今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 生きているからといって必ずしも生きているとは限らない、死んだからといって必ずしも死んだとは
限らない。人は生きている人と死んだ人の区別をしすぎる。葬式をしないとその区別がつかないから、
あれはしなければならない儀式なのである。きっぱり区別しないと両者の仲は、誰にとっても実はあい
まいなのである。」
「 冷蔵庫のなかった昔は、魚屋は今朝仕入れた魚を売りつくして、夕方は店のたたきに音たてて水を流
して、ごしごし洗って無事一日を終った。
魚屋のあるじはあとは枕を高くして寝るばかりである。まことに一日の苦労は一日で足れりである、
明日のことは思いわずらうなとは至言である。」
(山本夏彦著「世は〆切」文春文庫 所収)