旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

トロッコ電車とホタルイカ釜飯と幻の瀧と 黒部峡谷鉄道を完乗!

2023-10-28 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

重連のEDR形がマッチ箱のようなトロッコを連ね、橙の長大編成同士が行き違う。
機関車に「宇奈月ゆ」と金文字のヘッドマークが誇らしい。

黒部峡谷の入口に建つ山岳リゾートホテル風の宇奈月駅から、トロッコ電車の旅は始まる。
ますの寿司と缶ビールを買い込んだら、人波に流されて足早にホームへと進む。

クリームとマルーンに塗られたレトロ調は、ちょっぴりゆったりとしたリラックス車両。
開閉可能とは云え窓付きの車両は、こんな暑い日には風通しが悪くてミスチョイス。
ところが復路は夏の雷雨に見舞われて、この車両で事なきを得たから分からないものだ。

宇奈月駅を発ったマッチ箱たちは直ぐに真紅の新山彦橋を渡る。
渓流からの高さは約40m。ゴーっと列車が鉄橋を鳴らす音がやまびこのように響く。

続いて現れるエメラルドグリーンの「うなづき湖」は宇奈月ダムの完成で生まれた比較的新しい人工湖。
ところで車窓を案内するナレーションは室井滋さん。一緒に旅してくれる彼女は富山県出身だそうだ。

プシュッと “アルト” を開ける。ホップの苦味が効いた黒褐色のビールが美味しい。
宇奈月麦酒は地産の大麦と黒部川の伏流水で醸したまさに地ビールだね。
アテに抓んだ “ますの寿司” は炙ったやつが美味。これは良いね。

鷲羽岳に源を発した黒部川は、切り立った深いV字峡を刻んで、3,000mの標高差をたった85kmで下り切る。
車窓の手つかずの大自然と絶景の渓谷美は、案外トンネルやスノーシェッドが続いて、シャッターが難しい。

宇奈月からゆるりと1時間20分、橙のマッチ箱たちは黒部川に絡みながら、20キロを道のりを走る。
本来電源開発のための資材運搬用だったトロッコ電車は、多くの観光客を乗せて欅平に終着した。

さて、欅平での2時間をどう過ごす?。河原展望台で足湯に浸かって猿飛峡をめざすか、
人喰岩を抜けて名剣橋を渡り祖母谷温泉(ばばだにおんせん)をめざすか、呑み人は後者を択ぶ。

黒部川の本流にかかる朱色の奥鐘橋を渡る。高さ34mからの景色はなかなか迫力がある。
でも、祖母谷温泉までの片道40分はただ汗をかくだけだったかなぁ。
途中の名剣温泉で蕎麦をいただくか、河原展望台で足湯に浸かるのが正解だったかも知れない。

宇奈月駅の近くに釜飯やおでんが人気メニューの食事処「河鹿」がある。
もちろん富山の地酒もあるだろうからと、開店の17:00に飛び込むのだ。

大きなおでん鍋を前にしたカウンターに座ったら、先ずはスーパードライを注文。
冷たいゴールドの液体が喉を鳴らして、んっ美味い。アテは “昆布巻きかまぼこ” だ。

“白海老の唐揚げ” を抓みながらおでんの具を品定めする。これってなかなか楽しい時間なのだ。
サーバーと一体になった冷蔵庫から “幻の瀧” を注文、黒部川が富山湾に注ぐ生地(いくじ)の酒だ。

たまご、焼き豆腐、車麩、つぶ貝を青磁に盛って、富山らしい “おでん” が登場。
洒落た一合徳利から純米吟醸を注いでキュッと一口、米の旨みを感じるスッキリした酒が旨い。

甘みのある油揚げと絡んで三つ葉を散らした “ホタルイカ釜飯” が登場する。
このホクホクを噛み締めながら、黒部峡谷鉄道で呑む休日は、温泉の町で更けていくのだ。

黒部峡谷鉄道 宇奈月〜欅平 20.1km 完乗!

