「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

オカネ ガ アリマス 2006・06・05

2006-06-05 08:35:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「オカネ ガ アリマスというコラムを書いたことがある。わが国の教育は維新で零落した士族の失地回復運動で、東大さえ出ていれば十人の、百人の、千人の支配者になれると士族の子弟は一家をあげて、東大をめざすこと今日の如くだった。武士は金銭を賤しむ風がある。したがって金銭の教育をしない。
 小学一年生の教科書にカラス ガ ヰマス スズメ ガ ヰマスと書いたら、その次にオカネ ガ アリマスと書け、二年生の教科書にはウリテ ガ ヰマス カイテ ガ ヰマス、三年生にはユウビンキョク ガ アリマス ギンコウ ガ アリマス、四年生にはリソク ガ アリマス、と書け(以下略)。
 オカネ ガ アリマスと書けばいくら一年坊主でも、それは大切なもの、しかし何となくまがまがしいものだと感じるだろう。この世は金で動いているのに金銭についてひとことも教えないのは偽善であり、わが教育の一大欠陥である。
 預貯金すれば利息がつく、ただし一割以上の利息は元も子も失うと教えれば、古くは保全経済会、近くは豊田商事以下の被害者は被害者ではない、ただの欲ばりにすぎぬと、欲ばらなかった人は笑うことができる。」

   (山本夏彦著「一寸さきはヤミがいい」新潮社刊 所収)

それにつけても、スズメの涙ほどしか利息のつかない預貯金は預貯金ではない、利息を払わないギンコウなんてギンコウじゃない、ただの金貸しだ、サラ金とおんなじもんだ。モラルもなにもあったもんじゃない。
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