旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

甲州道中紀行7 黒野田宿~笹子峠~駒飼宿・鶴瀬宿~勝沼宿

2016-06-25 | 甲州道中紀行

 

08:15 「黒野田宿」
 笠懸地蔵は天保の大飢饉による窮乏を村人たちが心願したものだそうだ。
前回、彼に会ったのは、霜が降りる12月末のこと。
30度の夏日が予報される今日、半年ぶりに甲州道中は黒野田宿に戻ってきた。
立派な門を残す天野本陣跡を発って、これから笹子峠を越える。 

 

 黒野田一里塚の「江戸日本橋ヨリ二十五里」碑があるのは、臨済宗妙心寺派普明院。
境内には芭蕉句碑「行くたびに いどころ変わる かたつむり」がある。
国道20号線の右手岩上に、南妙法蓮華経題目碑や馬頭観音が祀られる石仏石塔群がある。
宝暦5年(1755年)のものだ。 

 

国道を挟んで庚申塔と馬頭観音が花に囲まれている。
安政3年(1856年)建立の背の低い常夜燈には、秋葉山、愛宕山と刻まれている。 

 

 国道20号線から今や県道となった旧国道に入る。笹子峠へと向かう新田沢沿いの道だ。
更に古い石橋の美久保橋を渡った辺りで、甲州道中の峠道「笹子峠自然遊歩道」に入る。
先程から視線を感じていたのだが、カサカサと落ち葉を鳴らして野猿が山肌を上っていく。
野猿くらいならご愛嬌だが、熊と遭遇するのは御免被りたい。
独り歩きなのでiPhoneでBGMを鳴らす。結構臆病なのだ。

      

09:20 「矢立の杉」
 樹高約28m、根回り14.8m、の巨樹がある。
「甲斐叢記」には、出陣する武士がこの木に矢を射立てて戦勝を祈ったと記されている。
広重や北斎も描いている。どこかで見覚えがあると思ったら、“笹子餅” のパッケージだ。
なんでも矢立の杉の麓で “峠の力餅” として売っていたそうだ。

      

 矢立の杉を過ぎると尾根道となる。それにしてもきつい。100mほど登ってはひと息つく。
参勤交代はどうやって越えたのだろう。藩主や姫御前の輿なんか上れる筈はない。
戦に向かう馬だって引かなきゃ無理だ。絶対に。

09:45 「笹子隧道大月口」
 昭和13年に竣工した笹子隧道。
両脇の2本並びの柱形装飾など、建築的な装飾を用いたデザインに特徴がある。
昭和33年に国道20号線の新笹子トンネルの開通により、幹線としての役目を終えている。
近道だし、涼しそうだ。隧道を潜りたいが、甲州道中を辿る以上峠道を往かねばならない。

10:00 「笹子峠」
 殆どイジメのような峠道を登る。
相変わらず山道が折れる度に膝に手を付いて息を整え、15分程で標高1,096mを越える。
峠には小さな赤い鳥居に石の「天神祠」がある。往来する旅人や馬の無事を願ったものだ。

 

 甲州市側も「甲州街道峠道」が整備されている。林が間引かれていて明るい。
落ち葉を踏みしめて下る峠道は、打って変わって快適そのものだ。
笹子沢川に沿って下っていく。背丈ほどの深さがあるV字谷をこんな丸太橋で渡って進む。

11:00 「駒飼宿」
 駒飼宿は本陣1、脇本陣1、問屋1、旅籠6軒。ひとつ先の鶴瀬宿との合宿だったそうだ。
問屋業務は月の二十一日から晦日まで務めた。なぜ1/3なのか素人には理解が難しい。
標柱のみの渡辺本陣は酒造業も兼ね、敷地には「明治天皇御小休所址の碑がある。

 

 今なお残る旧家のうち、柏屋は立派な佇まいを残す。
大黒屋は本格的オーガニックカレーのCafeを開いている。気になるけど今日は先を急ぐ。
ところで本陣前に萬霊塔前に咲いている白い紫陽花が美しい。

 

11:20 「鶴瀬宿」
 街道に寄り添ってきた笹子沢川が日川に注ぎ、国道20号線にぶつかると鶴瀬宿だ。
本陣1、脇本陣1、問屋2、旅籠4軒の規模で、現在さしたる遺構は残っていない。
秋葉大権現、石尊大権現と刻まれた常夜燈が残っている。

