今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日と同じ「『戦前』という時代」と題した昭和60年の連載コラムの一節です。
「『私は人生のアルバイト』と私は自ら称したことがあるが、爾来四十なん年いまだに身にしみない。『ダメの人箴言録』はついこの間の作だが、これは弱年のときひらめいた言葉で、『とかくこの世はダメとムダ』と昭和十三年の日記に私は書いている。『ダメの人はなさず語らず』、『ダメだダメだという奴なおダメだ』と書いているくらいだから、こうして生きているのは死ぬまでのひまつぶしだと思っていた。だから事変だといわれても関心の持ちようがない。南京が陥落したら終るだろうと皆が思うから私も思っていた。いつまでも終らず日米戦になるといわれてもまさかと思っていた。日米未来戦という小説は昔からあった。押川春浪にあった、宮崎一雨(いちう)にあった。けれどもそれは子供の読物で誰も本気にするものはなかった。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)
「『私は人生のアルバイト』と私は自ら称したことがあるが、爾来四十なん年いまだに身にしみない。『ダメの人箴言録』はついこの間の作だが、これは弱年のときひらめいた言葉で、『とかくこの世はダメとムダ』と昭和十三年の日記に私は書いている。『ダメの人はなさず語らず』、『ダメだダメだという奴なおダメだ』と書いているくらいだから、こうして生きているのは死ぬまでのひまつぶしだと思っていた。だから事変だといわれても関心の持ちようがない。南京が陥落したら終るだろうと皆が思うから私も思っていた。いつまでも終らず日米戦になるといわれてもまさかと思っていた。日米未来戦という小説は昔からあった。押川春浪にあった、宮崎一雨(いちう)にあった。けれどもそれは子供の読物で誰も本気にするものはなかった。」
(山本夏彦著「『戦前』という時代」文藝春秋社刊 所収)