少子高齢社会が現実のものとなり、60歳以上のシニア労働者を日本の企業社会に、いかに位置付けるかという課題が緊急の課題になっています。
頑固、融通が利かない、過去の栄光にしがみ付く、説教くさい、動きが鈍い、協調性がない・・・今のところ多くのシニア社員は、若手社員、中堅社員、若手管理職の鬼門になりつつあるようです。
一方のシニア社員は、年俸が半分、権限はない、身体はつらい、若造が威張る、期待はされていない・・・そんな被害者意識のカタマリになりつつあります。
これは、現役世代にとっても、シニア社員にとっても、とても不幸なことです。
実際問題として、少子高齢化の急進により、女性、老人、外国人・・・「ジョ・ロウ・ガイ」の活用は、日本の産業界にとって何が何でも、うまくマネジメントしていかなければならないジャンルと言えます。
高齢社員の人事管理 戦力化のための仕事・評価・賃金
今野浩一郎著 中央経済社 2400円+税
著者の今野さんは、学習院大学経済学部教授。日経から出ている「人事管理入門」の著者でもあります。
今野さんは、高齢社員を「多様な社員」の1タイプとしてとらえ、いわゆるダイバーシティマネジメントの重要な一角を支える人材としてとらえます。
特に、企業社会にとっては、「ことの重要性」の視点を持ち、シニア社員にとっての新しい働き方が必要であると主張します。
目次
第1章 人事管理のとらえ方
第2章 社員の多様化と人事管理
第3章 高齢化からみた労働市場の現状と将来 企業にとっての「ことの重要性」を確認する
第4章 高齢社員の伝統的人事管理の特徴
第5章 人事改革の視点
第6章 高齢社員を活かす賃金
第7章 高齢社員に求められること
著者は、シニア社員の人事管理について、「S字型人事管理」というフレームを提示し、「制約社員」としてのポジショニングで説明します。
「いまの能力を、いま活用して、いま支払う」という短期決済型の賃金・処遇制度を提唱しています。
年金支給年齢の65歳繰り下げにともない、無年金の期間をなくすために政府が打ち出した雇用延長。
多くの企業では、高齢社員雇用安定法に基づき、定年延長、再雇用などの、どちらかというと雇用福祉型の制度を策定しています。
シニア社員は、一律年俸ナン万円という・・・働いても働かなくても、稼いでも稼がなくても年収は同じ・・・そんな企業が大半を占めています。
これでは、シニア社員のモチベーションが上がらないのも当然です。
パートタイマー社員も人事考課制度的な評価があり、これにより処遇や賃金が決定されるは常識の世界・・・でもシニア社員の世界は、今のところは異なっています。
個人的には、同書のコラム(129ページ)で取り上げられていたシニア社員格付け制度が、この解決策の一つになると考えています。
これによると、シニア社員を一律ではなく、3種類に分けて格付けしていきます。
・シニア社員上級・・・フルタイム・課長以上クラス・高度な専門性
・シニア社員一般・・・上級意外のフルタイム
・シニア社員(短時間勤務者)
また、同書は、人事制度的な組織の制度づくりアプローチではなく、高齢社員自身に求められることについても、その重要性を指摘します。
「現役社員の力になる」
「働くことは稼ぐこと」
「のぼるキャリアからの転換」
「組織の人材ニーズを知る」
分かってはいるけれど、日々の仕事の中にビルドインしていくことは、なかなか難しい課題です。
さらに、高齢社員は、まずは健康、働く意欲があるという大前提に、次の3つの「力」が必要であると喝破します。
1. 過去の経験にとらわれず、新しい役割に前向きに向き合うことのできる「気持ち切り替え能力」
2. 新しい役割に合わせて人間関係を構築できる「ヒューマンタッチ力」
3. 「おひとり様仕事遂行能力」自分の仕事を自分で遂行するテクニカルスキル
まさに、そのとおりだと思います。
現行のシリア社員制度では、多くの場合、定年後は59歳時の年俸の3割減から4割減。
そのままでは、モチベーション低下、ぶら下がりは当然のように思います。
シニア社員を一律に管理するのではなく、シニア社員一つひとりの個別性に合わせて処遇していくこと・・・それが最も重要な人事施策であるように思います。
なかなか面倒ですが、シニア社員マネジメントは、中長期の視点で考えていかなければならない必須事項。
今から絵を描いて、仕組みを構築していかなければならない重要課題です。