「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・07・02

2013-07-02 07:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。

 「 君とまったく同じ不満を洩らした者に、ソクラテスはこう言ったものです。『外国旅行が何の役にも

 立たなかったと言って、なぜ君は驚くのかね? どこへでも君は同じ自分を引きずっていっているのに。

 君を遠くに追い出した同じ原因が、今も君を悩ましているんですよ』。
                                   『手紙』28-2」

 「 これに対し、君がこの君の悪を退治してしまえば、どんな場所の変化でも楽しくなるでしょう。世界

 の涯(はて)に追放されようが、野蛮国のどんな片隅に追いやられようが、そこでの住処(すみか)は――そ

 れがどんなところであれ――良きところとなるでしょう。重要なのは君が何者かということであり、ど

 こへ行ったかではなく、どういう者として生きて来たかなのです。だから我々はどんな場所にも自分の

 心を着けるべきではありません。どこでもこういう確信をもって生きねばなりません、『わたしはどこ

 か一つの片隅のために生れたのではない。わたしの故郷はこの全世界だ!』と。
                                   『手紙』28-4」

 「 探し求めらるべきは、日が経っても悪くならぬもの、いかなる妨害もありえぬものです。それは何か?

 心です。それも真直ぐで、善で、偉大な。それを君は、人間の肉体に宿った神という以外に何と名付

 けられますか? この心は、ローマの騎士にも、解放市民にも、奴隷にも、舞いおりることが可能です。

  なぜと言って、『ローマの騎士』とか、『解放市民』とか、『奴隷』とか、一体これは何ですか? 

 支配欲と不正から生れた名称以外の何ものでもないではありませんか。どんな片隅からでも天上へ舞い

 上がることが可能なのです。
                                  『手紙』31-11」


   (中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収)






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