旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

もの作りの町で「作」に酔う 近鉄・鈴鹿線を完乗!

2021-07-31 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 四日市から南へ8駅、急行で10分、伊勢若松は静かな分岐駅だ。
初めましての町だから、取り敢えず町を探索、東へ10分も歩けば伊勢湾が見えるはずだ。

ジリジリ照りつける午後の陽に汗が噴き出す頃、短かい防波堤に白い灯台、小さな若松漁港に行き止まる。
紺碧の海、対岸にコンビナートが点々と、滑るように湾を出て行くコンテナ船、悪くない。
調べてきた訳ではない。漁港の手前で清水清三郎商店を発見、これ偶然。今宵は「作」に酔うことを決めた。

4番線に停まっている鈴鹿線はワンマン運転の3両編成、どうやら湯の山線と共通運用らしい。
この時期に鈴鹿市内でお座敷があるのか?芸妓さんが数名乗り合わせている。

鈴鹿線はわずか5駅、8.2キロの路線、名古屋線と分岐をするや緑豊かな田圃の中を走っていく。
鈴鹿市駅の近くには神戸城址がある。かつては信長の三男・神戸信孝が築いた五重六階の天守があった。

3両編成は鈴鹿市駅で上り列車と交換した後、10分の短距離走を終えて、平田町駅の車止に行く手を塞がれる。
鈴鹿市〜平田町は1950年代、鈴鹿市の工場誘致による大規模な工場進出により、通勤輸送のために延伸した。

小さな終着駅だけど、駅前の交差点まで足を進めると、旭化成鈴鹿製造所が目に飛び込んでくる。
一辺が1キロはあろうかと思う工場を行き過ぎると、さらに広大な本田技研工業鈴鹿製作所がどこまでも続く。

もの作りの町・鈴鹿のスケール感を足で感じる。出張帰りの革靴なのでもうくたくたなのだ。
っと言うことで、鈴鹿山脈に日が沈んだら、終着駅近くのすし居酒屋でお約束の地酒「作」を愉しむ。

先ずは純米酒 “穂乃智”、甘いフルーツの様な香りだけど、喉越し良く後味はすっきりとキレが良い酒だ。
刺身盛合わせの舟には、さっぱりと夏のごちそう “鱧の梅肉添え” が乗って美味しい。

“冷奴” とふっくらサクサク “キスの天ぷら” を肴に二杯目は純米吟醸 “奏乃智” をいただく。
升を迎えに行って、爽やかですっきりとした香り、キリッとした辛口の酒を口に含む。至福だ。

“雅乃智 中取り” はエレガントな純米大吟醸、冷やして飲むと美味しい、今宵はこれで〆る。
大好きな “ネギトロ” と “ねぎさば” を抓みながらちびりちびり、もの作りの町で「作」に酔う鈴鹿の夜なのだ。

近畿日本鉄道・鈴鹿線 伊勢若松〜平田町 8.2km 完乗

キッスは目にして / ヴィーナス 1981
     


水曜日は家呑み派 「南方超辛口純米」

2021-07-28 | 日記・エッセイ・コラム

 今宵の家呑みは “南方 超辛口純米酒”、山田錦を醸しスッキリとしたキレの良い一本は和歌山の酒。
日本酒度は+15の淡麗な酒は、常温から燗がお勧めのようだけど、ボクは花冷え位で飲んじゃう。
超辛口のお供に大葉を散らした “イワシのソテー”、自家製 “鶏ハム”、それに “明太ポテサラ” を並べる。
昨夜は女子ソフトボール決勝に手に汗を握ったね。今宵はサッカー予選で呑む。がんばれニッポン。

予選1位通過おめでとう。こんなに安心して観戦できたサッカーは初めて?決勝トーナメントに期待。
本多灯くん、大橋悠依さん、橋本大輝くん、新井千鶴さん、おめでとうございます。いい笑顔です。
今宵も美味しい家呑みでした。ありがとう。

Eyes of the Mind / Casiopea 1981
     


富士も琵琶湖も霧の中 近鉄・湯の山線を完乗!

2021-07-24 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 近鉄四日市の5番ホームに停まる3両編成は湯の山線、先頭車両には開湯1300年のヘッドマーク。
鈴鹿の山波に向かう短い旅だけど、おそらくは長く苦難の近鉄線呑み潰し、過酷な旅の始まりなのだ。

四日市の賑わいの中心は、明らかにJR駅ではなく、西に1km離れた近鉄駅に寄っているなぁ。
北(名古屋方面)に向かって出発した3両編成は、いきなり左へ急カーブして西へと転針する。
ひと駅分を高架で市街地を跨ぐと地上に降りて、住宅街を抜け、ほどなく車窓には田園風景が広がる。

