9/21(火) 6:01配信
ダイヤモンド・オンライン
新型コロナウイルスワクチンの接種が進む一方で、重篤な副反応や健康被害については慎重な調査が必要となる。中でも接種後の死亡については、その死因究明が詳細に正しく行われることが重要だ。
しかしながら、ワクチン接種後の死亡例については、そのほとんどがワクチン接種によるものなのかきちんと判定されていないままだという。
ワクチンの安全な接種にも重要な、死因究明の課題とは何か。法医学者で国際医療福祉大学医学部講師の本村あゆみ氏に話を聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
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● ワクチン接種後の死亡 ほぼ100%「因果関係」不明
9月13日政府が公表した集計によると、日本における新型コロナワクチン接種率は1回目が63%、2回目は50.9%に達している。
河野太郎規制改革担当相は今月4日、ワクチン接種について、「希望する全国民に対して11月上旬に完了する」との見通しを示しているが、ワクチンに関しては接種率を上げる以前に注力してほしい課題がある。
それは、接種後の死亡と報告された事例の死因究明だ。例えばファイザー製のワクチンについては、2021年2月17日から8月8日までに報告された991の死亡事例中、「ワクチンと死亡との因果関係が否定できないもの」は0件、「ワクチンと死亡との因果関係が認められないもの」5件、「情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの」986件で、大部分の死因はワクチン接種によるものかどうかちゃんとした判定はされていない(厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会が8月25日に公表した調査より)。
国や専門家は、「健康被害のリスクを踏まえてもメリットが圧倒的に上回る」とワクチン接種を推奨し、「健康被害が予防接種によるものであると厚生労働大臣が認定したときは、予防接種法に基づく救済(医療費・障害年金等の給付)が受けられます」と安心を強調してきたが、最悪の健康被害である死亡例については、ほとんど解明されていないのが現状だ。
救済は予防接種との因果関係が認定されなければ受けられないことを考えると、8月20日までにワクチン接種後1093人(米ファイザー社製ワクチン1077例、米モデルナ社製ワクチン16例)もの人が亡くなっているのに、救済された人は1人もいないことになる。
死因究明は、亡くなる人を減らすためにも欠かせない。
その人の体内で何が起きて死に至ったのか、またそれがワクチン接種によるものなのかどうかが分かれば、重篤な事態が生じないよう先手を打つこともできるからだ。
そういう意味では、死因究明は生きている人のための医学でもある。
そこで今回は、「法医学は、亡くなられた方の死因を究明した結果を、生きている人や社会に還元していく医学です」と語る法医学者で国際医療福祉大学医学部講師の本村あゆみ氏に話を聞いた。
● 「心不全」「心肺停止」は 状態であって死因ではない
――厚生科学審議会が公表している死因を一つ一つ見ていくと、「心不全」「心肺停止」といった、死因とするには疑問符が付くものが何度も登場してきます。専門家は、このような死因を「死因」と呼ぶのでしょうか?
厚生科学審議会の調査で死因を判断しているのは各医療機関の報告医なので、診療時の血液検査や画像検査などを踏まえて、死因を推定しているものと思われます。いわゆる通常の臨床医の死因判断です。なので、傷病名ではない「心肺停止」という文言での報告が散見されるのだと思います。
これらの報告を踏まえて、専門家がワクチン接種との関連性の有無を判断されているようですが、やはり元になる死因について解剖を含めた詳細な調査はなされていないことがほとんどで、これでは判断しようがないと言わざるを得ません。
――中には、「情報不足で判断できない」というものもかなり多くあります。行政はワクチン接種後に亡くなった人の死因究明に積極的ではないように感じるのですが、先生はどう思いますか?
ワクチン関連にかかわらず、行政においては死因究明の必要性が理解されていないのではないでしょうか。
CTその他検査で、医者が見れば死因は分かるものと思っているのかもしれません。
――では、死因究明はそんな単純なものではない?
