旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

奈良井千軒と寝覚の床と木曽路の女 中央本線を完乗!

2022-07-30 | 呑み鉄放浪記

 照りつける真夏日の日差しは信州の川から湖から水蒸気を吸い上げて、激しい夕立が来そうな空模様だ。
松本から来た8番手の834Mは15分の長い停車をしている。今日5本目の211系もロングシート、また外れたね。

中央本線呑み潰しの後半はJR東海が管轄する通称中央西線、ここ塩尻を境界にして双方を直通する列車はない。
ところで塩尻駅の中二階に塩尻産ワインを提供するカフェバー「アイマニ」を見つけた。6月OPENらしい。
「階段のアイマで、電車を待つアイマニ、人と人が会う間を」だって、なかなか洒落ている。いい感じだね。

頂いたのはサンサン ワイナリーのシャルドネ、2015年に荒れ果てた耕作放棄地に開いた若いワイナリーだ。
“柿沢 シャルドネ ネイキッド2019”、フレッシュな香りに滑らかな口当たり、いいワインに出会った。 

“トマトのカプレーゼ” を抓みながら、ふくよかな果実味を愉しむ。これ「日本酒と日本酒のアイマニ」かな。

16:06 塩尻発、車窓の左右に広がる葡萄畑には土砂降りの雨、列車は水煙を上げて木曽路へと駆ける。
夕立が嘘のように止むと、信州カラーの211系は奈良井駅に滑り込む。夕暮れの宿場の家並みを歩きたい。

旅籠風情を残す家々が折り重なるように連なり、途切れるその先には青々とした山並みが続いている。
冷たい湧水が溢れる水場、高札所、出梁造りに袖卯建と格子のある家並み、情緒たっぷりの風景だ。

険路で知られる鳥居峠を控えたこの宿場は「奈良井千軒」と謳われ大いに栄えた。現在でも容易に想像できる。
木曽路は2013年の夏から秋にかけて歩いた。ご興味があれば「中山道紀行22〜27」をご覧いただきたい。

 9番手の1836Mを木曽福島で下車する。17:50、まだまだ余裕で名古屋に到達できる時間帯なのだけど、
そこは呑み鉄旅、小さな町の酒場で “馬刺し” を肴に木曽の酒を愉しみたい。
ところが大きな誤算、当たりをつけた酒場が2軒とも金曜日というのに暖簾が掛からない。流行り◯の影響か。

夕暮れの町を彷徨うこと1時間、漸く冷たい生ビールにたどり着く、プハァーって思わず大袈裟な声がもれる。
駅から今夜の宿へと向かう途中に開店準備をしていた料理屋を思い出したのだ。ただ郷土料理の品書きはない。
お腹が空いていたので “鶏と夏野菜のグリル”、フュージョンな一皿だがニンニクソースが効いて食欲を唆る。

木曽の地酒は “中乗さん”、料理を生かす名脇役の辛口本醸造は飲食店などに卸している酒らしい。
お姐さん、調理台の上の一升瓶から無造作に注ぐ。大将、この酒を料理にも使っている。この大雑把さもいい。

刻み海苔とネギを絡めて “揚げ出し豆腐” を掬う。なかなかいい味を出している。大将、腕がいいなぁ。
“七笑” も木曽福島の酒、スッキリとした飲みやすさの辛口は、オヤジたちが燗をつけて飲む定番酒だ。旨い。

ホテルはリバーサイド、木曽川沿いリバーサイド、食事もリバーサイド、Oh- リバーサイド。
土曜の朝はサラリーマンが居ない朝食会場、半分は御嶽山か木曽駒への登山客、もう半分は建設関係の方か。

10番手の822Mは07:36発、JR東海の313系は転換クロスシート、これぞ旅気分、プシュッと缶ビール。

車窓から御嶽山を望むポイントがあった。長野方面に向かう列車なら、上松を出て木曽福島到着前、
左手に目立つ御嶽教の神社を過ぎたら前方に注目、王滝川の谷間の奥先にその雄大な姿を見せつけている。
名古屋方面に向かう列車からは振り向く様になる。残念ながらカメラを取り出す間もなく景色は通り過ぎた。

