと、この週末、アニメの実写化映画が好きでない私が映画「あしたのジョー」を観てきた。
私は10年前に「Red Shadow 赤影」を観て以来、その出来の悪さが強烈なトラウマとなっているために、日本のアニメ番組の映画化作品はなるべく観ないことに決めている。
このため「ヤッターマン」も「キューティーハニー」も「のだめ」も「宇宙戦艦ヤマト」も観ていない。
どれもこれも料金を払ってまで観る必要はないだろうと思ったのだ。
ところが映画「あしたのジョー」はどうしても観てみたいという欲求が生まれたのだ。
なぜか。
それは私がちばてつやのファンだから、という理由ではない。
少年マガジンに連載されていたオリジナルマンガのファンであった、ということでもない。
だいたい私はちばてつやのファンといえるほどその作品は読んでいないし、お気に入りの作品は「ハリスの風」や「オレは鉄兵」くらいであって、「あしたのジョー」はまともに読んだことがない。
それでは、そんな私がどうして映画「あしたのジョー」を観たいと思ったのか。
先々週のある日のこと。
私は嫁さんと一緒に深夜のテレビ番組を見ていた。
どのような番組だったのか覚えていない。
しかしその番組の途中で流れた「あしたのジョー」の予告編は鮮烈で刺激的で忘れることができなかったのだ。
何が刺激的であったかというと、トレーナー兼会長の丹下段平を演じている香川照之だったからであった。
NHKの大河ドラマ「龍馬伝」での岩崎弥太郎といい、大型ドラマ「坂の上の雲」の正岡子規といい、香川照之はすごい俳優さんだ。
ロバート・デ・ニーロも真っ青というくらいに役作りに励んでいるように思える位で、性格の違ういくつものキャラクターを演じるところは、びっくりするのを通り越して惚れ惚れするくらいだ。
さすが歌舞伎の血は侮れない。
とりわけこの2年間は岩崎弥太郎と正岡子規という似ても似つかない人物を演じきったところが、強烈な印象となって残っていた。
そこへ登場したのが丹下段平になった香川照之なのであった。
もともとアニメやマンガだから丹下のキャラクターは存在できると思っていた。
海賊様の片面バッチ。
傷だらけの坊主頭。
ヘンなヒゲ。
こんなオッサンはおらんやろ、というような風貌だ。
これを実写で描くにはかなりの勇気が必要になってくる。
その困難で危険なキャラクターを香川は特殊メイクと大胆な演技で実現していたのだった。
これを観ずしてなんとする。
調べてみると、この映画の監督は「ピンポン」の曽利文彦だった。
「ピンポン」は「赤影」以来、唯一観たことのあるマンガの映画化作品。
その独特の映像と、特殊効果とアクションの技、個性的な出演者たちにすっかり魅了されたのだった。
それで、なぜ、見ることになったかというと「ピンポン」がコミックを原作にする作品とは全く知らなかったのだ。
そういう訳で香川照之の演技と曽利文彦の演出を観たさに劇場に足を向けたのであった。
のっけからなかなか魅力触れる映像が流れる。
昔の山谷をイメージした光景はリアルで気を惹かれる。
そして、ジョーが泪橋を渡るところでタイトルとなり、期待を裏切らないテレビと同じ「あしたのジョーの」のテーマが始まるのだ。
スケール的には大きいとは言えないが、作品はアニメの映画化というよりも、ひとつのボクシング映画に仕上がっていたのだ。
「レイジング・ブル」
「メインイベント」
「シンデレラマン」
「ミリオンダラー・ベイビー」
と様々な拳闘映画を見てきたが、Vシリーズをじっくり見込んだファンの人には物足りなさがあるのかも知れないが、私のような「知っている」だけの観客には、映画として上手くまとまっている見ごたえのある作品になっていた。
もちろん香川照之の演技も、期待通り。
初めて登場するシーンには、やはり笑ってしまった。
が、そのマンガチックな風貌でダイナミックに演じている香川照之を見ていると、ボクシングの夢に熱く生きている丹下段平という男が本うにいるように思えてきて、知らず知らずのうちに感動していたのであった。
「立つんだ、ジョー!」
リングサイドで叫ぶ香川段平。
もうそれは「コミック」ではない「あしたのジョー」の叫びになっているのだった。
なお、この映画では力石徹を演じた伊勢谷友介の演技も見所だ。
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