旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

風を感じて! 伊豆スカイラインとZと夏のクラクション

2023-09-30 | 単車でGO!

眼下に駿河湾が弧を描いて煌めいている。
夏の落とし物と、秋の気配を探して、この休日は伊豆スカイラインまで登ってきたのだ。

箱根ターンパイクを駆け上がって大観山展望台。ここで1,000m
碧い芦ノ湖に観光船が滑り、富士が美しい裾野を広げている。
最高気温30度の予想でもここまで登ると風は冷たい。ボクだけがメッシュ地のジャケットで夏のままだ。

玄岳(くろたけ)の尾根をワインディングロードが銀のクレヨンでなぞっている。
大自然の中を走り抜ける爽快な絶景ロードは、伊豆初心者のボクには外せないルートだった。

冷川ICでスカイラインを降りたら、狩野川の谷まで高度を下げる。
天城街道を南進すると「浄蓮の滝」のサインが見えてきた。
深い樹木が生い茂る柱状節理の岩肌に、白く太く流れ落ちる水からキラキラと飛沫が舞う。
けっこうな深さを持っているであろう滝壺は神秘的に碧い。

浄蓮の滝の降り口には伊豆の踊子の像がある。まったくここは観光地なのだ。
私が指差し踊子が見上げるのは天城山だろうか。

R414でさらに狩野川を遡ると10分ほどで天城峠、とは言っても800mの新天城トンネルで抜ける。
旧道はさらに山の上を旧天城隧道が穿っている。

新天城トンネルを抜けると、寄り添う流れは南へと向きを変えている。
上半身を左側に投げ出して、R414は河津七滝ループ橋で一気に高度を下げる。
ループの下に七滝を連ねた河津川は相模湾をめざす。

下田の町を目前に箕作という集落で西に転進すると、婆娑羅峠を越えて西伊豆へ向かう。
駿河湾と出会う松崎はドラマ「セカチュー」のロケ地になった。白と黒のなまこ壁の町にZで紛れ込む。

2つの川の河口に開けた松崎港、潮風が吹き抜ける田舎家風の店できょうのランチ。
じゃこ、ひじき、それに塩辛の小鉢が並ぶと、思わず冷や酒を求めたくなるね。

水色の器に造りが登場、ねぎと生姜をのせてアジが良いね。
分厚い本マグロ、それに真鯛、目鯛、金目鯛が並ぶ、おろしたての生わさびで美味い。
追いかけて炭火で焼いたアジの干物がやってきた。すぅっと箸をとおしてご飯と一緒にかき込んで旨し。

午後は西海岸を北上する。R136は駿河湾の入江と入江をトンネルで繋いで北上していく。
このルートには風光明媚なジオサイトが次から次に現れては流れていく。

もう少し粘れば夕陽を浴びて黄金色に輝く美しい岩肌を見ることができるだろうか。
黄金崎の「馬ロック」の景勝にちょっと寄り道。

彼岸を過ぎて驚くほど急ぎ足で陽が短くなった気がする。
あれだけ暑かった夏が、カーブをひとつ曲がるたびに過ぎ去っていく。

<40年前に街で流れたJ-POP>
夏のクラクション / 稲垣潤一 1983


水曜日は家呑み派 「奥丹波 雨酒」

2023-09-27 | 日記・エッセイ・コラム

銀鮭の南蛮漬け、なすとキノコの煮しめ、里芋のちりめん山椒ねぎソース、
和の惣菜を小鉢や小皿に並べたら、奥丹波の雄町を開ける。
涼しげな透明に近いブルーのボトル、ほんとは盛夏にベランダで開けたかったなぁ。
優美な香りで芳醇な旨味があるオーガニックな純米吟醸が美味い。
抜群にキレの良い酒だから、和でも洋でも料理を引き立ててくれる。

大阪から福知山線を旅するなら、終点の福知山まで2駅を残して市島駅に降り立つ。
竹田川を渡ると日本の原風景のような山間の田園を背景に白い蔵造りの山名酒造が酒林を提げている。
ぽっかり予定が空いた秋の休日は、ローカル線に揺られて酒蔵を訪ねるのも良いかも知れない。

<40年前に街で流れたJ-POP>
月の浜辺 / 岩崎良美 1983


霧ヶ城と女城主と大正ロマンの町並みと 明知鉄道を完乗!