<40年前に街で流れたJ-POP>
ギザギザハートの子守唄 / チェッカーズ 1983


Biz-Lunch 伊東食堂@東池袋「カツ丼カレー」

2023-10-25 | Biz-Lunch60分1本勝負

カレーの海にトロり玉子でとじたカツ丼の島を浮かべて “カツ丼カレー” が登場。
ちょっとオヤジにはカロリー過多と分かりつつも注文せずにはいられなかった。
ご飯にたっぷりルーを絡めてひと口、っとなんだか懐かしくしっくり来る味だ。
お袋のカレーとはちょっと違うかな。学食のカレーを彷彿させるのは味噌汁が付くから?
いやスキー場(ゲレ食)のそれか。よく分からないけど、庶民のカレーなのは間違いない。美味しい。

東池袋四丁目電停にほど近い、昔ながらの商店街に、東京大空襲を越えて創業90年を誇る食堂がある。
「デカ盛りの聖地」と云われる店には、壁一面にメニュー札が貼ってある。
定食メニューは日替、魚、揚げ物、ハンバーグ、それに丼もの、さらにカレーとのコラボがあるから豊富だ。
リーチーンクーラーにはずらっと新潟の地酒が並んで、居酒屋タイムをも期待させる。
こんな庶民的な定食屋+居酒屋を開拓して、これからの池袋オフィス訪問に楽しみが増えたね。

<40年前に街で流れたJ-POP>
あの娘 / 中島みゆき 1983


蜃気楼の海とアルペン特急と剱岳と 富山地方鉄道・本線を完乗!

2023-10-21 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

轟音をたてて布施川橋りょうを渡るのは、宇奈月温泉発、立山行きの “特急アルペン2号”。
何処かでお会いしましたっけ、そう西武鉄道を走っていたレッドアローの車両だ。

まだ真夏日が続いている頃のお話、早朝、ホテルのベットを抜け出して富山駅にやって来た。
まだ灯っている「電鉄富山駅」のサインが新幹線ホームのガラス壁面に映り込んでいる。

週末の富山06:40発の普通111列車は、“特急アルペン” の送り込みで、特急車両で運用される。
懐かしのレッドアローで、富山地鉄本線で呑む旅に出る。

いかにも水戸岡鋭治氏らしい車両は、木をふんだんに使ったインテリアで温かみと高級感に溢れている。
外向きのカウンター席に座ったり、コンパートメントシートに座ったり、空いているから自由自在だ。

カポッと “剱岳”。コクのある特別本醸造と、なとりの “チータラ・ピスタチオ” がいい感じだ。
車窓を流れる、時間が止まったかのような、週末の田園風景を眺めながらの一杯なのだ。

せっかくのラグジュアリーな観光列車だけど、ワンカップも空いたことだし、電鉄魚津で降りてしまう。
せっかくの富山だから、海も眺めておきたい。

どこまでも穏やかに碧い富山湾、左手で腰を抱き込むように能登半島が伸びている。
ここは蜃気楼展望の丘、3〜6月には幻想的な蜃気楼を鑑賞できるベストスポットだ。

少々南に歩を進めると魚津漁港が掘り込まれている。
漁船が出払った長閑な港には、カモメに混ざってサギも舞い遊んでいる。

不釣り合いなと云ったら失礼だこど、洒落たミントグリーンのレストランがある。
漁協直営の「魚津丸食堂」で静かな海を眺めながら、キリンラガーをグラスに注ぐ。

富山湾で獲れた旬の海の幸を、刺身にして、フライにして、満足なブランチが楽しい。

富山湾や清らかな水をイメージした青は、J3に所属するカターレ富山のチームカラー。
このカターレ富山をラッピングした14760形は富山地方鉄道のオリジナル車両。
鉄道友の会より贈られるローレル賞を受賞した車両はすでに不惑を迎えている。

河原の丸石を積み上げたホームにプレハブの待合室をちょこんと載せた長屋駅。
この旧い駅には対照的な真新しい広告版が立っている。「振り向けばギンバン」だって。

っで、振り向くと田圃の中に銀盤酒造、実はここ、朝っぱらの車中酒 “剱岳” の蔵元なのだ。
酒蔵の前では、黒部川扇状地湧水群の一つ「箱根清水(はこねしょうず)」が湧く。なるほど納得だ。

