私たちの国における国内総生産の約60%を個人消費が占めるという。その肝心の個人消費が低迷しているのだから景気が上向かない。
何故、上向かないのか。安倍首相は、昨日の記者会見で有効求人倍率が高い水準となっている。正規雇用が増加に転じている。大学生の就職率が過去最高になったなどと、アベノミクスは順調に結果を出していると胸を張った。
しかし、厚労省が5月20日に発表した2015年の毎月勤労統計調査によると、物価変動の影響を考慮した実質賃金指数は5年連続マイナスとなっているのだ。そうそう浮かれて買い物を楽しむわけにはいかないだろう。
何より、庶民の財布の紐が堅いのは、年金や介護保険等のこの国の社会保障制度に対する根深い不信感があるからだと考える。
若いうちには、結婚、出産、育児、子供の教育等々、また、中年以降からは、老後の様々なリスクを回避するため、人々は個々で生活設計を立てなければならない。政府がいくら笛を吹こうが庶民は、そうそう能天気に踊るわけにはいかない。
そんな中、2014年4月に消費税率がそれまでの5%から8%に引き上げられたところで、庶民の危機感は一気に高まり、財布の紐はすっかり堅くなってしまった。これが10%にでも引き上げられたら財政出動も何もあったものではないだろう。
しばしば、ヨーロッパの消費税率の高さが引き合いに出されるが、高福祉と経済成長を両立させているスウェーデンの例にみられるよう、その背景が全く異なるのだから同等には論じられない。
社会保障のための財源を、低所得者の負担が大きい消費税で賄うのではなく、所得再分配政策、つまり、税制等で高所得者から低所得者へ富を移転させる経済政策をとるべきだとの声もある。
だが、あれだけ明確に消費増税を約束していた総理大臣が選挙で負けるのが怖くて、消費税率を上げられないのに、お仲間の、強力な支持母体である富裕層から反感を買う政策をどうして実行できようか。
昨日の記者会見で安倍首相は「20年度の財政健全化目標はしっかりと堅持する」と明言した。「財政健全化」の言葉が虚ろに響く。