桜駅では乗降が終わっても構内信号は赤のまま、やがて緩いカーブの向こうから交換列車が現れた。
日中30分に1本走る湯の山線は、行程半ばのこの駅で上下線が行き違うのだ。

 右へ左へ半径の小さいカーブに車輪が悲鳴をあげ、登り勾配に古いモーターが唸り出したら終点は近い。
四日市から約25分、乗り通したわずかな乗客を見送って、3両編成の短い旅は終わる。

「男はつらいよ フーテンの寅」(昭和45年作品)で見るような賑わいはすでにない湯の山温泉駅。
温泉を訪れる客の多くはマイカーか名鉄バスセンターからの直行バスを利用するのだろう。
呑み人は駅前からの路線バスに乗る。乗客は山ガール姿の初老のご婦人二人連れとたった3人だ。

日帰り温泉か、御在所ロープウェイか、後者を選択。標高1,212m、山上の別天地に惹かれる。
ところがだ、日本一の白鉄塔(高さ61m)と言われる6号支柱を過ぎた辺りからすっぽり白い霧の中。
山上の奇岩・珍岩、富士山(空気が澄んだ晴天には見えるらしい)も琵琶湖も見えず終いなのだ。

しからばお約束の生ビール、鶏からをアテにキンキンの一杯に喉が鳴る。
名物だという “カレーうどん”、モチモチの伊勢うどんに豚の角煮をトッピング、たぬきを散らして美味しい。
山上で2時間粘るも霧が晴れることはなく、夏をあきらめて下りのロープウェイに乗る。
車止めに行く手を塞がれた1番ホーム、律儀に迎えに来てくれた3両編成に再会して湯の山線の旅は終わるのだ。

近畿日本鉄道・湯の山線 近鉄四日市〜湯の山温泉 15.4km 完乗

哀 戦士 / 井上大輔 1981
     


シーブリーズとシャンパーニュと運河の風景

2021-07-21 | 日記・エッセイ・コラム

ビルの谷間の「茜」が運河をピンクに染めて、彼女には “シーブリーズ” を。
レトロな橋はその街灯を水面に注いで、ボクの一杯目はシャンパーニュ。
関東甲信越は梅雨が明けて連日の酷暑、引き換えに時折こんな素敵は風景に出会える。

思いがけない4連休は小さなセラーをワインと吟醸酒で満たして、グラス片手にオリンピック観戦。
女子ソフトボールチームの2連勝で勢いをつけて、今晩のサッカーは南アフリカ戦がKICK OFF。
外野はネガティブな報道が多いけれど、各国の選手には思いきり躍動して欲しいですね。応援しています。

Chariots of Fire / Vangelis 1981
     


三陸海岸をゆく夏 八戸「陸奥八仙」

2021-07-17 | 日記・エッセイ・コラム

 リアス線から襷を受けて、八戸線(うみねこレール)でさらに北に向かう。
ステンレス製2両編成は、スカイブルーのラインを纏ってサイドには "うみねこ" のマーク。

駅前広場でJAWSが口を開けている鮫までは1時間20分ほど、全行程の8割を消化する。
鉄路は美しい海岸線をなぞったはずだが覚えはない。ほろ酔いでぐっすり昼寝したらしい。

鮫駅から10分ほど歩くと、次第に「ミャアミャア」という鳴声が大きくなってくる。
ウミネコの繁殖地「蕪島」は国の天然記念物、まるでヒッチコック映画の情景だ。

陸奥湊駅では "イサバのカッチャ" が出迎えてくれる。この素朴な市場の町のシンボルだ。
がらんとした午後の市場を抜け、新井田川べりに "陸奥男山" の八戸酒造を訪ねる。
延べ4日、三陸海岸の旅を終えたら、新幹線のシートで "陸奥八仙" 特別純米を開けよう。 

おわり

ジェラシー / 井上陽水 1981


街角の蕎麦屋にて「二七市場で二八そば」

2021-07-14 | 日記・エッセイ・コラム

 雨が降ったり止んだり、じめッとしたこんな日はごま汁の “サラダそば” がさっぱり美味しい。
生真面目なこの老舗蕎麦屋にあって、ほとんど唯一の変わり蕎麦メニューなのだ。
それにしても泣かせるのは、たっぷりのクラッシュアイスで満たされたお冷やのグラス。
独特なフォルムにCoca-Colaの筆記体、昭和の頃にはどこでも見かけたグラスが懐かしい。

近郷農家の奥さんが朝採りのみずみずしい大根を差し出す。
旧中山道浦和宿の中心部であったこの辺り、豊臣政権の時代から二・七の市が立った。
往復二車線の県都にしては控え目なメインストリート、中山道にこの蕎麦屋さんはある。

