今日の「お気に入り」は、中唐の詩人李賀(791-817)の「長安に男児有り」で始まる「贈陳商(陳商に贈る)」と題する全部で三十二行の五言長詩の初めの八行です。原詩、読み下し文、現代語訳ともに、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。
贈陳商 陳商に贈る 李賀
長安有男兒 長安に男児有り
二十心已朽 二十にして心已に朽ちたり
楞伽堆案前 楞伽(りょうが) 案前に堆(うずたか)く
楚辭繫肘後 楚辞 肘後(ちゅうご)に繫(かか)る
人生有窮拙 人生 窮拙(きゅうせつ)有り
日暮聊飲酒 日暮(につぽ) 聊か酒を飲む
祗今道已塞 祗今(しこん) 道 已に塞(ふさが)る
何必須白首 何ぞ必ずしも 白首(はくしゅ)を須(ま)たん
(現代語訳)
長安に一個の男児がいる。風貌、学問、良識、個性、どれをとってもまさに男の中の男と言っていいが、あわれ、この男、二十ですでに心朽ちていた。
若いくせに彼は楞伽経(りょうがきょう)などという難解な仏典に親しみ、詩では怪奇な幻想とはげしい悲嘆で知られる楚辞を愛した。人生はしかし才能があるからといってうまく行くとは限らない。天才でも挫折することがあり、そんなときは日の暮れ方には酒でも飲むしかない。今、その若さで彼の道はすでに塞れてしまった、滅びるにはなにも白髪頭になるまで待たなくともいいのだ。
26歳で夭逝した天才詩人の、「長安に男児あり 二十にして心已に朽ちたり」という最初の2行がとくに印象的な詩の一節です。
贈陳商 陳商に贈る 李賀
長安有男兒 長安に男児有り
二十心已朽 二十にして心已に朽ちたり
楞伽堆案前 楞伽(りょうが) 案前に堆(うずたか)く
楚辭繫肘後 楚辞 肘後(ちゅうご)に繫(かか)る
人生有窮拙 人生 窮拙(きゅうせつ)有り
日暮聊飲酒 日暮(につぽ) 聊か酒を飲む
祗今道已塞 祗今(しこん) 道 已に塞(ふさが)る
何必須白首 何ぞ必ずしも 白首(はくしゅ)を須(ま)たん
(現代語訳)
長安に一個の男児がいる。風貌、学問、良識、個性、どれをとってもまさに男の中の男と言っていいが、あわれ、この男、二十ですでに心朽ちていた。
若いくせに彼は楞伽経(りょうがきょう)などという難解な仏典に親しみ、詩では怪奇な幻想とはげしい悲嘆で知られる楚辞を愛した。人生はしかし才能があるからといってうまく行くとは限らない。天才でも挫折することがあり、そんなときは日の暮れ方には酒でも飲むしかない。今、その若さで彼の道はすでに塞れてしまった、滅びるにはなにも白髪頭になるまで待たなくともいいのだ。
26歳で夭逝した天才詩人の、「長安に男児あり 二十にして心已に朽ちたり」という最初の2行がとくに印象的な詩の一節です。