2023-09-23 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

山間の交換駅で待っていた上り列車は「三つ葉のクローバーイエロー」のデザイン。
飛騨で生まれたファブリックブランド Bibbidi Bobbidi Fabric のラッピング列車が可愛らしい。

恵那にやってきたのは何年ぶりだろう。
どうやら2014年の桜のころ、馬籠宿から落合宿、中津川宿を経て大井宿(恵那)まで歩いている。
朝の凛とした空気の中、まだ雪を残した恵那山が美しかったのを思い出す。

8両編成が行き交う中央本線を横目に、明知鉄道はもちろん単行のディーゼルカー。
橙にクリームのラインを引いた100形は2016年の新潟生まれ、美濃の水には慣れただろうか。

チリリンと風鈴の音が聞こえてきそうな涼しげなヘッドマークをつけて、
今どきの若い娘(ディーゼルカー)は案外静かに走り出すのだ。

玉に瑕なのはオールロングシート、旅情という趣を大切にしてもらいたいものだ。
それでも呑み人は、高校生が降り切ったら、プシュッとラガーを開けてしまう。

一度は訪ねてみたい「極楽」は、朱の待合室に金色の觔斗雲(きんとうん)を載せ、中には阿弥陀様?
後光が挿したようなモニュメントがあって、あっベンチも觔斗雲だね。

やがて橙のディーゼルカーは岩村駅に到着する。すでに疎な乗客も半分はここで下車してしまう。

岩村町(すでに恵那市と合併している)は人口約5,000人、江戸時代には岩村藩が置かれた城下町だ。
永野芽郁さんがヒロインの連続テレビ小説「半分、青い。」の舞台といえばお分かりいただけるだろうか。

駅から岩村城跡へ続く1.3kmの本通り沿いに広がる旧家に商家、路地へ入ると見かけるナマコ壁、
江戸から明治の面影を残す旧い町並みに、ゆったりとして穏やかな暮らしを感じることができる。
町並みの中 “女城主” の岩村醸造さんは1787年(天明7年)創業の蔵、“あま酒ソフトクリーム” をいただいた。

 

ナマコ壁の路地を抜けたあたり、紫に染めた暖簾の食堂で一息。
冷やでいただくのは “女城主” の特別本醸造、なるほどまろやかで旨味のある酒だね。
アテの “枝豆” は茹でたてに塩をふって登場、これは嬉しい一品だ。

いつまでも暑いから、旅先のお昼はなんとなく蕎麦になる率が高い。いや年齢のせいでもあるか?
片田舎の蕎麦屋さんと言ったら失礼だけど、こちらの天ぷらは素晴らしく美味しい。
地の野菜をカラッと揚げて塩だけでいただくといい。これも酒がすすむアテになる。

本通りを上り詰めて岩村城(霧ヶ城)に辿り着く。とはいえここは登城口にすぎない。
標高717m、高低差180mの天嶮の地形に張りついた要害堅固な山城へは、さらに登らないといけない。
吹き出す汗と列車の時間を言い訳に引き返す太鼓櫓、今夕は薪能が演じられるという。

本通りを下り切ったころ、ほどなくさっきと同じ橙が1両で入線してきた。

なかなか出発しないと思ったら、大袈裟に車体を揺らして上りの恵那行きがやってきた。
ようやくシグナルに青が点って、明知鉄道の後半の旅をゆく。

いよいよ勾配もキツくなり、エンジンの音も心なしか低くなったようだ。
っと “女城主” のカップ柚子酒を開ける。シャーベット状態で買ったのにすでに温い。
くすぐる柚子の香り、ほどよい揺れに身をまかせたら、終点までの20分はあっという間だ。