ひとつ目の上松で早速18分の停車となる。長野からの俊足ランナー “特急しなの” の追い抜きを待つためだ。

ボクは “特急しなの” を待たずに旧国道を歩き出す。車窓から見える「寝覚の床」だが間近に観たいものだ。
夏の陽を遮るものなく、瞬く間に吹き出す大汗。駅から20分、汗が目に沁みる頃に臨川寺の門前にたどり着く。
200円をお布施して石段を降りていくと、やがて中山道の景勝地、奇勝・寝覚の床が姿を現す。

木曽川の激流は花崗岩の柱状節理を削り、その特有の割れ方が、大きな箱を並べたような不思議な造形美を
もたらしている。白い岩肌とエメラルドグリーンの流れには、浦島太郎でなくとも魅せられてしまうのだ。

シャッターが開いたばかりの駅前の酒屋、七笑の吟醸 “木曽路の女” の300mlを求めて11番手の1824Mに乗る。
再び寝覚の床を眺める間もなくキャップを切る。ネーミングのとおり爽やかな香り軽い口当たりの酒だ。
『やっと覚えた お酒でも 酔えば淋しさ またつのる ♪』って原田悠里は歌えない。

「木曽路はすべて山の中である」と藤村、中山道で云えば贄川から馬籠までの11宿がこれに相当する。
多くは中央本線の駅名として残っている。木曽路を抜けた1824Mは落合川に停まり中津川に終着するのだ。

 観光案内所で散策Mapを手にしたら、江戸から45宿目、やはり江戸時代の風情を残した町並みを歩く。
めざすは京方の枡形、栗菓子の川上屋(中津川は栗の産地)、“恵那山” のはざま酒造が卯建を上げている。

鉄ちゃんが盛んにシャッターを切っている。1番線に入線して来たアンカーの2730Mは最新鋭の315系。
8両編成の快速電車は中津川〜名古屋を80分で快適に疾走する。でもオールロングシートで旅情は薄い。涙。

8編成の最後尾車両は貸切状態、ロングシートだけど幅広の窓枠、って呑めるんじゃね。さっそく準備を。
栗に小豆、川上屋で冷えた水菓子を求めてきた。これって絶対に吟醸酒に合うね。
穏やかに香る吟醸香、軽やかな甘みの純米吟醸をグイッと、すかさず甘味を一口。美味い、これは堪らないね。

14:13、最新鋭の315系が7番ホームに終着する。なんだか小さな人型ロボットのような愛嬌のある表情だ。
東京駅を発ってから32時間30分、信州の雄大な車窓を愉しみながら、よくも呑んだ中央本線の旅は終わる。
明日からの1週間は禁酒だなぁ。出来もしない誓いを金鯱に立てる呑み人なのです。

     中央本線 東京〜名古屋 396.9km
中央本線(辰野支線) 岡谷〜塩尻   27.7km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
リバーサイドホテル / 井上陽水 1982
     


JY09 山手線立ち呑み事情 立飲スタンド三楽@田端

2022-07-27 | 大人のたしなみ

 手酌のビールを一杯飲み干して人心地がつく。お通しはお揚げともやしの煮付け、結構いい味出している。
申し訳程度のレタスを敷いて “厚切りハムソテー” がカウンターにのった。テレビは川の氾濫を叫んでいる。 

線路の流れに囲まれて中洲のような東田端1,2丁目、昭和の世から時が止まったかの様な一角がある。
都道高架下の三叉路を左に折れると、薄暗い立ち飲みスタンド、更に早番の鉄道マンが屯する角打ちが並ぶ。
どちらも余所者にはかなり難易度が高そう。っで、まだ先客3組の立ち飲みスタンドの縄のれんを潜る。

プラスティック製のボウルに入った角氷をおたまで掬って、サーバーからジョッキーに炭酸が注がれる。
二杯目は “レモンハイ”、決してキレイとは言えないジョッキーはご愛嬌、ここでは味わい深いと評したい。