即時型のアナフィラキシーショックはまだしも、接種後に起きる可能性が指摘されている心筋炎や血栓症は、もし病院で十分な検査を受ける間もなく亡くなってしまった場合には、外表の所見のみで診断することは不可能です。
そもそも、個別の死因のみをもって接種と死亡の因果関係を問うことは困難です。正確な情報の集積、統計を行い、平時や非接種者との比較によって、接種後の影響を判定する必要があります。
しかしながら現状では、土台となるべき死因診断が正確でない可能性があり、また情報そのものが少なすぎて、「因果関係が不明」とせざるを得ないのがほとんどという状況になっています。
例えば厚生科学審議会の資料だと、接種後の「心肺停止」が多いということになるのですが、そもそも死亡とは心肺停止の状態。その事例を検討しているわけですから、心肺停止が多いのは当たり前ですよね。検討するには、その原因を探らないといけません。
急性心不全が死因などとされているものも、中には心筋炎が含まれるかもしれない。せっかく一部の事例では病理解剖まで行って、詳細な検討の結果として例えば凝固因子欠乏※を指摘されていても、他にも同様の病態を示す事例が確認されなければ、この方だけの特異な症状ということになり、一般的なワクチンによる副反応には計上されないままでしょう。
※血液が凝固するために必要なタンパク質が著しく減少することで血が止まりにくい症状
これでは接種の安全性は十分に担保されませんし、副反応で亡くなってしまった方も因果関係不明とされたままでは、遺族にも十分な補償が行き届かないということになります。
――「パンデミック下だから仕方ない」という意見もあります。
いいえ。平時から、解剖を含めた死因調査は重要ですが、このようなパンデミック下での緊急事態の時こそ、より正確な情報収集が重要であることは明らかですし、接種後の死因調査として特別に予算や施設、情報管理システムなどの整備をするといった対応が必要です。
● 日本の法医解剖率は1.6%程度 十分な死因究明が行われない理由
――ワクチン接種と死亡例の因果関係、死因をきちんと調べるには、どのようなことが必要なのでしょうか?
やはり解剖を含めた詳細な死因調査が議論の基礎として必要です。
死因が分からない、あるいは誤解されたままでは、情報が少ないとして因果関係不明と結論付けられてしまうのも仕方ありません。
コロナではありませんが、千葉県では交通事故死亡事例について、県内の医療機関が集まってPTD(preventable trauma death:避けられた外傷死)ではなかったかどうか、専門家による調査・検討を行っています。救急隊や医療機関からの情報を基に、病院の選定は妥当であったか、診療内容は適切であったかなどを検討するのですが、やはり情報が十分でないと判断が難しくなります。
また、ごく一部では解剖検査が行われ、その結果とも照合して検討するのですが、既往症や生活状況など初療時には分からなかった情報が警察を通じて得られていますし、中には損傷の見落としによって、当初判断された死因が正確でないことが判明するケースもあり、評価の土台としての解剖結果の重要性を実感しています。
――コロナに限らず、日本では法医解剖率の低さが以前から問題になっています。現状として、警察取り扱い死体における法医解剖率は11.5%(2019年)、全死亡中では1.6%程度と、日本では十分な死因究明が行われていません。
そうですね。現在の日本では解剖を含めた死因調査自体が十全に行われているとはいえません。
法律を制定するなどして解剖を増やす努力は行政、司法、法医学各方面で続けられているところではありますが、予算も限られており、解剖率は諸外国にいまだ到底及びません。
特に、新型コロナウイルスやワクチンに関連した死亡のように犯罪による死亡が疑われない場合、ほとんどの自治体では、警察が取り扱う死体の死因調査として行われる司法解剖や死因身元調査法解剖の対象としてそぐわないことが考えられます。東京23区や大阪市など監察医制度のある地域では行政解剖を行うことができますが……。
例えば千葉県では準行政解剖として知事の権限で行う承諾解剖の制度がありますが、これは年間10件程度の予算しかないため、運用には高いハードルがあります。さらに、通常の解剖に比べて抗原検査やPCR検査、詳細な組織検査など追加の特殊な検査が多く必要となりますので、費用もかさんでしまいます。
いかなる死亡であっても、死因を正しく判断することは死者、遺族の権利であり、その情報に基づいて健康に関する施策を享受することは国民の権利です。
国はそのことをよくご理解いただき、このような新しい感染症の脅威、これに対する予防、治療の安全性、有効性をきちんと評価するためにも、改めて予算を組んで既存の行政解剖や承諾解剖を充実させる必要があります。
● 情報連携や費用に課題 解剖を増やすことはできるのか
――解剖を増やすのは難しいことなのでしょうか?