 

「観音の 甍見やりつ 花の雲」 日川の谷を進むと、長柿洞門を抜けて芭蕉句碑がある。
観音は京都清水から勧請したもので養蚕の守護神として信仰が篤かったそうだ。
広重は境内からの景色を絶賛している。が、この観音堂、見逃して通過してしまった。

 

 白鉢巻に鎖帷子姿の近藤勇像が現れる。官軍と甲陽鎮撫隊が激突した柏尾古戦場だ。
剣一筋の新撰組は近代装備の官軍に歯が立たず総崩れになったと云う。

 国宝大善寺は、“ぶどう寺” と呼ばれる。
行基がこの地で修行をした際、満願の日にブドウを持った薬師如来が現れたことに由来する。
最近大河ドラマでの平岳大さん演じる武田勝頼の悲哀に満ちた好演が話題になった。
落ち延びる勝頼一行は大善寺の薬師堂で夜を明かしている。

 国道20号線が左にカーブを切る勝沼大橋の袂、眼前に甲府盆地が広がる。
残念ながら南アルプスや八ヶ岳は霞んではっきりしない。
甲州道中は直進して日川の河岸段丘上を行く。左右はぶどう農園が続く。 

 

12:10 「勝沼宿」
 勝沼宿は甲府盆地の物資集積の地として栄えた。
本陣1、脇本陣2、問屋1、旅籠23軒は、甲州道中においては大きな規模だ。 
旧い遺構は質屋で財をなした萩野家の仲松屋。明治の建築だが三階造りの蔵が残る。
これも明治の建築だが登録有形文化財となった旧田中銀行社屋の木造洋風建築が美しい。

 勝沼宿の池田屋本陣は残っていないが、その敷地に “槍掛けの松” という老松がある。
大名が宿泊する日には、その目印に槍を立て掛けていたと云う。
甲州道中紀行第7日目は、黒野田を発ち、1096mの笹子峠を越え、駒飼宿・鶴瀬宿を経て、
甲府盆地を見渡す勝沼宿まで、15.5km、3時間55分の行程となった。 

 さて葡萄を持つ女神像が立つ「ぶどうの丘」で温泉「天空の湯」を楽しむ。
南アルプスを背景に甲府盆地の大パノラマを堪能できる露天風呂はまさしく天空の湯だ。
湯量豊富なアルカリ単純泉に浸かってその雄大さを、たっぷり満喫してきた。 

      

 ぶどうの丘には200種類の甲州ワインを試飲できる地下ワインカーヴが併設されている。
が、1時間に1本の普通列車の発車まで、そうそう時間はない。
で、温泉施設の休憩コーナーで蕎麦をいただく。歩いて湯に浸かった後の生ビールは最高。
幸せな気分で高雄までぐっすり。新たに温泉と云う楽しみを見つけた甲州道中紀行なのだ。

 


庭先ゃ多摩湖で武蔵野うどん 西武・多摩湖線を完乗!

2016-06-18 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 夏の陽に射られた深い緑、鏡のような青い水面、ネオ・ルネッサンス様式の建造物。
でも高原リゾートの湖畔ではない、都民のみずがめ多摩湖の風景です。
北関東では猛暑日を記録したこの日、国分寺から狭山丘陵をめざして多摩湖線に乗る。
山口線、狭山線と乗り継いで西所沢に抜けると、西武鉄道線の呑み潰しも完了なのだ。

 

多摩湖線の起点は国分寺。地図で見ると中央本線に突き刺さるように真北に延びている。
駅前広場を跨ぐ通路を進んだ先の7番線から発車するのはアイボリーの4両編成。
拝島線とクロスする萩山まで北上したら、水道道路に並行して西北西に真っすぐ進む。

 終点のひとつ手前の武蔵大和で途中下車。線路沿いの多摩湖自転車道を引き返す。
紫陽花が咲く道を10分ほど歩いて、武蔵野うどんの老舗「きくや」を訪ねる。
東京多摩から埼玉西部のご当地グルメは、太くてコシの強い麺を温かいつけ汁で食べる。

      

狭い店だけど、直ぐに出てくるし、常連さんはサッと食べて出て行くので回転が良い。
初心者には注文が難しい。オーダーした "3L・肉汁・天付き"、3Lとは3玉を示すらしい。
肉汁と言うと温かい汁、言わないと冷汁が出てくる。
天付きはその名の通り、海苔も欲しかったらミックスと言おう。