引き戸の上には品書きの黒板が掛かっている。壁面の柱では扇風機が首を振って淀んだ空気をかき混ぜる。
壁にはモルツ樽生ビールのキャンペーンガール、健康美と浴衣姿が油にまみれて微笑んでいるね。

さて、三杯目に “ウーロンハイ” を択んだら、ご常連さんに倣って “ハンペンバター” を注文する。
プライパンにバターを敷いて、手のひら大のパンペンに焼き色を付けてくれる。一味を振るか、柚子胡椒か、 

案外美味しいアテになる。今宵は〆て1,490円、古き良き昭和な風景に溶け込んで愉しい時間を過ごした。
次回、山手線は大きく左カーブして武蔵野台地へと登っていく。駒込界隈でお会いしましょう。

<40年前に街で流れたJ-POP>
待つわ / あみん 1982


諏訪の浮城と信州みそ天丼と舞姫と 中央本線を往く!

2022-07-23 | 呑み鉄放浪記

 幾何学的なクロスポイントが鈍く光っている。昨晩の雨の湿気をたっぷりと抱えた朝の空気を衝いて、
折り返し555TとなるE233系が高架を駆け上ってきた。5:45AM、名古屋をめざして中央本線の旅は始まる。

中野から西へ向かう高架から朝の街並みを眺めていると、退廃的だった学生の頃を思い出す。
歌舞伎町で朝まで飲んだか踊ったか、高田馬場あたりで徹マンが明けたか、こんなふうに中央快速に揺られた。

高尾からの2番手は淡いブルーと淡いグリーンの帯、爽やかな信州カラーの211系6両編成がバトンを継ぐ。
この辺りの山間谷間は、2015〜2016年に甲州街道を踏破したので馴染みの景色、小仏峠も笹子峠も山を越えた。

通勤通学客もいっぱいに521Mが甲府に到着。駅前広場では戦国の英傑武田信玄が睨みを効かせている。
15分ほどの待ち合わせで、3番手の松本行き431Mはグッと短く3両編成で信州をめざす。

3両編成が韮崎を出たあたりから車窓は今日のハイライトを迎える。左手は夏の雲を従えて南アルプスの北端が
手が届くかのように迫り、列車が大きな左カーブを描くと振り返るように富士山のシルエットが存在感を示す。
右手には大きく裾野を広げた八ヶ岳が近づいてくる。431Mは甲信国境に向かってさらに高度を上げていく。

大きなリュックを背負って岳人たちが小淵沢で降りていくと、車内は一時がらんとしてしまう。
この瞬間を待っていた呑み人、バックから “レモンサワー” を取り出してプシュ。本日の一杯目を愉しむ。

狂ったように蝉が鳴いている青柳駅、“あずさ5号” がミュージックホーンを鳴らして本線を駆け降りていった。
特急の追い抜きを待つ停車時間は、乗務員氏にも暫し緊張の解ける瞬間でもある。

 霧ヶ峰、八ヶ岳、南アルプス、山々から流れ込んだ水は、天竜川に流れ落ちるまでの一時を諏訪湖に湛える。
周囲約16kmの信州一大きな諏訪湖、上諏訪の湖畔には温泉や美術館が点在し、四季を通じて訪ねる人は多い。

湖畔公園から南へ歩くと、衣之渡郭、三之丸、二之丸、本丸が一直線に並ぶ「連郭式」の高島城が見えてくる。
湖水と湿地に囲まれて、あたかも諏訪湖に浮かぶかのような姿から「諏訪の浮城」と呼ばれていたそうだ。

舞姫、麗人、本金、横笛に真澄、諏訪五蔵の銘柄は、字面も響きも美しいと思う。
五蔵は城下の東を南北に貫く甲州街道に、風格のある白壁の土蔵造や、趣のある「雀踊り」を載せた蔵が並ぶ。