小さなピークを越えて橙の単行ディーゼルカーが山を降り始める。やがて夕暮れ迫る明智駅だ。
駅舎にはこれまで様々走らせたイベント列車のヘッドマークが並んでいる。

かつて蚕糸産業が盛んだった明智町(現在は恵那市)は、建物や風景その町並み大正時代の風情が残っている。
かつての村役場は明治39年の建築というから、なるほどちょっとモダンな大正はこんな感じか。
旧明智郵便局(逓信資料館)も漆喰、腰板張を青くペンキ塗りして雰囲気を醸し出している。

静かな盆地と濃尾平野を隔てる低山に夕日が沈んで、25キロ50分の短い明知鉄道の旅は終わる。
江戸から明治そして大正の町並みを訪ね歩いて、なんだかずいぶん長く旅をしたような気分なのだ。

明知鉄道 恵那〜明智 25.1km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
さらば・・夏 / 田原俊彦 1983


Go!Go!West! 6 駅そば日記・保土ヶ谷「ねぎだくごまだれそば」

2023-09-20 | 旅のアクセント

冷水に晒したそばを盛ったら、白髪ネギをたっぷりのせる。
大匙でぶっかけたあげ玉が、ごまダレでほどよく流れて、見た目も涼しげな “ねぎだくごまだれそば”。

割り箸で大掴みにズズッとまずはサラダ麺風に、んっと胡麻の風味が爽やかだ。
そば汁にワサビを溶いたら安定の冷やしたぬきが美味しいね。
小母さんに勧められるままに辣油を数滴落とすと、あら不思議とサッパリと味変してこれまた美味。

朝のラッシュが引いた保土ヶ谷駅、東海道本線の駅ながら横須賀線の電車しか停まらない。
階段下ではありながら、案外と十分なスペースをとって、クーラーが効いた「駅そば」が健在だ。
涼しい店内で夏限定メニューゆったりとをいただく平日のお昼前なのだ。

保土ヶ谷駅ホーム「濱そば」: ねぎだくごまだれそば 500円

<40年前に街で流れたJ-POP>
UNバランス / 河合奈保子 1983


信州そばと浅間嶽とHIGH RAIL 1375と 小海線を完乗!

2023-09-16 | 呑み鉄放浪記

5番ホームに停車中のキハE200形はハイブリッド車両、停車時はアイドリングストップして静粛だ。
爽やかなスカイブルーのラインは、浅間山や千曲川それに八ヶ岳といった背景に映えるだろう。

かつて20往復の特急が停車した小諸駅も、今はしなの鉄道が運営するローカル駅。
それでも旧い駅舎には、小洒落たワインバーやカフェ、インフォメーションセンターができて
浅間山の登山口や信州観光の拠点としての面目を整えている。

小諸は城下町である。駅の裏手には小諸城址懐古園がある。
山本勘助が縄張りし仙石秀久が改修した小諸城は、千曲川の河岸段丘の断崖を天然の防御として利用した穴城、
城郭は城下町よりも低地に位置する格好となり、市街地から城内を見渡せる構造になっている。

三重の天守は寛永年間に落雷により焼失し、今では天守台の石垣だけが残っている。
小諸義塾の英語と国語の教師として赴任した島崎藤村は、小諸で「雲」「千曲川のスケッチ」を書いた。
その関係で城址には「千曲川旅情のうた」の詩碑が建てられている。

5番ホームに夏の観光列車 “HIGH RAIL 1375” が入ってきた。ワクワクの子どもたち。
ヘッドマークは、小海線の夜空と車窓に展開する八ヶ岳の山々をモチーフにして、
JR線標高最高地点「1375m」が描かれている。きょうは小海線で呑む。