長屋駅のひとつ先は新黒部駅。たぶん富山地方鉄道では、最も新しい駅ではないだろうか。
新黒部駅は北陸新幹線を降りた乗客を宇奈月温泉へと誘うのだ。

県道を挟んで反対側の巨大な構造物は黒部宇奈月温泉駅、暫し “はくたか” でやってくる連れを待つ。
駅前広場には黒部川流域の電源開発のために活躍したED8号電気機関車と客車が展示されている。

富山地鉄本線の旅のアンカーKU21列車がやって来た。
オレンジとレッドのツートンに鳩マーク、まさに京阪特急だね。関西から来た方、懐かしいんじゃないかな。

左手に黒部川を見て、京阪特急は関西では経験しないような急勾配を、甲高い金属音をたてて走る。
特急扱いのKU21列車は、所要17分、ノンストップで宇奈月温泉まで登り切った。
何人かのご同輩が京阪特急にシャッターを切る終着駅。ほら、やっぱり懐かしいでしょう。

山小屋風の駅舎の階段を降りると温泉噴水、がっ迂闊に手を出してはいけない。これかなり熱い。
思いがけず西武特急と京阪特急に乗った富山地鉄本線の旅は、温泉噴水の洗礼を受けてここに終わる。
さてと、缶ビールを買い込んだら、次は黒部峡谷鉄道で呑む旅が始まるのだ。

富山地方鉄道・本線 電鉄富山〜宇奈月温泉 53.3km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
瞳はダイアモンド〜Diamond Eyes〜 / 松田聖子 1983


ご当地旨ラーメン事情 富山「まるたかや」

2023-10-18 | 旅のアクセント

醤油をベースにした真っ黒なスープは想像以上の黒、勧められた太麺を択ぶ。
レンゲで真っ黒をひと口、こっこれは辛いというか塩っぱい。
しょっぱいスープを絡めた太麺をズズッと啜って、美味い、いやビミョーだな。
いや、食べるにしたがって「これは美味い」の暗示にかかってくる。きっと遠からずまた食べたくなる。

戦後復興期におにぎりやドカ弁を持ち込む労働者たち、そのおかずになるようなラーメンなのだそうだ。
この手の話はよく聞く。三条のカレーラーメン、太田の焼きそば、みな高度成長期の産物だ。

ご機嫌な時間を過ごした酒場を後にして、電車通りを渡って城址大通りに出る。
賑やかな交差点の角に「富山ブラックラーメン」の幟がはためいている。入ってみようか。
地酒が並んでいるし洋酒のボトルも逆立ちしている。おでんが煮えているし、かき氷のメニューもある。
いったい何屋さん?でも厨房を囲むカウンターはラーメン屋のそれだなぁ。
なんだか混沌としていて、それでも昭和27年創業の老舗ラーメン屋での一杯なのだ。


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<40年前に街で流れたJ-POP>
月夜に気をつけて! / 中原めいこ 1983


積翠城と鶏ちゃん焼きと三千盛と 越美南線を完乗!

2023-10-14 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

長良川鉄道の看板列車「ながら」が北濃に向けて出発して行った。ディーゼルの匂いが残り香のよう。
深紅に輝くこの「清流レストラン」には一度は乗って食べて呑んでみたいものだ。

峠を歩いて越えてきた訳ではないけれど、ここは越美南線の終点北濃駅。
きょうは越美北線の旅を引き取って、長良川鉄道で呑んで旅する休日だ。

北濃駅に迎えにきてくれた600形は昨年デビューしたピチピチの新潟美人(新潟トランシス社製)だ。
旧国鉄の急行色に着飾った姿が旅情を誘う。

越美南線はその総延長のほとんどを清流長良川に沿って走る。風光明媚な景色が流れる車窓が楽しい。
ガリ釣りが解禁になって、清流には腰まで浸かった名人たちが鮎竿を操っている。

清流と一緒に流れて45分、新潟美人は郡上踊りと清流と名水の城下町に差し掛かる。

木造平屋建ての郡上八幡駅は昭和4年の開業当時のもの。
ちょっとモダンで愛らしい駅舎に、ガス灯、バス停、郵便ポストそれに電話ボックス。んっいいね。

宮が瀬橋から長敬寺へ向かう本町・鍛冶屋町・職人町の古い町並みを歩く。
間口2問と狭く奥に深い造りはどこか京都に似ている。大火を経験した町並みは隣家との境に袖壁をもつ。
風に揺れる郡上踊の提灯の向こうに白亜の天守閣が見える。