酒蔵を巡るなら、バック、利き酒グラス、スタンプカードの「ごくらくセット」を駅前の諏訪観光協会で求め、
街道風情を感じながら、ゆるりと蔵自慢の酒を味わい歩くと愉しいと思う。浴衣姿に下駄を鳴らしてね。

今頃は流行りの関係で試飲を一時休止しているからご注意を。(現在は試飲の代わりにカップ酒を提供中)
ならば店で飲もうかと、呑み人は「セラ真澄」を出て上諏訪駅方面へと戻る。

「れすとらん割烹いずみ屋」は甲州街道を歩いたときにも訪ねた。昼から飲んでも違和感ないのが嬉しい。
舞姫の “芳醇 静” を択んだ。やわらかな香りの淡麗は、冷でよし燗でなおよしの本醸造、厳しい諏訪の冬、
オヤジたちが燗をつけて飲むんだろうなぁ。っで今日は冷やで、“ごまどうふ” を突っつきながらいただく。

味噌ダレをたっぷりかけた “みそ天丼” は信州諏訪にご当地グルメを育てようと頑張っている。
地元の野菜に、諏訪湖の “わかさぎ” に “川エビ” がのって、酒の肴になるから嬉しいね。なかなか美味だ。

4番手の435Mはひと駅だけ乗車して下諏訪に途中下車、諏訪大社 下社 秋宮を訪ねておきたい。

信濃國一之宮・諏訪大社は国内にある最も古い神社の一つ、諏訪湖周辺に4つ境内があってその一つが下社秋宮。
諏訪大社には本殿がなく、秋宮の場合代りに一位の木を御神木として拝している。    

今年は7年に一度の御柱祭(おんばしらさい)の年、その勇壮さと熱狂が有名な諏訪大社では最大の神事であり、
社殿の四隅には真新しい樅の巨木「御柱」が立っていた。この春は善光寺ご開帳と合わせて多くの人を集めた。

5番手の437M松本行きが6両編成で入ってきた。中央本線の211系(信州カラー)はロングシートの編成と
セミクロスシートの編成が混在していて当たり外れが大きい。ここまでの4本はすべて「外れ」ときている。
呑み鉄としては当然セミクロスシートを期待する訳だ。秋宮の往復で吹き出した汗が強い冷房で引いていく。

列車は長い塩嶺トンネルを抜け約15分で塩尻駅に到着する。塩尻駅での中央本線は、東京からの東線、
辰野を回ってきた支線、名古屋からの西線が束になって、篠ノ井線となって松本長野方面に続く。

沿線の勝沼と同様、塩尻も日本ワインの主要な産地である。
駅舎の駅名表示はオーク樽に焼印のデザイン、駅前広場には塩尻ワインを扱う観光案内所やWineBarが見える。
反対側の西口から延びる県道を走れば、葡萄畑が広がり、いくつかのワイナリーを訪ねることができる。

さてここで呑み人は岡谷まで戻る。1983年の塩嶺トンネル開通でローカル線に転じた辰野支線を潰さないと。
岡谷から6番手の218M、窯口水門から流れ落ちる天竜川に沿って辰野へ。オレンジの2両編成はJR東海の車両、
飯田線に乗り入れて天竜峡まで走る。辰野駅では東日本から東海へと乗務員の引き継ぎをしている。
ホーム向かい側の163Mに乗り換えると、再びの塩尻までは20分と少々の乗車になる。

辰野〜塩尻間をシャトルしている7番手、E127系は一部にボックスシートを持っている。
それではっと、涼しげな青いボトルの “麗人” のスクリューキャップを切る。ちょっとだけ味見をしよう。
匂ってきそうな青々とした田圃を眺めながら、フルーティーな香りで爽やかな純米吟醸が冷たくて美味しい。

      中央本線 東京〜塩尻 222.1km
中央本線(辰野支線) 岡谷〜塩尻   27.7km

<40年前に街で流れたJ-POP>
ダンスはうまく踊れない / 高樹澪 1982


旅先のひと皿 瀬戸「ネギみそかつ」

2022-07-20 | 旅のアクセント

 やきものの町を散策した休日、薄らと汗をかいたら「みそかつレスト サカエ」で冷たいビールを一杯。
アテに択んだのは "ネギみそかつ"、甘い味噌ダレを山盛の刻みネギが中和して、これがなかなか美味しい。

