日弁連 災害復興支援委員会委員長 津久井進さん
復興曲線が導く支援の決め手となるのは「災害ケースマネジメント」である。
災害ケースマネジメントとは、災害によってダメージを受けた一人ひとりの被災者(被害者、避難者を含む)に寄り添い、生活全体における状況を的確に把握したうえで、それぞれの課題に応じた生活再建の計画を立て、情報提供や人的支援などさまざまな制度を組み合わせて計画を実施する取り組みをいう。分かりやすく言えば、“介護保険制度におけるケアマネジメントの災害バージョン” といったイメージである。
災害ケースマネジメントを実施するには、災害に関するさまざまな支援メニューのほか、平時の福祉メニュー等を組み合わせ、その被災者に合った効果的なパーソナルサポートをすることが必要である。
すなわち、①一人ひとりの被災者の状況の把握、②さまざまな支援施策を組み合わせた支援計画の立案、③計画に沿った支援の実施、
④金銭面だけでなく情報提供や寄り添いをはじめ、官民の壁を超えた多様なセクターの連携と関与、⑤平時の生活への連続性の確保、といったタスクをパッケージしたものを、災害ケースマネジメントと呼んでいる。
仙台弁護士会は、平成 29 年 3 月 6 日に公表した「東日本大震災から 6 年を迎えての震災復興支援に関する会長声明」の中で災害ケースマネジメントを提唱している。
この提言の背景には、石巻市における「在宅被災者」の戸別訪問支援で得られた教訓がある。
在宅被災者とは、避難所や仮設住宅に入居する典型的な「被災者」ではなく、制度から漏れ落ちて何らの支援も得られず、たとえば壊れたままの自宅で不自由な生活を送っている人々をいう。
玄関扉のない家、壁の伱間から雪が舞い込む家、床や天井がない家、壊れたトイレ、カビだらけの家など、目を疑わざるを得ない現実がある。
制度から漏れ落ちた人々を救済するには、制度の改善(≒ラインの引き直し)よりも個別対応の方が実際的であり、効果的との考えが基底にある。
制度の網から漏れた人々は、ほかにも枚挙に暇がない。
阪神・淡路大震災の「震災障害者」と呼ばれる人々は、あまりにも救済要件が厳しく限定的であるため、声を上げることさえできず、15 年間も耐え続けた。
「借上げ復興住宅」に入居する高齢者たちは入居から 20 年も経ってから明渡しを余儀なくされ、住み慣れた家とコミュニティを失い、生命の危機にさらされている。
東日本大震災では「関連死」が注目されたが、一人ひとりの死の結果は伱間に埋もれ、再発防止の教訓化さえなされていない。
熊本地震では直接死を 4倍も上回る関連死が再発してしまった。
一人ひとりを大切にするという価値観は日本国憲法が最も重要視する考えである。
憲法 13 条が規定する、個人の尊重、生命の尊重、自己決定権、幸福追求権は、いずれも一人ひとりを大切にするという理念を源泉にしている。
原発避難者に対する支援施策に欠けているのは、一人ひとりが大切にされていない点である。
そうであれば、取り組むべき課題は明らかで、一人ひとりを大切にする施策の実施である。
これを阻む壁は、一つは制度の欠落であり、二つは政府の不理解である。
そして三つは公平性を妄信する国民的愚考である。
「不公平」を持ち出して一人ひとりの違いを問題視し、あるいは、「公平」を理屈に切り捨てや打ち切りをする行政の論理を無批判に受け入れる社会実態がある。
これらと正面から闘うのも大事なことだが現実的に目の前の課題を解決していくことも大事なことである。
私は、一人ひとりに向き合う災害ケースマネジメントの実行を強調したい。