郡上八幡城(積翠城)は市街地の北東にそびえる八幡山にある。
天守は大垣城をモデルとした模擬天守だそうだから、史実を反映していないものなのだろう。
それでも1933年(昭和8年)に建てられた木造4層だから、すでに立派な文化財かも知れない。

噴き出る汗を拭いつ宮が瀬橋まで戻る。こうした旅で得た教訓、観光地でのお昼は開店時間に飛び込め!
11:00、吉田川を見下ろす「そばの平甚」に収まる。オーダーする頃には店内は満席だ。
陶のグラスに冷たい “黒ラベル” を注いでグッと呷る。美味いね。アテは “そばの実おろし” これが良い。

ほどなく “飛騨牛ランチ” が登場。清らかな水で打った二八も食べたいし、飛騨牛丼も食べたい。
ビールのアテに出汁が染みた飛騨牛を抓んだら、冷たい蕎麦を出汁にさっとくぐらせてズズッと啜る。
いやぁ美味いな、ささやかに幸せだなぁ。

店を出て小さな路地を下ると、古い町並みに並行して流れる小駄良川が飛沫をあげて吉田川に注いでいる。
なんとも涼やかで良いね。しばらく清水橋の日陰に入ってこの飛沫を浴びていたい。

「宗祇水(そうぎすい)」は水の町郡上八幡のシンボル。
この湧水は室町時代にこの地を訪れた連歌師 宗祇の名に由来する。
今宵は「宗祇水神祭」らしい、湧水に奉献酒を冷やして準備は万端だ。

ヘッドライトが煌めいて、13:27発の美濃太田行きがやって来た。
深紅の500形502号は観光列車「ながら」仕様、オールロングシートだけどね。

「ながら」は相変わらず長良川とランデブー、数えたのが確かなら8つの鉄橋がこの川を跨ぐ。
途中、色とりどりのカヌーやカヤックを追い越して濃尾平野をめざす。

大矢駅では臙脂色の下り列車と行き違い、1両と1両が千鳥式に向き合って、片田舎の長閑な交換風景なのだ。

深紅の「ながら」は、梅山駅で長良川に別れを告げる。
せきてらす前駅で90度の転針をすると中山道太田宿へと向かう。

中山道51番目の太田宿は飛騨街道と郡上街道が分岐してX字を描く交通の要衝。
鉄路も高山本線に越美南線が合流し太多線が分岐する。現代でも要衝であることに変わりはない。

夕暮れから激しい雷雨に見舞われた。稲妻が閃光してドカンドカンと付近に落雷する。
それでも間隙をついて駅前の雑居ビルに飛び込む。ローカルな酒場で地酒を愉しみたい。
とりあえずの生ビールにアテは “久田見油揚げ”、分厚い三角の油揚は食べ応えあり。生姜醤油で美味しい。

高山本線で飛騨川を遡ると2つ目の中川辺に白扇酒造がある。
“花美蔵 岐阜九蔵” は風格のある濃厚な酒だ。たっぷりのおかかと黄身を落とした “まぐろ納豆” が嬉しい。

岐阜ケンミンのソウルフード “鶏ちゃん焼き” は、漬け込んだ鶏肉と野菜たちにニンニクが効いて美味しい。
二杯目は多治見の “三千盛”、本来刺身や繊細な料理にあう大吟醸だけど、この辛口は濃い料理にも負けない。

越前と美濃を結ぶ幻の越美線の旅を終えて、岐阜の地酒でほろ酔いになっている。外はいまだに雷鳴が轟く。
ヤンキーな兄さん姉さんに囲まれ、紫煙の煙に燻されて、美濃太田の夜はふけゆくのだ。

長良川鉄道・越美南線 北濃〜美濃太田 72.1km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
GOOD BYE青春 / 長渕剛 1983