2019年から2年間、名鉄や市営地下鉄を潰しにはるばる中京に遠征した。勢い “味噌カツ” を食す機会は多い。
八丁味噌をベースにした甘いタレの「名古屋めし」は、たいてい後半には飽きが来るのだけれど、
この豚カツを覆うシャキシャキの刻みネギとの相性は抜群、最後まで美味しくいただきましたとさ。
栄町から30分、窯元や工房を巡って名古屋めしを食す。瀬戸への小さな旅は密やかな大人の散歩コースなのだ。


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<40年前に街で流れたJ-POP>
素敵なラブリーボーイ / 小泉今日子 1982


JY08 山手線立ち呑み事情 魚がし日本一@西日暮里

2022-07-16 | 大人のたしなみ

 夕暮れの西日暮里駅ガード下に立ち食い寿司の店を見つけた。ここで一杯やったら立ち呑みになるね。
っという訳で、立ち呑みで巡る山手線の旅、8回目の途中下車は西日暮里、今夕鮨を抓みながら呑む。

20人くらい立てるかな、底辺が極端に短いL字カウンターの中に二人の寿司職人、清潔感に溢れる店内だ。

ホワイトボードには定番酒の他に二銘柄、先ずは “純辛墨廼江” を択ぶ。石巻の酒が寿司に合わない訳がない。
あるじゃぁないの絶好のアテが、“ねぎとろこぼれ” だって。これは嬉しいね。呑み人はこれに目がない。
山葵たっぷりに、箸先でネギトロを突っつく。スカッと辛口、キリッ酸味の夏純米で流して美味しい。

本日のお薦め3貫セットは、“こしょう鯛” に“漬けまぐろ” それに “まぐろとアボカドのサラダ軍艦”。
このトリオの奏では味わっておきたい。すかさず陶の酒器に “鷹勇” が注がれる。これも鳥取は漁港の町の酒。
雄大な大山のふもとの蔵だから、いつか山陰本線を潰すときには訪ねてみてもいいな。

定番ネタは一貫75円・100円・125円を二貫ずつ注文するお作法、高級ネタは一貫から握ってくれる。
少し高めの回転寿司の価格設定だけど味には大満足、市中の寿司屋さんに飛び込むよりも確かかもしれない。

酒に気持ちが大きくなった呑み人、好きなネタ食べたいネタを奔放に抓んで、結構なお勘定になってしまう。
もとよりこの手の店に長居するのは粋ではないな、反省しきりなのだ。それでは次回、田端で仕切り直しを。

<40年前に街で流れたJ-POP>
ラ・セゾン / アン・ルイス 1982 


駅そば日記 立川「長田本庄軒」

2022-07-13 | 旅のアクセント

 香ばしいソースが絡んだモチモチの太麺、じっくり煮込んだとろろろの牛すじ、ゴロゴロっとサイの目の
煮込こんにゃく、たっぷりの刻みネギをのせた “ぼっかけ焼きそば” はどうやら神戸のB級グルメらしい。

     

L字カウンターに囲まれた大きな鉄板で、まるでお好み焼きのようにジュージュー焼いてくれる。
焼き色が付いてきた太麺におたまにたっぷりのソースをかけると、ジュッ、白い湯気と甘い香りが広がる。
そんな様子を眺めながら、冷たいジョッキーを呷って待つ。なかなかいい時間だ。

ほどよい待ち時間でボクの “ぼっかけ” が登場、目玉焼きのトッピングを奮発して、マヨネーズもかけちゃう。
量感たっぷりに口に運ぶ。太麺がモチモチ、ときおりシャキッシャキとキャベツ、奥歯にクニュっとこんにゃく、
濃厚な甘辛の太麺に、案外アッサリなぼっかけ(牛スジとこんにゃく)、食感と味の変化が楽しい。
後半、割り箸で突っついて黄身がトロリと麺を包むと今度はマイルドに美味しい。一食の価値ある一皿だ。

