5歳にも満たない子どものレイプ被害
忘れられた紛争 ―、傷つく女性たちの声なき声
600万人ーー。これは、「忘れられた紛争」と呼ばれるコンゴ紛争の犠牲者数です。1996年から続くコンゴ紛争は、第二次世界大戦後最大の犠牲者を出しながら、これまで世界からほとんど注目されてきませんでした。
紛争の背景には、私たちが電子機器を通じて日々その恩恵を享受する、レアメタルの利権争いがあります。一部の権力者が莫大な利益を得続けるために、コンゴの状況は意図的に世界から無視されてきたのです。
003年に全土を巻き込む紛争は終結したものの、今も一部地域で断続的に戦闘が続いています。近年、特にカサイ州での争いが過激化し、2017年には140万人が避難を余儀なくされ、深刻な飢餓で3,000人近くが命を落としました。
軍による略奪行為も悪化し、350校の学校を始め、村の施設が大規模に焼き討ちされました。国連職員が殺害されるという痛ましい事件も起きています。コンゴ紛争は、決して「過去」の紛争ではありません。
コンゴに限らず、こうした治安の悪化には、脆弱な立場にある女性の被害が必ず伴います。
「女性にとって世界最悪の場所」と呼ばれるコンゴでは、女性への暴力がとりわけ悲惨な形で行われてきました。
それは、兵士の性的欲求を満たすのではなく、住民に恐怖心を与え支配するため、コミュニティを破壊するための「兵器」として戦略的に使用されてきたのです。
5歳にも満たない子どものレイプ被害、家族の前での暴行、性器の切断ー。想像を絶するような暴行が行われてきました。
暴力の後に残る、貧困と心の傷ー「私は誰からも必要とされていない」
2018年、コンゴ民主共和国で精力的な医療活動を続けてきたムクウェゲ医師が、ノーベル平和賞を受賞しました。
彼は、戦闘の続くコンゴ東部・南ギブ州ブカヴにおいて、自らの病院を立ち上げ、残酷な性的暴力にあった女性たちへの治療を20年近く続けてきました。テラ・ルネッサンスが支援する女性たちの中にも、ムクウェゲ医師の治療を受けた方は少なくありません。(写真提供:コンゴの性暴力と紛争を考える会)
性的暴力が残すのは、身体的な傷だけではありません。コンゴではレイプにあった女性は家族の「恥」とみなされ、外に出ることもできなくなります。最悪の場合には、家族から追い出され、地域の人からも差別を受け、人とのつながりを全て失ってしまいます。
未だ治安の安定しない地域では、度々発生する武装集団による襲撃によって、住民たちは十分な食料を確保することも困難です。援助物資も満足に届かず、村人同士の相互扶助でなんとか生活をしています。
家族からも地域の人からも見放された女性たちは、現金を得られる手段がほとんどないこの地域で、経済的に困難な生活を強いられます。彼女たちの困窮は、性的暴行をうけて出産したその子ども達までもに影響し、食糧不足による栄養失調に苦しむことを意味します。
私は誰からも必要とされていない」。
長年、紛争被害にあった人々に寄り添ってきたスタッフが、ある女性から聞いた言葉です。今までの生活も、人とのつながりも、人間としての尊厳も。すべてを失った彼女たちは、いわば「無いものづくし」の状態で、テラ・ルネッサンスの支援施設へやってきます。性的暴力の身体的な傷、差別による精神的な傷、そして後の経済的に厳しい生活の連鎖は、心に消えない傷を残すのです。
身体的・精神的な傷を負い、経済的にも脆弱な状態にある、紛争被害を受けた女性たち。彼女たちが困窮状態を抜け出し、自立した生活を営めるよう、テラ・ルネッサンスは2007年より、コンゴで性的暴力を受けた女性や孤児を対象に、自立支援を行ってきました。
収入源となる洋裁の訓練では、技術を身につけた女性たちにミシンの供与するとともに、女性たち同士でグループを結成し、小さな洋裁店を開業するビジネス支援を行っています。
また、それらは困窮したメンバーの保険金の支払いやビジネスへの投資金として貸し出しができるよう、女性たちが毎月お金を出し合い、共同貯蓄をして相互に支え合う仕組みを作っています。
訓練を経た女性たちの中には、繁忙期に月40〜50ドルの収入を得る人もいます。決して十分な金額ではありませんが、支援以前には0ドルで生活する女性が大半だった状況を考えると、確実に収入源を増やすことができるようになっています。
閑散期には店番の人数を減らし農業に力をいれたり、繁忙期にはグループの仲間みんなで一気に服をつくるなど、農作業と洋裁の仕事を組み合わせ、1年を通じて自立して生活できる女性も出てきました。
また、開業した店は、村人が集まる憩い場にもなっています。
