何年か前に南アルプスの塩見岳に登るため、登山口の大鹿村に1泊した。ずいぶん山深い村だが、のどかで、こんなところに住むのも悪くないと思わせるところだった。その大鹿村が舞台の映画ができたということでさっそく観にいった。
村でジビエ料理店を営む原田芳雄扮する店主のもとに、出奔していた妻とその相手である店主の親友が突然舞い戻る話。村では毎年農村歌舞伎が上演され、その稽古の真っ最中。さらにはリニアモーターカー誘致の話などが絡むが特に大きな事件が起こるわけではない。ちょっとしたすったもんだの末、無事歌舞伎は上演される。店主と妻とその相手の三角関係はどうなっていくのか気になるがところだが、生臭い話にせずなんとなくカラッと終わっている。脇役として岸部一徳、石橋蓮司などひとくせありそうな豪華な面々がそろっているのも魅力。いわばプロの役者が素人歌舞伎を演じるのだが、実際に村で演じている人にダメだしをされたりもしたというのが面白い。
大鹿村のHPで見ると、人口は1200人足らずのようだが、歌舞伎という伝統芸能を連綿と伝えているということがすごい。過疎化で演じ手がいなくならなければいいのだが。
妻の出戻りに当惑する主人公を好演していた原田芳雄が、封切り直後に亡くなってしまったのが信じられない。人間の命はわからないなぁ。