無宿者タローが今日もやって来る。これはもう彼の日課になっているようだ。三箇所に分けてある猫たちのものまできれいに舐めて・・・・。帰りがけ門のところで立ち止まっては、何度も僕の方を振り返る。まるで礼を伝えているような穏やかな眼だ。部屋の中から僕は手を振ってやる。丸一日やって来ない日があると、妻は気が気でないらしい。誰かに通報されて野犬狩りに遭ったのではないか、車に撥ねられて怪我しているのではないか・・・と。昨日は、犬猫大好きの妻の友人が15キロものドックフードを届けてくれた。その人は里山に住んでいて、熊よけの為に大きなセパードを飼っている。警察犬訓練から外れたもので頭が悪く、しつけに難儀している。
深夜、東北自動車道路を走っていてラジオをかけると、念仏唄(御詠歌)が流れてきた。陰々と心に沁みるその唄を聴きながら母を想い出していた。あの時も近所の婆たちが集まって念仏唄をやってくれた。意味はよく判らないが、その響きに少年ながら不思議な安息を覚えた。今、そのときの思いが蘇えってくる。深く深く沈んでいくような韻律に、なにやらとてもありがたい気持ちにさせられて、車のスピードを緩める。やがて長い曲が終りDJの語りになるが、なんと!今の曲はノルウエーの漁師たちの民謡であった。