ここは多摩のターミナル立川、3路線が連絡する忙しい駅のコンコースに、なぜか「神戸」を見つけた。
ほんとは青梅線ホームの「奥多摩そば」を食べに来たんだけどね。美味しいイレギュラー発生が楽しい。
東京へ戻る中央快速に乗ったけど、シャツ(おそらく髪にも)についた甘い匂いが気になる呑み人なのだ。


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<40年前に街で流れたJ-POP>
真夏の少女 / 堀ちえみ 1982
     


風を感じて! She's so delicate.

2022-07-09 | 単車でGO!

往復4車線の旧国道、彼女は約束の店の前でボクを待っていた。
暑いんだから入って待てばいいのにと云うと、上目遣いに「いいの」と一言。愛おしくなる。

ほどよく冷房が効いたショップに入る。アイスコーヒーを運んできたマスターが、そのままボクたちの席に座る。
頼みもしないのに、お節介にもマスターは気難しい彼女の扱い方をボクに説明し始めた。
彼女がこの店の常連とは聞いていたけど、元カレでもなければ、共通の友人でもあるまいに。

30〜40分位だろうか、ようやく奇妙なテーブルから解放されて、彼女と二人きり、少し遠出をしようか。

今日の彼女、しなやかな脚にはブラウンのタイトスカートを纏い、さりげなくシャンパンゴールドの
アンクレットを着けている。上品なオレンジのトップスに包まれた上半身は、案外ボリューミーだ。

そういえばマスターが言っていた。近頃の彼女はデリケートだから、最初の1,000kmは4,000rpm以下でと。
気遣ってやれってこと?言われるまでもない。スロットルは優しく開き、シフトダウンはゆっくり時間をかけて。

店を出てから2時間、ボクたちは多摩川に沿ったワインディングを駆けて神秘の大宮殿までやってきた。
ここに誘ったのは、彼女が大宮殿の主人公に相応しいほどステキだから。ここはシンデレラが踊った古城か、
はたまたララ・クロフトが躍動した遺跡の空間か、どちらを演じたら似合うだろうか。

古城に例えるなら、100名の晩餐会が開けそうなゴールドのシャンデリアが煌めくダイニングを通って、
舞踏会を催すホールは、5階まで吹き抜けるような尖塔を、カクテル光線が内から照らしている。

大宮殿を後にしたボクらは、一度多摩川の谷間で戻り、さらに上流へと走る。やがてエメラルドグリーンの
水を湛えた湖畔に出る。風が青もみじを揺らして一瞬涼やかになる。少し話そうか。

せっかくだからダムにも寄ってみる。空と山と水が織りなす青から緑へのグラデーションが美しい。
夏の日差しは痛いほど射るけど、標高500mを渡る風は案外涼しげなのだ。

ダム天端から下を覗き込むとさらに涼しい。下半身をツーと冷ややかなものが流れる感じだ。
もっとも高いところが苦手だという彼女は、駐車場に残ると言って聞かなかった。

そういえば「最初のデートはイタリアンが無難だよね」と、うちの部の若い社員が二人で話していた。
どこぞのハウツー本にでも書いてあったのだろう。
でもこの谷間に気の利いたイタリアンレストランがある訳もなく、やはり古民家風の蕎麦処を択んだ。

“なめこざるそば” の注文を取って立ち去りかけた店員さんに、「あと」っと挙げかけたボクの右手を
彼女の右手が柔らかく押さえて、「ビールはだめよ」と優しく囁く。
どうやら二人のときはアルコールはNGらしい。これから呑み人の呑まない旅がはじまりそうな予感だ。

湖畔を巡るワインディングの橋上、今日、彼女を連れて帰りたい衝動に駆られている。それとも拙速だろうか。
そんなボクの葛藤を背中で感じて楽しんでいるだろうか。湖面を見つめる彼女が長い髪を風にそよがせている。