っというか、すでにこの城下町で冷えた一杯をいただいているのだ。

小諸はまた前田家が滞在した北国街道の宿場町であり、本町エリアは今でもその面影を残している。
総欅造りの黒い漆喰仕上の土蔵「そば蔵 丁子庵」もそんな趣があるね。

ちょい冷えの “浅間嶽” はこの城下町の蔵で浅間山の伏流水で醸される。
さわやかな柑橘系?の酸味と甘みをほどよく合わせ持った純米吟醸が美味しい。
アテは漬物三点盛、信州育ちの呑み人にはこの “野沢菜” と “たくあん” が嬉しい。

純米吟醸を愉しむうちに “きのこおろしそば” が登場する。
たっぷりのきのこに辛み大根の汁、打ち立てのコシがあるそばを、ちょいと浸してズズッと啜る。
美味いなぁ。やはり信州を訪ねたら蕎麦に限るね。

沿線最大の町である佐久市の中心駅は中込駅、小諸と中込を結ぶ区間運転の列車も多い。
実際の乗降客は新幹線停車駅の佐久平駅はもちろん、岩村田駅の方が上回るらしい。
ちょっとだけ途中下車してみた。

明治8年(1875年)に完成した旧中込学校は、国内の学校建築のうち現存する最古級の擬洋風建築物。
松本の旧開智学校に遅れること2年、教育県と言われた信州人の教育に対する情熱がうかがえる。

“亀の海” の蔵元である土屋酒造店も中込にある。呑み人が好きな銘柄のひとつだ。
美山錦や佐久産米で醸した純米酒を仕込んだから、いずれ家呑みでご紹介したい。

HIGH RAIL 1375は、窓に向いたペアシートを出発1週間前に確保できた。窓は浅間山側に開けている。
早速カウンターで求めた “THE軽井沢ビール” は、華やかな香りと芳醇な味わいのピルスナーだ。

小諸から1時間50分、八ヶ岳の山々をモチーフにして小海の星空を散らした気動車は、
信濃川上で千曲川と別れ、ヘアピンを描いて転針すると、8kmの距離で250mの標高を稼いだ。

野辺山駅は標高1,345mに位置する。言わずと知れた日本で一番標高の高い駅だ。
八ヶ岳の峰々をシルエットに天の川が流れる駅名表示板が格好いい。

野辺山を発った気動車はJR鉄道最高地点(1,375m)をめざしてエンジンの唸りを上げる。
ペアシートからは、一面の高原野菜畑の向こう、カラマツ林の合間から巨大な白い構造物が覗く。
直径45m、国立天文台が世界一の精度を誇る宇宙電波望遠鏡、パラボラ・アンテナ群だ。

雄大な八ヶ岳の裾野を舐めるように、今度は小淵沢駅に向かって490mの標高差を下っていく。
右に傾く身体に急勾配を感じつつ、呑み人はと言うと “寒竹” の吟醸を舐める。
きりりとして爽やかなこの酒も、美山錦を醸した佐久は岩村田の酒だ。

HIGH RAIL 1375は、再びヘアピンを描くと、眩しかった西陽を今度は背に受ける格好になる。
築堤を下るほどに並走する中央本線の複線が浮かび上がって来るようだ。
小淵沢着16:57、八ヶ岳も富士も甲斐駒もすでにシルエットとなって、確実にやってくる秋を予感させるのだ。

小海線(八ヶ岳高原線) 小諸〜小淵沢 78.9km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
ガラスの林檎 / 松田聖子 1983 


酒場探訪 浦和「酒蔵 力」

2023-09-13 | 津々浦々酒場探訪

赤い灯が揺れる酒蔵・力、夕餉の時間ともなると “焼き鳥” を求める長い列ができる。
水曜日あるいは土曜日、大きなモニターにはREDSの試合が映し出され、大きな歓声が上がる。