店の品書きには “カレーライス” と “カレー丼” がある。食べ比べてないので味に違いがあるかは分からない。
ボクの大好きな “カレー丼” は、出汁がきいて程よいとろみ、鼻腔をくすぐる香りがたまらない。旨いのだ。

東京都の緊急事態宣言の谷間、この街の飲食店でも酒類の提供を解禁した。
二人で訪れた休日、久しぶりの蕎麦前のラガーが美味しい。肴は “板わさ” と “味噌でんがく” なのだ。

そして〆の “ざる” を一枚、ちょっぴり辛味のきいた “なめこおろし” でずずッと啜る。至福のひと時だね。
訪ねるたび、決まった時間に決まったお客さんが蕎麦を楽しんでいる。老夫婦とおひとり様が多いかな。
一歩入ると高級マンションやお屋敷が広がる辺りだから、なじみ客が多いんだろうね。
こんな店にはいつ迄も残って欲しいな。軒下の紫陽花に店主夫妻の心遣いを感じる街角の蕎麦屋さんだ。

君に決定! / 田原俊彦 1981
     


三陸海岸をゆく夏 久慈「福来」

2021-07-10 | 日記・エッセイ・コラム

 旅館の朝食を諦めて、宮古駅の片隅0番線から06:58発の久慈行きに乗車する。
三陸鉄道開業時から活躍しているずいぶん年季が入ったレールバスだ。

宮沢賢治から火山島の名前にちなんだ「カルボナード」と名付けられた島越駅で下車。
モダンな八角形の塔屋の駅から徒歩10分、北山崎断崖クルーズ観光船の乗船場があった。
観光船で50分、高さ200mの大海食崖が連なる迫力ある景勝を洋上から満喫できる。

陸中野田から鉄路は狭隘な小袖の海岸線を避け、トンネルで久慈へと抜ける。
小袖海岸は「北限の海女」で知られる。朝の連続テレビ小説のロケ地になっている。

久慈駅に降り立ったら、道の駅くじ「山海里」で一杯、在り余る乗換時間があるのだ。
地酒 "福来" の生酒をいただく。幸せを呼ぶお酒って地元で愛されているそうだ。
"漁師なげこみ丼" にふんだんに盛られた刺身と "まめぶ汁" が絶好の肴になるのだ。

つづく

陽の当たる場所 / 浜田省吾 1981


水曜日は家呑み派 「ピンクラベル吟醸」

2021-07-07 | 日記・エッセイ・コラム

 2月に蔵を訪ねたときに求めた “陸奥八仙ピンクラベル吟醸”、ぜったい洋食に合うと試飲して確信した。
っという訳で、今宵、小料理「ないあがら」はちょいと洋風なお品書き。

 ◉帆立グレープフルーツ カルパッチョ風サラダ
 ◉とうもろこし「甘々娘」のサラダ
 ◉牛肉のグリル霜降りひえたけのロースト添え
 ◉ドライトマトとベーコンのキッシュ

メロンの香りというか、バナナの香りと表現するか、梅雨空の宵に芳醇な旨味の生酒が美味しい。
「涼冷え(すずびえ)」くらいが宜しいようで。

     

Lakai / Casiopea 1981
     


三陸海岸をゆく夏 宮古「千兩男山」

2021-07-03 | 日記・エッセイ・コラム

 盛から3つ目の「恋し浜」は太平洋を見渡す高台の駅だ。
ホームには天使のオブジェを背にして「幸せの鐘」が掲げられている。
この鐘、カップルで鳴らすと永遠に結ばれ、一人で鳴らすと素敵な出会いが訪れると云う。
停車と同時に昔のお嬢さんが我先にと「鐘」に殺到してなんだか微笑ましい。 

JR山田線の宮古~釜石間が復旧、そして経営移管を受けリアス線が一つになった。
盛から久慈まで163キロ、風光明媚な三陸海岸をさらに北上する。 

鉄の町釜石のラーメンは程よいコシの極細の縮れ麺、スープは琥珀色に透き通る醤油味。
是非食べておきたいと、乗り換え時間に発祥の店「新華園本店」に飛びこんだ。

気動車は復旧なった旧山田線区間に入る。鳥ヶ沢トンネルを抜けると両石湾が広がった。
沖にはオオミズナギドリ、ヒメクロウミツバメの繁殖地、天然記念物・三貫島が浮かぶ。

日が傾いた頃、三陸鉄道本社が在る宮古に到着する。駅前は思いがけず賑やかだ。
JAZZが流れる「居酒屋大ちゃん」で、地元は菱屋酒造店の "千兩男山" を呑む。
肴は "ホヤ"、"かつお"、そして "ドンコのたたき"、肝を味噌でたたいてとろりと旨い。
すっきりした "千兩男山" の呑口が刺身に合ってご機嫌な宮古の夜なのだ。

つづく

すみれ色の涙 / 岩崎宏美 1981