長期山行から帰ってきてまた日常が戻ってきて、なんだか気が抜けてしまった。
山へ登る、それも雪山となるとそれなりに危険も伴うし、弛緩した普段の生活とは違う緊張感が刺激ともなって美しい雪景色をより一層堪能できる。日常生活の中ではそうそう刺激的なことはあるわけもなく、山にいる間の高揚した気分は得難く楽しいものだ。
本を読む、音楽を聴く、映画や芝居を観るなども嫌いではないのだが、どれもいわば受け身の趣味で最近はあまり夢中になれない。自分で計画し体力と技量と相談して山に登り、下りてくることに比べればやはり物足りない。しかも最近は芝居のセリフを聴き取るとか字幕を読むといったことに集中力がなくなってしまいふと気が付くと睡魔に負けてしまったりする。これも老化現象か。
と思いながらも映画を観た。せめて記録しておくことで老化に逆らわねば。
「あなたを抱きしめる日まで」、ロマンチックな話ではなく実話を基にしたつらいが救いもある話。
アイルランド人のフェロミナは今は娘とイギリスで暮らしているが十代のころ故郷で子供を身ごもり、家庭から出され修道院に預けられる。そこで息子アンソニーを出産するが修道院は子供たちを金銭で養子に出してしまい、アンソニーも3歳の時にもらわれていってしまう。その後も消息は不明のまま息子は50歳の誕生日を迎えているはず。そのことを娘に打ち明けると娘はなんとか消息を探してやりたいと、たまたま知り合った失業中のジャーナリスト、マーティンに相談する。
政治が専門のマーティンは社会面に載るような記事を書くことをよしとしないが、記事にすることを条件にしぶしぶ調査を引き受け、フェロミナに同行してかっての修道院を訪れるが情報は得られない。その後、アメリカ人にもらわれたことを頼りに2人でアメリカに行くと意外に早く消息がわかる。しかしすでに息子は死亡していた。落胆するフェロミナだがかっての息子の恋人から思わぬ話を聞いて心の平安を得るのだった。
知識階級のマーティンは庶民的なフェロミナと肌が合わず2人の道中がなんとなくギクシャクするところに思わずクスリとしてしまう。それにしても中絶を許さないカトリック修道院が母親と子供をいとも簡単に引き裂くというのもなんだかなぁ・・・。