きょうの常盤食堂「やきめし」

2023-10-11 | Biz-Lunch60分1本勝負

サラダを添えて “やきめし” が登場。敢えてお品書きにこう称するのは老舗の矜持か。
シルバーにナプキンが巻かれているのが、なんだか懐かしい気持ちにさせる。
パラパラな中華のチャーハンに対してしっとりしている。出汁が効いている?玉子を最後に加えるから?
やきめしにしてもカレーライスにしてもボクは蕎麦屋のそれが案外好物なのだ。

ここは宿場町であり、徳川家康の民情視察を兼ねた鷹狩りの際の御殿址がある。
昭和初期まで「二七の市」が立った。大根やら白菜やらを売る農家のお母さんのモニュメントもある。
こんな旧い街の大衆食堂で、タマネギの甘みを噛み締めながら “やきめし” が美味しい。

<40年前に街で流れたJ-POP>
恋 / 石川ひとみ 1983


フクイサウルスと一乗谷遺跡と花垣と 越美北線を完乗!

2023-10-07 | 呑み鉄放浪記

切欠き式の2番ホームに朱色のキハ120形気動車が低くエンジン音を響かせている。
1番線に停車した金沢行きの特急が出てしまうと、朱色の気動車はまた一人ぼっちだ。

どこからか咆哮が聞こえてくる。
駅前広場に出てみると、肉食恐竜のフクイラプトルが、草食のフクイサウルスを威嚇している。
きょうは恐竜たちが跋扈する福井から越美北線に揺られて呑む休日なのだ。

09:08、朱色の気動車は身震いひとつ、たった一人の旅が始まる。
そんな寂しい旅立ちとは裏腹に723Dは軽快なスピードで走り出す。最初の1区間は北陸本線を走るからだ。

止まってしまうのかと思うほどの減速をして、723Dはガタガタと転線する。
W7系の試運転が始まった北陸本線の高架を潜ると越前花堂駅、ここが越美北線の起点になる。

越前花堂駅を出た途端に左右は田園風景に変わる。
刈り入れを待つ黄金色の田圃に混じって、白い蕎麦の花が揺れている。

せっかくボックスシートに掛けたけれど、10分少々で屋根もない小さな駅に途中下車。
ここは一乗谷、朱色の気動車を見送ると、この駅には不釣り合いに近代的な建物に気が付く。
昨秋開館した「一乗谷朝倉氏遺跡博物館」が朝倉氏の栄華を偲んでいる。

博物館の見学は後回しにして、玄関前から無料シャトルに乗車すると10分で復原街並みに案内してくれる。
400年の時をこえて蘇った城下町、色褪せた暖簾がひるがえる商家を冷やかしながら歩く。
大河ドラマに出てくるような町娘が茶を勧めてくれたりして、自分がどこにいるか怪しくなってくる。

かつてこの町並には白戸家のお父さんが帰省してきたり、ウルトラマンが郵便配達をしていたという。

一乗谷の中心部の朝倉館跡、東側後背には山城、他の三方を土塁と濠で囲んでいる。
館跡の唐門は義景の菩提を弔う松雲院の寺門で、豊臣秀吉が寄進したものと伝えられる。

遺跡を貫く一乗谷川の畔に瀟洒なレストラントでブランチ。
竹かごに色鮮やか小鉢を並べた “饗膳KYOZEN” は、福井の野菜や魚介を厳選したメニュー。
福井サーモン、焼きサバ、里芋の煮付け、これは上品なアテになるね。冷たいビールをいただこう。

〆はには当然の “越前そば”、これから訪ねる大野産そば粉というから嬉しい。
おろし汁をぶっかけたら、歯応えのあるそばをズズッとやる。天ぷらを齧りながらね。美味い。

昼過ぎの陽が照りつけるホーム、カンカンと警報機が鳴り始めて、ガタゴトと気動車がやってきた。
朝倉氏の「三つ盛り木瓜」も誇らしげに、黒・赤・金をベースカラーとした「戦国列車」だ。
サイドは乱世を駆け抜けた武将たちのシルエットを描いた豪華なデザインになっている。

一乗谷を出た725Dは直ぐに足羽川を鉄橋で渡って、しばらくはこの水辺とのおつき合いになる。
川原や田圃にはシラサギやアオサギが遊んで、車窓を長閑な風景が流れていく。

