とても面白い本を読みました。
今年No.1の一冊だと思います。
スポーツ国家アメリカ 民主主義と巨大ビジネスのはざまで
鈴木透著 中公新書 860円+税
著者は、慶応大学教授。アメリカ文化研究、現代アメリカ論を専門とされています。
帯には、「スポーツは、この国をどう変えたのか?」。
民主主義、資本主義を抱えて、中世という時代を経験せずに立国したアメリカ合衆国という理念先行国家。
その歴史は、国も地域もスポーツを中心に人々が動いてきたと言っても決して過言ではないと思います。
世界最強の軍事力、経済力を持つアメリカ合衆国。
この国が、大衆スポーツとともに発展してきた経緯を紐解いていきます。
民主主義、産業革命、人種差別、性差別、貧富格差、大都市形成、殺人犯罪、マスコミ、宗教・・・この国には、様々な社会問題を抱えています。
その中で、この国は、独自のスポーツを産み出し、独自の社会形成してきたというのが同書の骨組みです。
ベースボール、フットボール、バスケットボール、アイスホッケー・・・
米国生まれの人気スポーツ・・・実は、アメリカローカルです。
欧州やアジアアフリカでの人気はイマイチ・・・。
NFLのヨーロッパ進出も失敗に終わりました。
国技のベースボールは、サインプレーでチームを動かしていきます。
最も人気のあるフットボールも、セットプレーでプレイが始まります。
この仕組み、仕掛けは、まさに会社組織とオーバーラップします。
戦略戦術計画があり、指示を出す人、持ち場で仕事をする人など、マネジメントを中心に動いていきます。
著者は、米国生まれのスポーツの根底には、19世紀に開花した米国の産業発展に由来すると指摘します。
気合と根性で現場監督が仕切っていた工場に、テイラーやギルブレスが発明した科学的管理法を導入。
ストップウォッチを持っての時間研究、ムダな動きをなくす動作研究を徹底して進め、能率増進を進めてきました。
搾取される労働者にとっては大変だったでしょうが、富を産み出したい資本家にとっては、巨大組織を運営していくためのマネジメントが求められていたのです。
「その意味から、個別化・細分化された領域を再接合するというアメリカのスポーツが発揮してきた創造力は、理念先行国家にとって問題解決を担ってきただけでなく、個の独立性が全体との連関があって成立するという、近代産業社会の矛盾そのものへの挑戦であったと言える。」同書230ページ
目次
序章 スポーツの近代化とアメリカ
第1章 南北戦争と国技野球の誕生
第2章 科学的経営管理の手法とフットボールの「アメリカ化」
第3章 宗教・移民・バスケットボール
第4章 人種の壁への挑戦
第5章 女性解放とスポーツ
第6章 地域の公共財としてのスポーツ
第7章 資本主義化のスポーツ倫理
第8章 メディアが変えるスポーツ
第9章 アメリカの夢を支える搾取の構造
第10章 アメリカ型競技の孤立主義とパックスアメリカーナ
第11章 記憶装置としてのスポーツイベント
第12章 トランプ現象とプロレス
終章 スポーツ・アメリカ的創造力・近代社会
地域密着の「地域の公共財」としてのスポーツチームというのも米国の特長と言えます。
NY、LAなどを中心に都市ごとにあるプロチームや大学チーム・・・。
地域の誇り。
讀賣、阪神、中日、DeNA、ヤクルトといったスポンサー企業名ではなく、都市名を冠するのが米国流。
それでいくと、市民球団と言われる親会社を持たないカープは、ちょっと米国的な存在と言えます。
ベースボール、フットボール、バスケットボール、アイスホッケー・・・
金満国家・米国生まれのスポーツ・・・実にお金がかかります。
ベースボールだと、グローブやミット、バット、ユニフォーム、プロテクター、スパイク・・・
フットボールだと、ヘルメット、ショルダーパット、サイパッド、シンパッド、シューズ・・・
まだまだ豊かとは言えないアジアやアフリカ諸国での普及は難しいと思います。
ボールがあれば楽しめるサッカーが人気なのも分かります。
ワールドカップに出場している南米やアフリカ出身の選手…幼いころ、裸足でボールを蹴っていたという話を聞くたびに、ハングリーと夢と浪漫がスポーツには必要なのではないかと思います。
同書は新書ですが、気軽に楽しめるエンターテイメント本。
学者の本らしく、巻末には出典と米国スポーツの歴史年表が掲載されています。
今度、出典図書にも目を通してみたいと思います。
今年一番のお勧めの一冊です。