1952年4月。6歳の春。
今日は小学校の入学式だ。同じ村にはもうひとり入学するはずの女の子がいたが、どういう訳か入学を1年遅らすという。そんなことで、村からは俺ひとりになった。
おっ母は朝から裏庭で髪を洗い、そのあと、嫁入りの時に持ってきたという古い鏡台の前に座り、少し化粧していたみたいだった。もちろん、今日はよそ行きの着物に白足袋だった。俺は去年の年末に買ってもらったこげ茶色のセーターに木綿の黒ズボンだ。
一時間近く歩いて学校に着いた。校庭の端にある桜は、今年の冬が寒かったせいか、まだちらほらしか咲いていなかった。
おっ母は知っている親らに挨拶していたが、俺はだれ一人知っているやつがおらんかったので、ちょっと心細かった。
おっ母が俺を呼んだ。「うちの子はだれ一人知っている人がおらんのでよろしくお願いします。」と、一人の隣村の親と子に引き合わせた。俺はどう言うていいのかわからず、黙って頭だけ下げた。
終戦年生まれの俺らは生徒が少なく、男が14人で女が18人しかいなかった。講堂での入学式は、白髪で立派なヒゲを生やした校長先生が挨拶し、そのあと、担任になる女先生が紹介された。
式が終わり、教科書を貰うために教室に入ろうとしたら、入り口に立っていた女先生と目が合った。女先生はにっこりと笑って俺の頭を撫でた。少し白粉の匂いがした。
眼鏡を掛けた女先生は、そんなに別嬪さんではなかったがまだ若かかった。後で知ったことだが、つい最近、苗字が変わったらしい。
知ったやつがおらんけど、若くて優しそうな女先生だから、何とか明日から学校には行けそうだ。
今日は小学校の入学式だ。同じ村にはもうひとり入学するはずの女の子がいたが、どういう訳か入学を1年遅らすという。そんなことで、村からは俺ひとりになった。
おっ母は朝から裏庭で髪を洗い、そのあと、嫁入りの時に持ってきたという古い鏡台の前に座り、少し化粧していたみたいだった。もちろん、今日はよそ行きの着物に白足袋だった。俺は去年の年末に買ってもらったこげ茶色のセーターに木綿の黒ズボンだ。
一時間近く歩いて学校に着いた。校庭の端にある桜は、今年の冬が寒かったせいか、まだちらほらしか咲いていなかった。
おっ母は知っている親らに挨拶していたが、俺はだれ一人知っているやつがおらんかったので、ちょっと心細かった。
おっ母が俺を呼んだ。「うちの子はだれ一人知っている人がおらんのでよろしくお願いします。」と、一人の隣村の親と子に引き合わせた。俺はどう言うていいのかわからず、黙って頭だけ下げた。
終戦年生まれの俺らは生徒が少なく、男が14人で女が18人しかいなかった。講堂での入学式は、白髪で立派なヒゲを生やした校長先生が挨拶し、そのあと、担任になる女先生が紹介された。
式が終わり、教科書を貰うために教室に入ろうとしたら、入り口に立っていた女先生と目が合った。女先生はにっこりと笑って俺の頭を撫でた。少し白粉の匂いがした。
眼鏡を掛けた女先生は、そんなに別嬪さんではなかったがまだ若かかった。後で知ったことだが、つい最近、苗字が変わったらしい。
知ったやつがおらんけど、若くて優しそうな女先生だから、何とか明日から学校には行けそうだ。