気の置けない仲間どうしで呑む店だから、カウンターはわずかに6席と小さい。
「力」の赤い文字が強々しいジョッキで冷たい生ビール、REDSにあやかって “まぐろブツ” が肴だ。

“豚カルビ” を焼いてもらって辛子味噌で美味しい。ジョッキはホッピーに代わっている。
お手頃な酒場では定番の “ポテサラ” を。ボクはこれがすきだ。ここのはなんだか艶かしい。

ご飯がわりに〆の “焼きそば” をいただく。ハフハフしながら、これホッピーに合うよね。
これで2,000円と少々、賑やかな店は仕事の余韻を振り払うのに丁度いい感じなのだ。

<40年前に街で流れたJ-POP>
禁区 / 中森明菜 1983


神磯の鳥居と海鮮丼と月の光と 大洗鹿島線を完乗!

2023-09-09 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

深紅と橙を満載して2両編成の6000形気動車が鹿島サッカースタジアム駅にやってきた。
大洗鹿島線の終着駅は、試合開催日に一部の列車のみが停まる臨時駅になっている。

そろそろ青春18きっぷの残りを持て余しそうな土曜日、常磐線に乗って水戸をめざす。
朝のビールを買い込んでグリーン車に乗ったはいいけど、後10両は土浦で切り離しだって、
えっ、いつからそんな運用になったの?呑み人は少しおかんむりだ。

少し短い水戸駅の8番ホームに8000形の気動車がたった1両、エンジンを響かせている。
描かれているカッパは何だろう。(あとで調べたらJX金属という会社のPR大使らしい)
ボクは「伝染るんです。」という4コマ漫画を思い出してしまう。

水戸を発った “カッパーくん” は暫し常磐線と併走した後高架に上る。
ここまで踏切は2箇所、この先は終点まで連続立体交差になっている。意外と高規格なローカル線だ。

“カッパーくん” の1135Dは途中の大洗止まり、時間にしてわずか15分の旅だ。
たった1両ではあるけれど、乗車率150%くらいの満員の乗客は何処へ何しに行くのだろうか。

真夏の青空を背景に、大洗駅前では青い背を煌めかせて、カジキマグロが跳ね踊っている。
ボクの目的はいたって単純で、美味い海鮮を食べながら一杯やる。って純粋?なものだ。

真っ白な磯浜灯柱が目印の大洗海岸、海水浴もこの週末あたりが最後だろうか。

大洗海岸を見下ろす断崖の上には「大洗磯前神社」が鎮座している。
御祭神が降臨された岩礁を「神磯(かみいそ)」と言って鳥居が建ち、大洗のシンボルといえる。

その御祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)と少彦名命(すくなひこなのみこと)、
国造りの神話においてはこの二神が共演する場面が多いようだ。

神が舞い降りた地で醸す “月の井”。やや辛でさっぱりした夏純米をいただく。
傍にイワシの “骨せんべい”、こいつをボリボリやりながら着丼を待つのが愉しい。

店の名前を冠した “海鮮丼” は、なかなか贅沢な丼だった。これに “かに汁” を付けてご満悦。
ご飯の上に “カニのほぐし身” を敷き詰めたら、厚切りの “大トロ” をのせる。
ふんだんに “イクラ” をぶっかけたら、“カニ爪” でマウントをとる。赤のグラデーションがキレイだ。

先ずは小鉢と “大トロ” を肴に夏純米を堪能する。
たっぷりと溶いたわさび醤油を垂らして丼にかかる。口に運ぶほどに赤が溶けあって美味しい。
汁からのぞく “カニ足” をほぐす。御多分に洩れず無口になってしまう。いやそもそも一人だけど。

