今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「本は古本にかぎると私が言ったのは、昔は文字で志を述べたからである。古人は世論に異存がなければ黙っていた。どう考えても、異議があるときだけ発言した。
だから、言論は売買の対象にならなかった。百部二百部ひそかに印刷して、友人知己に献じた。今は売買が目的である。売買が目的の言論なら、迎合を事とするにきまっている。毎日新刊がなん十冊出ても、迎合すること同じなら、本は少ないほうが文化国家だ。
明治大正のころまでは、初版は五百、七百、せいぜい千冊どまりだったから、売買を考えない言論もたまにはあった。だから、本は古本にかぎると戯れに私は言ったのである。」
(山本夏彦著「茶の間の正義」所収)
「本は古本にかぎると私が言ったのは、昔は文字で志を述べたからである。古人は世論に異存がなければ黙っていた。どう考えても、異議があるときだけ発言した。
だから、言論は売買の対象にならなかった。百部二百部ひそかに印刷して、友人知己に献じた。今は売買が目的である。売買が目的の言論なら、迎合を事とするにきまっている。毎日新刊がなん十冊出ても、迎合すること同じなら、本は少ないほうが文化国家だ。
明治大正のころまでは、初版は五百、七百、せいぜい千冊どまりだったから、売買を考えない言論もたまにはあった。だから、本は古本にかぎると戯れに私は言ったのである。」
(山本夏彦著「茶の間の正義」所収)