長年、ビジネスに関わってきて思うことがあります。
それは、
「成功例をマネしても成功することは、ほとんどない。」
「失敗例から導かれる教訓は、おおいに活用できる。」
ということ。
今回読んだ書籍は、実務家&学者が、豊富な体験と研究の中から、わたしの稚拙な経験則を裏付けていただき、実にすっきりした気持ちになりました。
ビジネスの成功確率を上げる 経営の失敗学
菅野寛著 日本経済新聞出版社 1800円+税
著者の菅野さんは、一橋大学大学院教授。
日建設計を経てBCGで十数年のコンサルタントを経験された実務家。
学者一筋ではない、現場の体温を伝えることのできる方です。
「ビジネスは本質的に失敗する運命にある」とする著者。
会社は、失敗するようにできているということです。
「同質化による失敗」・・・他社と同じこと、今までの自社と同じことをやっていては成功しない・・・値引き競争に陥り利益が獲得できない。
「異質化による失敗」・・・他社と違う事、今までの自社と違う事をやれば成功しない・・・ノウハウ、経験知がなく空中分解を起こす。
つまり、どちらをとっても失敗のリスクが極めて高いということです。
さりとて、何もしないということは座して死すこと。
同質化と異質化のバランスを取りながら、経営のかじ取りをしていくことが経営の本質であることを指摘しています。
目次
第1章 ビジネスは失敗の山
第2章 ビジネスは本質的に失敗する運命にある
第3章 成功学の幻想
第4章 成功は学べない
第5章 失敗学の有用性
第6章 考えるアプローチ、頭の使い方がずれている
第7章 戦略の筋が通っていない
第8章 顧客が求めていない価値を提供してします
第9章 定性的なロジックの詰めだけで満足して、定量的な数字の詰めが甘い
第10章 リスクや不確実性に対処しない
第11章 地雷排除が行き過ぎた結果、戦略が尖っていない
第12章 実行に必要な徹底度が足りない
第13章 実行者の意識、行動を変えていない
終章 失敗する経営から成功する経営へ
同書では、ソニーやパナソニック、ユニクロやZARA、トヨタやセブンイレブンの事例が出てきますが、巷に流通している一般論ではなく著者独自の視点が散りばめられています。
成功の必要条件
負けない戦略 × 他社を凌駕する努力 × 時の運 = 結果としての成功
同書で掲げてある成功法則は、あくまで必要条件であって十分条件ではないということ。
WHAT(何をやるのか)・・・少なくとも負けない戦略
HOW(いかにやるのか)・・・他社よりも徹底して早く速く、しつこく
LUCK・・・運にめぐまれること
最後の「運・ラック」というのが、経営の難しさそのものです。
同書の中で最も勉強になったのが、「地雷排除のやり過ぎ」と「徹底度の不徹底」でした。
今の会社組織は、内部統制や意思決定システム等によりリスク回避、冒険をしないマネジメントが主流となり、ありそうな地雷は事前に全て排除・・・出てくる戦略、戦術、施策はカドの取れた、エッジの効いていない一般的なものになりがち・・・これではイノベーションの起こることはほとんどないと言えます。
そして、当たり前のことですが、戦略を立てても戦術を練っても、実行、アクションがなければ、しかも粘り強くやらなければ結果は出ないということ。
経営コンサルタントの波頭亮さんも「執行力の時代」と言われていましたが、まさにそのとおりだと思います。
美しいスライドを作って、立て板に水の流暢なプレゼンをして、あとは誰かがやってくれるのを待っている・・・そんな組織が多いこと、そんな仕事のやり方を認めていることは、その組織の衰退に向けた第一歩になると思います。
経営、マネジメントにたずさわっている方にぜひ一読いただきたいスグレ本です。
同書の最後、251ページの図表35に、同書のエッセンスがまとめられています。
あまりに分かりやすいチャートなので引用させていただきます。
図表35 失敗する経営から成功する経営へ
1.他社、過去の自社と同じことをやっていれば・・・同質化競争に陥って失敗する
2.他社、過去の自社と違うことをやれば・・・不慣れなことに手を出して失敗する確率が高まる
3.失敗する確率を下げるために・・・明らかな地雷を地道に避ける
4.完全に地雷排除をやりすぎると・・・戦略の角が取れて、ユニークさがない同質化競争に逆戻りしてしまう
5.そこであえてリスクを取って、再び戦略を尖らせる その際に重要なのがビジネスの本質。さらに失敗のコストを下げておく
6.その上で、徹底的に実行 競合を凌駕するスピード、資源投入 実行部隊の必死度、本気度
7.競合を凌駕するスピード、頻度でサイクルを回す まず実行・結果の解析・軌道修正して再実行
8.石にかじりついて実行するが・・・ある時点で冷静に判断して、必要ならば潔くやめる
多くの学びを得ることができる・・・まさに、黄金のチャートです。