満足の腹を抱えて大洗駅に戻ってきた。口の中がまだ甘い。美味い酒と丼に至福だ。

13:59発の145Dは、鹿島サッカースタジアムに停車するこの日最初の便、
なのにたった1両はつらいなぁ。ショルダーバックのワンカップに出番はなさそうだ。

夏草を巻き上げて8000形が疾走する。ほぼ直線の高規格線路だから気動車といえども90km/hを超える。
キラキラと輝く北浦を離れると色づき始めた田圃が広がる。遠くに筑波山のシルエットが浮かんでいるね。

大洗から1時間、8000形気動車は満員の乗客を余すところなく吐き出す。
1番線には水戸行きの気動車が入ってきた。この駅で上り下りの列車が交換するようだ。

鹿島サッカースタジアム駅は、JR鹿島線と大洗鹿島線、双方の終点となっている。
実際の運用は大洗鹿島線が、JR線をひと区間乗り入れて、水戸〜鹿島神宮を走っている。

駅からスタジアムまでは、香ばしい匂いと煙がサポーターを誘うキッチンカーの通路を抜ける。
生ビールと牛串で一杯やるのもいいかなぁ。でも呑み人はここでは完全アウェーだ。
深紅のアントラーズサポーターは列を作ってゲートから階段へと続く。むしろアントって感じかな。

後続の149Dが到着すると4つのドアから深紅が溢れ出す。時々混ざる橙はアルビレックス新潟のサポーターだ。
ほぼ空になったこの6000形気動車は、昭和生まれのいささか古い車両だけど転換クロスシート。
気動車のエンジン音と少し大きめの揺れに身を委ね、当間隔で頬を撫でる扇風機に吹かれながら、
良く冷えた生酒をちびりちびり呑んだら愉しいだろうな。でも終点まではあと一駅だ。

鹿島臨海鉄道・大洗鹿島線 水戸〜鹿島サッカースタジアム 50.3km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
恋はご多忙申し上げます / 原由子 1983  


秋山郷・切明温泉 「雪明かり」にて

2023-09-06 | そうだ温泉にいこう!

鳥甲山(2,037m)の荒々しく険しい岩壁は、人を寄せ付けないかの様な荘厳さに満ちている。
ちょうど中津川が深く削った渓谷、秘境「秋山郷」を挟んで苗場山と向かい合うような位置になる。

平家落人の伝承やマタギ文化など、昔ながらの生活様式が色濃く残る秘境地域。
その秋山郷の最奥地に湧く「切明温泉」で週末を過ごそうと車を飛ばしてきた。

ほんのりと硫黄が匂う50度を超える源泉は、ほどよく外気に触れて、
それでも40度を超える熱い湯が、滔々と石造りの湯槽を溢れさせている。
熱さに慣れてきたら、石の縁に頭を載せて首まで浸かってみる。至福だ。

火照った身体を冷ますように、夕餉は冷たい “黒ラベル” ではじめる。
“岩魚” は刺身と塩焼きが贅沢にならぶ。冷水でしまった刺身が美味い。塩焼きは頭からかぶり付く。
小鉢は “クレソンの” と “かぼちゃ” が脇を固めて、絶品の箸休めだ。

岩魚に舌鼓を打つうちに、手打ちの “蕎麦” が運ばれてきた。不揃いな田舎そばがほんのり香る。
“猪鍋” に火がはいる。“天然なめこ” やらたっぷりの山菜が入って、煮えるのが待ち遠しい。

手元はすでに “芋焼酎ロック” に代わっている。
天ぷらは揚げたてを一品一品、オーナー夫妻がかわるがわる皿にのせてくれる。
“岩魚” に、えっとそれから馴染みのない山菜の名は覚え切れない。それほど採れたての地物に拘っている。

ご飯は “おこわ” に “天然舞茸” のお吸い物で〆る。
デザートは “甘酒のアイスクリーム” 、これがまたサッパリと、お膳の余韻を消すことなく、美味しいのだ。

食後は暖炉(もちろん火は無い)の傍で “芋焼酎ロック” を傾けながら、奥さんの弟氏のピアノに耳を傾ける。
Raindrops Keep Fallin' On My Head、The Long And Winding Road、リクエストに即興してくれた。

