初めてタイのバンコクを訪れたのは今から30年ほど前。
シンガポールに住んでいた友達を訪ねた時、途中で立ち寄ったのが初めてなのであった。
バンコクのドンムアン国際空港を降り立ったときの感覚はというと、
暑い、
騒々しい、
何やらフルーツなのか屋台なのか理由のわからない臭いが漂っている。
そんなところだった。
空港のホテル案内カウンターで王宮近くのホテルを予約してから都心へ出るのに最初は空港前の国鉄の駅から列車で移動しようと思っていた。
しかしそこここにあふれるタイ文字の案内に恐れをなして、
「こりゃ、読めん」
ということになりタクシーで行くことにしたのだった。
タクシーに乗って高速道路を南下する。
このとき飛び込んできた景色にまずは小さな驚きを感じた。
タイは日本と同じ英国式の国なので道路は左側通行。
よって高速道路も同じ。
違和感がない。
そして東名阪道を走っているときの名古屋みたいに遠くに都心部のビル群が望まれる。
高速道路のサイドにはパナソニックやイオンなどの日本企業の看板が目立つ。
「どこやねん、ここ」
外国に来た気がぶっ飛びかけた。
でも、そのときにちらほらと見えたのが黄金に輝く仏塔。
もちろん遊園地ではない。
上座部仏教のお寺の建物なのであった。
「やっぱり外国やね」
となったのは言うまでもない。
で、さらにタクシーが進んであちこち建設中のビルディングを見ると更に衝撃を受けた。
「なんじゃい、あの細い柱は」
と。
20階建て以上の建物なのに柱がやけに細い。
その建物の周りに竹か丸太かわからないが、そんなもので足場を組んで作業員が歩き回っている。
しかも高層ビルでも鉄骨構造ではなくRC構造の建物なので、
「あれ、地震が来たらどうなんねやろ」
「倒れないのかな」
と思った。
それも自然に。
目撃したそのビルだけかなと思ったのだが、どの建物も似たようなもので、RC構造の高層ビルが少なくないし、柱が細い。
しかも高さは大阪の高層ビルと比較しても、もっと背が高い建物としか見えず、どっちが経済大国かわからないような威風を見せていた。
しかし、共通するのは柱が細いことだった。
明くる日。
半日ツアーで参加した運河巡りでガイドさんに、
「バンコクって地震ないんですか?」
と尋ねたところ、
「地震?」
と何それ?みたいな表情で繰り返され、もしかすると私の英語の発音がよくなかったのかと思い、繰り返し「地震はないんですか?」とゆっくりした英語で聞いたところ。
「ああ、地震ですか? 経験したことないです。」
と言われた。
あれから30年。
地震の無い街に地震が襲った。
それも長周期振動を伴う巨大地震。
ウィークインドマーケットがあるチャトチャック地区で中国企業が建設する建設途上のビルが倒壊。
大勢の作業者が下敷きになっている。
都心のビルでは渡り廊下が断絶。
その他被害の全容はまだ定かではないが、ゆらゆら揺れたRC構造の超高層ビルは多分構造劣化が進んでいて住むのは怖いはず。
東日本大震災でも東京や大阪の建物は大きく揺れたが耐震基準が違うので倒壊することはなかったものの、未だ構造へのその影響は日本でもアンタッチャブルになっている。
それと比べてもバンコクのあの細い柱。
東京のアンタッチャブル以上に違うはずだ。
今回の地震で思い出した、あの細い柱。
バンコクに滞在したり住むのなら戸建てにしないと危ないかもしれない。