「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・01・24

2006-01-24 06:30:00 | Weblog





 今日のお気に入りは、山本夏彦さん(1915-2002)と山本七平さん(1921-1991)の対談集から。

  「 夏彦 そうそう。邱永漢氏が、そのころ人気絶頂の丸山(美輪)明宏のために銀行からおカネを借りて
    やろうとした。昭和三十何年ですよ。邱氏がいくら言っても銀行は貸さない。芸人はいくらはやって
    いても、今日あって明日ない人です。銀行がそんな人に貸すわけにいかないって言うんですよ。これ
    戦前のセンスで筋が通っています。その筋ずーっと通すならいいのに、今じゃパチンコ屋にも、サラ
    金にも貸している。

   七平 めちゃくちゃですね。『旧約聖書』にあるんですけど、そんなにカネ儲けて、どうするんだ。人
    間はそんなたくさん食えるか。大宴会をやっても自分が食うのはほんのわずかで、あとはひとの食っ
    てるのを見てるだけ。これまた空の空なり、なんてのがあるんですよね。
    だから、ほんとに必要な最小限、まあどれだけのカネがほんとに必要かというとね、人間、そんなに
    いらないんですよ。だいたい知れてるんです。そういう中にあって、もう無限にカネが欲しいという
    人ね、たとえば金権の角栄さんとか小佐野賢治さんとか、あれ、一種の天才ですよ。あんなにしてま
    でねえ。で、あれだけ手に入れたってメシが百倍食えるわけじゃないしね。大宴会やったって、見て
    るだけだしね。これ、すべて無駄だと考えたら、ま、普通の人にはできない芸当ですよ。

   夏彦 トルストイに『人はどれだけ土地がいるか』というのがありましたね。ただ角栄さんはね、おカ
    ネをとることもとったけど、散じたでしょう。使い方を知ってたと思う。おカネは散じなきゃだめで
    すね。いくら金満家でも使わなければ金持ちでもなければ何ものでもない。とにかくカネってものは
    出さなきゃだめ。僕は出さないけど(笑)。つまり、角栄さんは人がいかにケチであるか、欲ばりで
    あるかっていうことを知ってたんですね。

   七平 いかにおカネに弱いかも知ってた。

   夏彦 どんなに卑しいかってことも知ってた。

    ――田中さんからきいたのですけど権力維持のコツってのは、人が欲しがってるものを与える、女が欲し
    きゃ女、おカネが欲しきゃおカネ。それだけだっていうんです。ひょっと見てね、あ、こいつは女が欲
    しいなと思ったら、女を与える。それがわかるっていうんです。

   夏彦 みんな顔に書いてあるんですね。

   七平 きっとおでこに書いてあるんだ、カネが欲しい。女が欲しい。どんな立派なこと言っててもね(笑)。」


   (山本夏彦・山本七平著「夏彦・七平の十八番づくし」中公文庫 所収)
コメント
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