やや褐色がかった不揃いな麺を、竹の椀に豚バラ肉が入った甘めのつけ汁で食べる。
薬味は刻みネギ・生姜・わさびが付くので、少しづつ風味を変えて美味しくいただく。

 

 武蔵大和(ある意味凄い名前だ)から最後の1区間を乗車すると終点の西武遊園地駅。
この駅は村山下ダムの直下にあって、堰堤を上ると湖水の風景が広がる。
『東村山、庭先ゃ、多摩湖......』って、そう東村山音頭に出てくる「多摩湖」だ。
多摩湖線ホームの延長線上は山口線のホーム、両線は僅かな時間で乗り継ぎできる。
通称 "レオライナー" は遊園地を抜け、ゴルフ場の裾を右左になぞって走る。
左手に銀色に輝くドームが次第に大きくなると西武球場前駅に終着する。

 Bubble Runって何?
西武プリンスドーム前は、水着にお揃いのTシャツ姿、高校生たちの歓声で溢れていた。

 

狭山線は単線だけど、西武球場前駅は10両編成が停れるホームが6番線まである。
日本シリーズの開催日は臨時列車でホームが埋まるだろうか、きっと壮観な眺めだろう。
終点の西所沢駅までは、間に下山口を挟んで僅かに5分の旅だ。

 さすがに住宅街の西所沢では、昼飲みできる居酒屋やバーは見当たらない。
やっと見つけた大手フランチャイズの居酒屋、まずは大ジョッキーを一杯呷る。
トマトとモッツァレラのカプレーゼ、香味冷奴、燻りがっこ入りポテトサラダを抓む。
さらにジョッキーを二杯、三杯。所沢でも30度を超えて、真っ昼間の生ビールが旨い。
国分寺3線乗り継いでも16km、生ビールを飲んでる時間の方がはるかに長いのだ。

西武多摩湖線 国分寺~西武遊園地 9.2km
西武山口線 西武遊園地~西武球場前 2.8km
西武狭山線 西武球場前~西所沢 4.2km 完乗

 
 

夏が来た / キャンディーズ 1977


紫陽花咲く長谷寺へ 江ノ島電鉄を完乗!

2016-06-04 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 長谷寺の紫陽花が咲き始めた。
四季折々の花木に彩られて“鎌倉の西方極楽浄土”と謳われ、花の寺として親しまれる。
梅雨の季節には40種2500株の紫陽花が群生する“アジサイの径”の散策が楽しい。

江の島を訪ねた余勢を駆って江ノ島電鉄を呑み潰す。
鎌倉散策の一番人気の鶴岡八幡宮、奥州を平定した源頼朝が石清水八幡宮を祀ったもの。
朱が鮮やかな本宮は、修学旅行生と訪日外国人観光客で賑わっている。

 

“江の電” の愛称で愛されている江ノ島電鉄は、湘南の観光地を巡るレトロな電車。
鎌倉から藤沢までの10kmは、美しい海が車窓を流れるご機嫌な路線だ。

この季節は江ノ電と紫陽花をカメラに収めようと、線路沿いにカメラを構える人が多い。

      

紫陽花の名所“長谷寺”では、山門の大きな提灯が迎えてくれる。鮮やかな朱が眩しい。

観音山の中腹の見晴台からは、鎌倉の街並みと由比ヶ浜、遠く三浦半島まで見渡せる。

 

眺望散策路では咲き始めた紫陽花が美しい。

江ノ電唯一のトンネルを抜けると極楽寺駅に到着する。

最近では人気ドラマ「最後から二番目の恋」の舞台となった極楽寺駅周辺。
ボクには、勝野洋主演の「俺たちの朝」の方がしっくりくる。

「関東の駅100選」にも選ばれた鎌倉高校前駅も、ドラマやアニメにも頻繁に登場する。
江の島を背景に海岸線を江ノ電がガタゴト走る構図は、まさに湘南の風景と言える。
腰越商店街を抜けた江ノ電が、江の島を背にすると、終点の藤沢まではあとわずかだ。

江ノ島電鉄 鎌倉~藤沢 10.0km 完乗

ロマンス / 原田知世