『知の進化論』
野口悠紀雄著(朝日新書)
私たちはこれまで、知識は『何かを実現するために必要な手段』であると考えてきました。本書でも、多くの場合において、知識の役割をそのようなものとして捉えてきました。
経済学の言葉を使えば、『知識は資本財(または、生産財)の1つである』と考えてきたのです。
しかし、知識の役割はそれだけではありません。
『知識を持つことそれ自体に意味がある』ということもあるのです。
これを、『消費財としての知識』と呼ぶことができるでしょう。
『知識を得ることそれ自体に意味がある』とは、現代世界で初めて認識されたことではありません。
ある意味では、人類の歴史の最初からそうだったのです。
マゼランによるマゼラン海峡の発見を思い出してください。
彼が未知の海峡を発見する航海に出た目的は、西回りでインドに達する航路の発見という実利的、経済的なものでした。
そして、彼は見事にその目的を果たしたのです。
しかし、彼が見出した航路は、インドへの航路として実際に使われることはありませんでした。
あまりに遠回りで、危険なルートだったからです。
歴史上、実用性が或る業績の倫理的価値を決定するようなことは決してない。
人類の自分自身に関する知識をふやし、その創造的意識を高揚する者のみが、人類を永続的に富ませる。
そして、ちっぽけな、弱々しい孤独な5隻の船のすばらしい冒険は、いつまでも忘れられずに残るであろう。
消費財としての知識の価値は、人工知能がいかに発達したところで、少しも減るわけではありません。
ですから、人工知能がいかに進歩しても、『人間が知的活動のすべてを人工知能に任せ、自らはハンモックに揺られて1日を寝て過ごす』という世界にはならないと思います。
研究室では、研究者が寝食を忘れて実験に挑んでいるでしょう。
歴史学者は古文書を紐解いて、新しい事実を発見することに無限の喜びを感じているはずです。
そして、親しい人々が集まって、絵画や音楽についてどれだけ深い知識を持っているかを披露し、競い合っているはずです。
あるいは、誰の意見が正しいかについて、口角泡を飛ばして議論しているでしょう。
人類にとってのユートピアとは、そのような世界だと思います。
そうした世界が、人工知能の助けを借りて実現できる。その可能性が、地平線上に見えてきたような気がします。
グーテンベルク・インターネット・人工知能。
情報技術の革新は、世界に何をもたらしたか?中世以前、知識とは、特権階級の独占的所有物だった。活版印刷の登場によって万人に開放され始めたそれは、インターネットの誕生で誰にでもタダで手に入るものとなった。そして人工知能の進化が、本質的な変革の時代の到来を告げる…。
秘匿から公開へ、有料から無料へ、そして人間からAIへ。「知識の拡散」の果てに、ユートピアは現れるのか?大変化の時代を生き抜く指針を示す、知識と情報の進化論。
『知の進化論』野口悠紀雄著(朝日新書)
「百科全書・グーグル・人工知能」というサブタイトルがついている。
グーテンベルク・インターネット・人工知能。
情報技術の革新は、世界に何をもたらしたか?中世以前、知識とは、特権階級の独占的所有物だった。活版印刷の登場によって万人に開放され始めたそれは、インターネットの誕生で誰にでもタダで手に入るものとなった。
そして人工知能の進化が、本質的な変革の時代の到来を告げる…。秘匿から公開へ、有料から無料へ、そして人間からAIへ。
「知識の拡散」の果てに、ユートピアは現れるのか?
大変化の時代を生き抜く指針を示す、知識と情報の進化論。
野口 悠紀雄(のぐち ゆきお、1940年12月20日 - )は、日本の元官僚、経済学者。
専攻は、日本経済論、ファイナンス理論。
一橋大学教授、東京大学教授、青山学院大学大学院教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学教授を経て、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。
野口悠紀雄著(朝日新書)
私たちはこれまで、知識は『何かを実現するために必要な手段』であると考えてきました。本書でも、多くの場合において、知識の役割をそのようなものとして捉えてきました。
経済学の言葉を使えば、『知識は資本財(または、生産財)の1つである』と考えてきたのです。
しかし、知識の役割はそれだけではありません。
『知識を持つことそれ自体に意味がある』ということもあるのです。
これを、『消費財としての知識』と呼ぶことができるでしょう。
『知識を得ることそれ自体に意味がある』とは、現代世界で初めて認識されたことではありません。
ある意味では、人類の歴史の最初からそうだったのです。
マゼランによるマゼラン海峡の発見を思い出してください。
彼が未知の海峡を発見する航海に出た目的は、西回りでインドに達する航路の発見という実利的、経済的なものでした。
そして、彼は見事にその目的を果たしたのです。
しかし、彼が見出した航路は、インドへの航路として実際に使われることはありませんでした。
あまりに遠回りで、危険なルートだったからです。
歴史上、実用性が或る業績の倫理的価値を決定するようなことは決してない。
人類の自分自身に関する知識をふやし、その創造的意識を高揚する者のみが、人類を永続的に富ませる。
そして、ちっぽけな、弱々しい孤独な5隻の船のすばらしい冒険は、いつまでも忘れられずに残るであろう。
消費財としての知識の価値は、人工知能がいかに発達したところで、少しも減るわけではありません。
ですから、人工知能がいかに進歩しても、『人間が知的活動のすべてを人工知能に任せ、自らはハンモックに揺られて1日を寝て過ごす』という世界にはならないと思います。
研究室では、研究者が寝食を忘れて実験に挑んでいるでしょう。
歴史学者は古文書を紐解いて、新しい事実を発見することに無限の喜びを感じているはずです。
そして、親しい人々が集まって、絵画や音楽についてどれだけ深い知識を持っているかを披露し、競い合っているはずです。
あるいは、誰の意見が正しいかについて、口角泡を飛ばして議論しているでしょう。
人類にとってのユートピアとは、そのような世界だと思います。
そうした世界が、人工知能の助けを借りて実現できる。その可能性が、地平線上に見えてきたような気がします。
グーテンベルク・インターネット・人工知能。
情報技術の革新は、世界に何をもたらしたか?中世以前、知識とは、特権階級の独占的所有物だった。活版印刷の登場によって万人に開放され始めたそれは、インターネットの誕生で誰にでもタダで手に入るものとなった。そして人工知能の進化が、本質的な変革の時代の到来を告げる…。
秘匿から公開へ、有料から無料へ、そして人間からAIへ。「知識の拡散」の果てに、ユートピアは現れるのか?大変化の時代を生き抜く指針を示す、知識と情報の進化論。
『知の進化論』野口悠紀雄著(朝日新書)
「百科全書・グーグル・人工知能」というサブタイトルがついている。
グーテンベルク・インターネット・人工知能。
情報技術の革新は、世界に何をもたらしたか?中世以前、知識とは、特権階級の独占的所有物だった。活版印刷の登場によって万人に開放され始めたそれは、インターネットの誕生で誰にでもタダで手に入るものとなった。
そして人工知能の進化が、本質的な変革の時代の到来を告げる…。秘匿から公開へ、有料から無料へ、そして人間からAIへ。
「知識の拡散」の果てに、ユートピアは現れるのか?
大変化の時代を生き抜く指針を示す、知識と情報の進化論。
野口 悠紀雄(のぐち ゆきお、1940年12月20日 - )は、日本の元官僚、経済学者。
専攻は、日本経済論、ファイナンス理論。
一橋大学教授、東京大学教授、青山学院大学大学院教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学教授を経て、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。