クリアすべき課題はいくつかあります。一つはお金の問題。人員や物品の確保、諸検査に必要な経費など、国で予算を検討していただく必要があります。
特に接種後の死亡についてはさまざまな要因が考えられ、アナフィラキシー、血栓症、心筋炎など、解剖でも肉眼的に直ちに診断するのは難しい病態が多く想定されます。検査も多岐にわたると考えられ、通常の解剖経費では賄いきれません。
またシステムの問題もあります。解剖の体制が整備されたとしても、情報が個々の施設や各都道府県などで保管されたままでは意味がありません。
ワクチン接種後の死亡例については厚生労働省に報告を行い、審議会での検討の俎上に乗せなくてはならないということを広く周知する必要があります。
そもそも前提として、ワクチン接種後の死亡なのかどうかが解剖時に分からないことも問題です。
接種が始まった頃、(本村氏も解剖する際に)接種と死亡の関連も考えなければと思い、解剖に搬入されたご遺体について警察官に「この方、ワクチンの接種は終わっていますか?」と聞きましたが、はっきりした返答はほとんど返ってきませんでした。
「(ご遺体発見時)部屋に接種券はなかった」程度の把握しかされておらず、行政と警察との連携、公益的な情報の共有についても整備が必要だと考えられます。
――海外では、ワクチン接種後の予期せぬ死について、どのような検証がなされているのでしょうか?
アメリカではVAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)、イギリスではMDRA(Medicines & Healthcare products Regulatory Agency)へのYellow Cardなど、各国で接種後の有害事象について報告するシステムがあり(日本でも厚生労働省に報告するところは同じ)、報告された事例について、臨床症状や検査結果、死亡例では死因を含めた検討が行われています。
調べた限りでは、コロナ禍において特別に解剖を増やして行うという報告は見られませんでしたが、死因の検討としてもちろん解剖結果は反映されています。
また、日本の監察医業務を含むメディカルエグザミナーの連合体であるNational Association of Medical Examiners(NAME)のサイトには、新型コロナウイルスワクチン接種後死亡を取り扱う際のガイドラインが出ており、「なるべく解剖してアナフィラキシーなど確認すべし」とされています。
ちなみに日本の監察医務院(東京都)、監察医事務所(大阪府)、監察医務室(兵庫県)からは特にこのような案内はありません。法医学会からも特に提言などはありません(感染者の解剖について案内あり)。会員として申し訳ない気持ちです。
そもそも日本は解剖率が低いので、どうしても死因の裏付けという点で根拠が乏しいのが問題になるかと思います。
海外のワクチン摂取後死亡の解剖例に関する論文報告では、血栓症や心筋炎が死因となった事例が提示されています。
いずれも副反応による可能性は示唆されるものの、現時点での確定は難しいようですが、これらの事例の集積、統計により今後副反応としての死因に計上されてくる可能性はあるかもしれません。
ですから、やはり詳細な死因を調査し、エビデンスとして残しておくことは非常に重要なのです。
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2019年6月6日に死因究明等推進基本法が成立し、翌年4月1日より施行されてはいるが、「死因究明ならびに法医をめぐる状況は、肌感覚としては全く変わりないです」と本村氏。潜在しているであろうワクチン接種関連死を掘り起こし、新たな犠牲者の防止に生かすことは、結果として、ワクチン接種率向上につながる。コロナ禍を機に、日本は死因究明後進国からの脱却をはかるべきなのではないだろうか。
(監修/国際医療福祉大学医学部講師 本村あゆみ)
本村あゆみ(もとむら・あゆみ)
国際医療福祉大学医学部講師、千葉大特任講師
佐賀医科大学(現・佐賀大学)医学部卒業。8年間の救命救急医勤務の後、法医に。千葉大医学部附属法医学教育研究センター助教、東京大学法医学講座特任助教を経て、2018年5月より現職。
木原洋美