上下線が交換する美山駅では多少の乗降客があった。この日はマルシェが開催されているらしい。
小さなピークを越えると725Dは大野盆地へと降り始める。こんもりした亀山(249m)に大野城が見えてきた。

越前大野は名水の町、お殿様の御用水「御清水(おしょうず)」をはじめ、町中には湧水地が点在している。
古くから豊かな水に恵まれた越前大野だから、美味い地酒にも期待しちゃうね。

まずは越前大野城に登ってみる。
亀山に築いた城郭には望楼付き2層3階の大天守と2層2階の天狗櫓、石垣は野面積みだ。
天正3年(1575年)、織田信長の武将金森長近は一向一揆を収束させ大野郡を拝領した。
ほどなく盆地中央の亀山に平山城とその麓に短冊状の城下町を開いたのだ。

天守から天狗櫓越しに越美国境の山々を望む。この山ふところにもう少し越美北線の旅は続く。
近ごろ越前大野城は「天空の城」とプロモーションしている。
展示写真を観ると、なるほど町を包み込む雲海に浮かび上がる天空の城 越前大野城は幻想的で美しい。

城下の南部酒造場は享保18年(1733年)の創業、酒造りは明治の世になってからだとか。
この蔵が醸す「花垣」は呑み人が好きな銘柄の一つでもある。

「戦国列車」が越美北線の旅のラストスパートを担う。終点九頭竜湖までは20キロ、約40分の旅になる。

キハ120形には4つのクロスシートがあって、窓枠の下から大きめのテーブルが張り出している。
それではと遠慮なくショルダーバックからMy猪口を取り出して、キュッと “花垣” の生酒を開ける。

越前大野から終点までは九頭竜川と絡む。柿ヶ島駅を目前に渡る白いトラス橋が第一橋りょうだ。

第二橋りょうから見る九頭竜川の渓谷は深く狭隘になっている。
鉄路で越えられる限界が近づいていることを感じさせられる。

この先の越美北線は、荒島トンネル(5,215m)と下山トンネル(1,915m)と直線的なトンネルで
深く狭隘な谷と勾配を躱わしながら県境へ向かって延びているのだ。

トンネルを抜けた鉄路がR158と並んで左に90度の弧を描くと、行手にXの標識が見えてくる。
ほどなく「戦国列車」はブレーキ音を響かせて、いかにも終着駅らしい単式ホームにたどり着く。

駅舎はリゾートをアピールするかのようなログハウス風で、よく似た「道の駅九頭竜」と並ぶ。
そしてここにも恐竜の親子が時を告げる咆哮を響かせている。

かつて岐阜県と福井県を結ぶ計画だった越美線は、国鉄の赤字が膨らみ繋がることはなかった。
未成区間の九頭竜湖〜北濃(長良川鉄道)は、8kmの徒歩山越えを挟んで2つのデマンドバスで踏破できるが・・・
とりあえず、北に残された越美北線の旅は、恐竜の出迎えを受けてここに終わるのだ。

越美北線 越前花堂〜九頭竜湖 55.1km 完乗!

<40年前に街で流れたJ-POP>
SOMEDAY / 白井貴子 1982


駅そば日記 福井•今庄そば「冷やし梅昆布そば」

2023-10-04 | 旅のアクセント

ぶっかけタイプのいわゆる “越前そば” に梅肉ととろろ昆布をのせて、んっ暑い日には堪らんね。
殻まで挽いた田舎そばは黒っぽい色合い、やや太い歯応えのある蕎麦は、啜るというより噛んで食べる。
おかか、昆布、梅肉と、箸で掴むとところで味変を楽しんで、冷たいぶっかけそばが美味しい。

コンコースに構える立喰の店には老若男女が列して、首都圏の駅そば店とは趣がちがう。
そんな立喰いスタイルは、今や福井駅と武生駅にに残るのみだとか。
来春には “かがやき” がここまで伸びるから、手軽に “越前そば” を試したい。
おっとなにやら外では恐竜が吠えているね。

<40年前に街で流れたJ-POP>
Lucky Lips / 早見優 1983