誰よりも早起きして露天風呂を独占する。中津川のせせらぎを聴きながら、いつまでも浸かっていたい。
そう深夜にもこの湯に浸かった。大自然の漆黒の闇の中、見上げる中天の天の川が美しかった。

7月にZで走った天空の湖・野反湖から流れ落ちるのがこの中津川だ。
河原をスコップで掘ると温泉が湧き出る。冷たい水を引き込んで調整、野趣溢れる露天風呂が楽しい。

テレビもエアコンもない秘境の湯宿。
大自然と掛け流しの湯とオーナー夫妻+弟氏のホスピタリーに癒された週末が愉し過ぎる。
季節をかえて訪ねたい温泉がまた一つ増えたのが嬉しいね。

<40年前に街で流れたJ-POP>
Go Away / 中原めいこ 1982 


風を感じて! ビーナスラインとZと夏の行方

2023-09-02 | 単車でGO!

標高1,700m「女の神展望台」気温26°
さっきまで雲に隠れていた八ヶ岳が一瞬その雄大な姿を見せた。もう風も少し向きを変えた9月。
早朝の中央道に上って2時間と少々、涼を求めてビーナスラインを走りたい。

標高1,400m、蓼科山に抱かれて「白樺湖」気温28°
優美な円錐型の成層火山がなだらかな裾野を広げて美しい。

賑やかだった避暑地も、落ち着きを取り戻しつつある静かな湖畔。

コテージに一人きりで、街に帰った彼女を想って、夏を過ごしたテニスコートを探す。
そんな夏の恋の終わりを感じている人、いそうだなぁ。

 標高1,800m「車山肩」気温24°、ここはニッコウキスゲの群生地だ。
カントリー風の小さな山小屋『ころぼっくるひゅって』で一息つく。

カランっとIced teaの角氷が音を立てて、ウッドデッキのテラス席で涼風に吹かれる。
冷えたグラスの向こうに望むのは遠く浅間山の雄大なシルエットだ。

ヒュッテの代名詞的メニュー “ボルシチ” を熱々の焼きたてパンと一緒に。
トマトソースでホロっと柔らかく煮込んだ牛肉、それに野菜たち、サワークリームを落として美味しい。

標高1,700m「富士見台」気温26°
八ヶ岳の裾野が扇の様に広がって、足元の諏訪盆地そして諏訪湖へと流れる。
なだらかな草原の先に絶景を展開するはずの南アルプスの峰々と富士山は雲に阻まれて見えない。

車山肩から霧ヶ峰へ、ヘアピンを2つ重ねて高度を下げていくのは「天国ロード」だ。
爽快な風に吹かれながら、左にそして右にZを倒し込む。このワインディングが楽しい。

標高2,000m「美しの塔」気温24°
霧ヶ峰交差点を右手にとって、ビーナスラインは県道40号から194号へと乗り換える。
和田峠、扉峠を越え、最後に見上げるかのような九十九折りを登るとビーナスラインの旅は終わる。

山本小屋から少し歩いてみる。
カランコロンっと乾いた鐘の音、「美しの塔」は美ヶ原のシンボルだ。
背景には屏風のように北アルプスの頂たちが連なりを見せている。 

標高820m「中山道和田宿」気温33°
ビーナスラインを走破したのち、野ノ入川の谷、県道178号を下りる。
インジケーターの気温計を見るまでもなく、ジャケットにまとわりつく空気が重くなってくる。
風が少し向きを変え、空の青も彩りを変えつつある9月、高原のワインディングを秋の風を感じて走った。
それでも下界ではもう少しだけ、この狂ったような暑さと折り合いをつけないといけない。

<40年前に街で流れたJ-POP>
夏の行方 / 稲垣潤一 1983