<40年前に街で流れたJ-POP> 
彼女はデリケート / 佐野元春 1982
     


人生のそばから 浦和「あさぎや」

2022-07-06 | 旅のアクセント

 「はじめまして」のそば処を訪ねたら、“もり” か “ざる” を注文するのが良いだろうか。
先ずは薬味は入れずに、さっと汁につけてツルッと一口。んっ喉越しがいいね。
蕎麦猪口に大根おろしを一気に入れたら、霙をたっぷり絡めでズズッと一口。この辛味が楽しいね。
つけ汁を足して山葵を落とす、溶かない。無作法だけど、たっぷり汁に浸してズズッ。おっとツンときた。

蕎麦前は天ぷらを盛り合わせて、夏野菜と大ぶりの海老天が嬉しい。
酒は “天狗舞” を冷でいただく。山廃仕込特有の濃い山吹色が蛇の目を染めると、もうそれだけで楽しい。
香味と酸味が豊かな純米酒をちびりちびりやりながら、カラッと揚がった天ぷらに塩をまぶして口に運ぶ。
真夏日の休日、冷たい蕎麦を待つこの時間が心地いい。


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<40年前に街で流れたJ-POP>
夏のヒロイン / 河合奈保子 1982


JY07 山手線立ち呑み事情 やなか純米や@日暮里

2022-07-02 | 大人のたしなみ

青緑の美しいラベルは新政 ”ヴィリジアン”、秋田最高級酒米 ”美郷錦” で醸した爽やかな甘みのある酒だ。
アテはというと “冷やしトマトの土佐酢マリネ”、大葉とかつお節を散らして、さっぱり爽やかに美味しい。

山手線を立ち呑みで巡る7回目は日暮里駅に途中下車、北改札を抜けたら西日差す御殿坂を登ってみる。
昭和の面影が色濃く残る「谷中ぎんざ」は、昔懐かしい町並みに古い木造の商店やレトロなカフェが点在する。
この商店街に週末だけ灯をつける「やなか純米や」は、ちょっと洒落た立ち呑み屋なのだ。

さて日本酒は「本日のラインナップ」から辛口を択ぼうと思う。先ずは “黒龍 大吟醸 CRYSTAL DRAGON”、
「五百万⽯」と「さかほまれ」で仕込んだ大吟醸は、飲食店流通に限定、深い味わいの辛口の酒だ。
“燻製ベーコンのポテトサラダ” はちょっと酸味が効いている。薫るベーコンにカリカリのオニオンがいい。

ほとんどのメニューは550円、券売機で550円×4枚の食券を2,000円で求める。チェックした注文票と一緒に
カウンターに持参すると、酒類はその場で注いでくれる。アテはテーブルに届けてくれるシステムになる。
アテはちょっと高めだけど、一品一品がひと工夫もふた工夫もあって、満足のいくそれこそ逸品揃いだ。

“しっとり焼豚 葱とパクチーのせ” は八角や生姜の下味がついて、しっとり柔らかに焼き上がったひと皿。
辛口の二杯目は “篠峯 夏凛 雄町”、フレッシュで爽やかな純米吟醸無濾過生原酒は、まさに凛とした夏酒だ。
三陸産を出汁醤油に漬け込んで、さっと揚げた “鯖の竜田揚げ”、このアツアツも辛口の酒に合うなぁ。 

ネーミングに釣られて〆のひと皿は “谷中の焼き立てジューシー本格下町餃子”、なっ長い。
でも偽りなく、ニンニクが効いた粗挽きの豚肉がとってもジューシーでもちもちの餃子はなかなか美味い。
そして高知の “南 純米大吟醸 五百万石” で流す。酸味とキレがバランス良く両立した酒の味と香りが楽しい。

それにしてもこの小洒落た空間は女子飲みやカップルが多い、ご同輩の皆さま、間違っても独りで、あるいは
連れ立って足を踏み込むことなきよう。間違いなく浮き上がります。それでは次回は西日暮里で。

<40年前に街で流れたJ-POP>
渚のバルコニー / 松田聖子 1982