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「1.帛公ホウコウは死は畏るべし死んだなら鼠の生にしくはなしとぞ
(帛公ホウコウ略説に曰く、『伏して思ひ自ら励むに、斯の長生を以てす。
生は貪るべし、死は畏オソるべし』と。天地の大徳を生と曰ふ。
故に死人は生ける鼠に及かず。王侯為りと雖も、一日気を絶たば、
金を積むこと山の如くありとも、誰か富と為セむ。威勢イキオイ海の如く
ありとも、誰か貴しと為む。)」
「2.もどかしく思いし憶良いかにして生の尊さ言えばいいかと
(遊仙窟に曰く、『九泉下の人、一銭にだに直アタヒせず』と。孔子の曰く、
『天に受けて、変易すべからぬものは形なり、命に受けて請益すべからぬものは
寿イノチなり』と
鬼谷先生の相人書に見ゆ。故に生の極りて貴く、命の至りて重きことを知る。
言はむと欲へば言窮まる。何を以てか言はむ。慮オモヒハカらむと欲へば
慮オモヒハカり絶ゆ、何に由ヨりてか慮らむ。()」
「3.賢愚なく今も昔も関わらず歳月流れ皆嘆きたり
(惟以オモヒみれば、人賢愚と無く、世古今と無く、咸コトゴトく悉ミナ
嗟歎ナゲく。歳月競ひ流れ、昼夜息イコはず )」
「4.時なるは行きて帰らぬ川なりし悔い残さずに過ごさざらめや
(曾子曰く、『往きて反らぬものは年なり』と。宣尼の川に臨む歎きも亦是なり。
老疾相催し、朝夕侵し動サハぐ。)」
「5.(一代の歓楽、未だ席前に尽きずして 魏文の時賢を惜しむ詩に曰く、
『未だ西花の夜を尽さず、劇タチマチに北芒の塵となる』と。
千年の愁苦、更に坐後を継ぐ 詩に云く、
『人生百に満たず、何ぞ千年の憂を懐かむ。』
若夫ソレ群生品類、皆尽くること有る身を以て、並トモに窮り無き命を
求めずといふこと莫し。所以に道人方士の自ら丹経を負ひ、名山に入りて
合薬する者は、性を養ひ神を怡ヨロコび、以て長生を求む。()」
「抱朴子に曰く、『神農云く、〔百病愈えずは、安イカニぞ長生を得む〕』と。
帛公又曰く、『生は好き物なり。死は悪しき物なり』と。若し不幸にして長生を
得ずは、猶生涯病患無き者を以て福大と為さむか。今吾病を為し悩を見、
臥坐を得ず。東に向かひ西に向かひ、為す所知ること莫し。福無きこと至りて
甚しき、すべて我に集まる。人願へば天従ふ。如し実有らば、仰ぎ願はくは、
頓タチマチに此の病を除き、頼サキハヒに平の如くあるを得む。鼠を以て喩とす、
豈に愧ぢざらむや〔已に上に見ゆ。〕)」