「商品を買わないお客さんであっても、自分たちのお店に村人たちが集まって、おしゃべりする場になっていることも嬉しい」と話す女性も。洋裁店は、かつて、性的暴力がきっかけで、家族や親戚、そして地域の方から見放されてしまった女性たちが、他者とのつながりを構築しなおす場所としても機能しているのです。
生きていて良かった。私は、誰かに必要とされている人間だと思えるようになりました。」
自分のつくった服を身に付けたお客さんから「ありがとう」と言われたときの感想を、元訓練生である女性は、このように話してくれました。 身に付けた技術で安定した収入を得て、自立した生活を営む。そして、自分の仕事で誰かを笑顔にする。誰かの役に立てる喜びは、紛争被害にあった人々の、傷ついた心を回復することにもつながっています。
コンゴの女性が自分の “生” を取り戻すため、自立支援を届けたい
ある訓練生は、こう語ってくれました。
「妊娠をして、家にいるしかなかったとき、周囲からは差別をされていた頃、私の人生は本当にひどく、辛いものでした。ですが今、私の人生は変わりました。子どもを育てられるようにもなっています。教わったこの技術は、私にとって本当に意味のあるものでした。
私の夢は、この覚えた技術で仕事をして、人生において明日を生き、子どもに教育を受けさせることです。自分の顔も、表情も変わってきています。サポートしてもらった洋裁の技術で、明日にも自分の家が買えると思うくらい前を向いています。本当にありがとうございます。私たちを差別した人もいましたが、その経験さえも、私を前に進めてくれています。」
こんな女性のように、過酷な紛争下で、自分の生を否定しなければならなかったひとりの人生があります。一方で、いま彼女は、手に職をつけて自分の力で、生活を、つながりを、尊厳を、自分の人生に取り戻しつつあるのです。
私たちテラ・ルネッサンスは、アフリカで紛争被害にあった一人ひとりが、自分の生をもう一度肯定できるように、彼女たちの自立を、日本からご支援いただく皆さまと一緒に、支えたいと考えています。
今なお紛争に苦しむのは、コンゴだけではありません。私たちが活動する、ウガンダや、ウガンダ北部に逃れた南スーダン難民など。紛争で家を追われ、家族を失い、体や心に深い傷を負った方が多くいます。
現在、テラ・ルネッサンスは、これらの地域で、紛争の被害を受けた方々が自立するのための活動を続けています。しかしながら、コンゴ、ウガンダ、南スーダン難民をはじめとするアフリカの支援事業(特に以下のプロジェクト)の実現のため、1,500万円の活動資金が不足しています。
事 業
紛争の影響を受けた最脆弱層女性に対するレジリエンス向上プロジェクト/コンゴ
対 象
紛争被害を受けた女性と少女280名(寡婦、避難民、孤児、高齢者、性暴力被害者など)
支 援 果物の加工(ジュース作り)、石鹸作り、洋裁などの技術支援。その後、習得技術を使って安定的に衣食住を満たすだけの収入を得られる状態になるまでを支援
一昨年、同地(カサイ地域)で紛争が勃発し、1000人以上が死亡、100万人以上が避難民となり、現地住民たちは人道的な危機に直面しています。特に紛争の影響を受けた女性の被害は深刻で、性的暴力を受けたり、夫を紛争で亡くすなどして、人間としての最低限の生活が破壊された状況にあります。
同プロジェクトでは、こうした最も脆弱な女性や少女(19%が未成年)を対象としていますが、そのうちの90%以上(260名)は、この紛争により夫や子どもなど家族を亡くしています。また、ほぼ全員が仕事もなく、収入がゼロで、衣食住さえ満たせない状況にあります。それらを鑑み、短期集中型の職業訓練を実施し、こうした女性たちがグループビジネスで最低限の収入を得て、生活を維持できる状態を目指しています。
具体的には、地元でも需要がある石鹸やパイナップルジュースを生産するための技術訓練や製品化のための技術支援を行い、その習得技術を使って、グループ毎に小規模ビジネスを運用する体制を作っていきます。最終的には、紛争や貧困、女性への暴力、政情不安など様々なリスクを抱えながらも、彼女たち自身の力で、困難に適応していく能力(レジリエンス)を高めていきたいと考えています。
※なお、このプロジェクトは、現在、当会が国連開発計画(UNDP)の実施パートナーとして行なっている事業を補完するためのプロジェクトです。
事 業
紛争被害者エンパワーメントプロジェクト/コンゴ
対 象
性暴力の被害にあった女性など、紛争被害者 200名
支 援 自給食糧の生産や、洋裁などを通じた自立支援を届けます