今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。
「 美食は避けよ、人間をだらけさせてしまうような軟弱な幸福を避けよ。人間の運命を思い起させる
ようなことが何一つ起らないなら、人はいつも酔生夢死の状態でぼうっとしたままです。つねに窓
ガラスで隙間風から守られている人、両脚を何度でも取り替える温クッションで温められている人、
食堂は、床も壁も循環式熱風で温められている人――こんな人はほんの軽い風の一吹きでも危険に
陥ってしまうでしょう。
限度を越えたものはすべて害がありますが、わけても特に危険なのは幸福の過剰です。それは脳を
刺戟し、心を埒もない空想に誘い、正邪の境に濃い霧をひろげる。それならばいっそ、心の抵抗力
の助けによって絶え間のない不幸に堪えた方が、限度を知らぬ幸福で張り裂けてしまうより、どん
なにいいかしれないではありませんか? 満腹して腹がはじけて死ぬより、飢餓による死の方が楽
です。
『神意について』4-9・10 」
( 中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収 )