今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日と同じ「『戦前』という時代」と題した昭和60年の連載コラムの一節です。
「秋田に行っても事務所が焼けないうちは出勤した。多く東京にいて時々帰った。事務所は五月下旬に焼けた。その日は横手にいたので私は真の空襲に会ってない。ただし会ってないのは私だけではない。農村とその周辺の都会の住民は会ってない。暖衣飽食している。これよりさき私は製本屋に命じてザラ紙一連で並のノートをつくらせた。帳簿用紙一連で極上の帳面をつくらせた。何百冊できたか忘れた。ザラ紙のノートは小学生の子がいる農家に手土産にした。ほかに安全剃刀の刃を何百枚も買いこんだが、これはどういうわけかついになくならなかった。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
「秋田に行っても事務所が焼けないうちは出勤した。多く東京にいて時々帰った。事務所は五月下旬に焼けた。その日は横手にいたので私は真の空襲に会ってない。ただし会ってないのは私だけではない。農村とその周辺の都会の住民は会ってない。暖衣飽食している。これよりさき私は製本屋に命じてザラ紙一連で並のノートをつくらせた。帳簿用紙一連で極上の帳面をつくらせた。何百冊できたか忘れた。ザラ紙のノートは小学生の子がいる農家に手土産にした。ほかに安全剃刀の刃を何百枚も買いこんだが、これはどういうわけかついになくならなかった。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)