昨年までマンモグラフィ検査を受けていたのは、アラモアナショッピングセンターの敷地内にあるビルの中にあったのだが、そこはもうなくなってしまったのだという。
今年の2月に、前回から1年たったことを知らせる通知を受け取ったばかりだったのに、何があったのか。
駐車場はいくらでもあるし、わかりやすいし便利だったのだけれど。
そこで、主治医がいくつか病院を紹介してくれた。
「セントフランシスか、クイーンか、クアキニなら、どこがいい?」
セントフランシスは、遠い。
クイーンは、以前、友人が行ったら、治療費とは別に『施設使用料』という名目で600ドル(9万円!)請求されたと聞いたばかりだったので却下。
残るはクアキニ。
クアキニは、ホノルルには違いないが家から1番近く、30分ほどで行ける。
しかし建て増しを繰り返したような建物が3つあって、駐車場からのアクセスもわかりにくく、中は迷路のようになっているので、スーパー方向音痴の私は腰が引けてしまう。
他の人もそう思うらしく、主治医の事務方の人が、見取り図を印刷してくれた。
そこには英語でこう書いてある。
『駐車場に車を停めたら、エレベーターで1階に降り、エマージェンシーの方に向かって歩いていくと、自動ドアがある。そこを通ったら、”外来診療の受付”はどこかと誰かに尋ねてください』
場所を説明するんじゃなくて、誰かに聞けと。なるほど。
予約日の前日、ドクターから電話があって、簡単な問診を受けた。
当日、迷う気満々で、かなり早めに家を出た。
無事に車を停め、エレベーターで1階に降り、エマージェンシーに向かって・・・
って、どこにエマージェンシーがあるのさ。
エレベーターを降りた目の前にあるのは、外に出る手押しのドアと、右側には建物に入るドア。
試しに建物のほうに入ってみると、そこは売店と薬局、診察室があり、エレベーターがある。
主治医にもらった紙を確認すると、私がいるのは駐車場に隣接しているメディカルプラザで、私が行くべきはメディカルセンターであるらしい。
見取り図によると、それは3つある建物の真ん中にある。
私は建物の外に出てエマージェンシーを探すが、どこにもない。
(待てよ、なにもエマージェンシーを探さなくても、真ん中の建物に入ればなんとかなるんじゃないの?)
道に迷ったとき、私の心の声はたいてい間違っているが、この時だけは正しかった。
真ん中の建物に入ると受付があり、年配の女性が座っていた。
「外来診療の受付は・・・」
と聞くと、
「もう予約してあるのね?えーと、どこに行きたいのかしら」
満面の笑顔で聞いてくる。
「レディオロジーでマンモグラフィ検査を受けるんですけど」
「オッケー!私についてきて」
女性は先に立って歩き、エレベーターのボタンを押す。
「あそこはね、地下にあるの」
地下に降りて、グネグネと廊下をいくつも曲がっていく。私は正しく元来た道を辿って帰れるのだろうか。
「なんだか私、迷っちゃいそう」
すると女性は笑って言った。
「おほほ!そうなのよ、ここはねえ、クセモノなのよ」
ラボのドアの前に来て、ドアを開けてくれた。
「はい、ここよ。それじゃあね」
「親切にありがとうございました」
ラボの受付の人達も、検査技師も、とってもフレンドリーで親切だった。アラモアナよりもずっといいじゃないか。
予約時間よりも30分以上も早くついてしまったのに、すぐにやってくれて、あっという間に終わった。
問題なのは、帰り道。
来るとき、エレベーターを降りてからずいぶん歩いたのに、ごく近くにエレベーターがあった。
大きな病院だから、何基もエレベーターがあるのだ。アホな私は、自分がいる場所が地下だということを完全に忘れていて、5階だと勘違いしていた。
5階なのは、私が停めた駐車場だ。
エレベーターには上に行くボタンしかなく、これはおかしいと思って(おかしいのは私だ)それに乗るのをやめて、来たときに乗ったエレベーターを探すことにした。
歩き始めると、外を人が歩いているのが見えた。
「!!」
ここは5階じゃないのか!
そこでここが地下だったことをようやく思い出す。
でも地下なのに、なぜ外を人が歩いているのだ。
普通に考えれば、高低差のある土地に建てた建物にはよくあることなのに、私は狐につままれた気分。
とりあえず、外に出て歩いて行くと、メディカルプラザと書かれたドアが遠くに見えた。
プラザと駐車場は繋がっているはず。
これで帰れると早足で歩いていると、エマージェンシーを発見。
なんとエマージェンシーはここにあった。
なんとか駐車場に着き、エレベーターに乗って5階に行く。降りると、女性が話しかけてきた。
「このエレベーターも、同じ場所に着くの?私はいつもあっちしか使ったことがないんだけど・・・」
そのエレベーターは、来るときに乗ったものとは別のものだった。
「私もよくわからないんだけど。降りるときは向こうを使って、適当に乗ったらこっちだったので」
「混乱するわー・・・」
確かにそうだけど、私はクアキニが好きだ。
夫によると、クアキニは80年以上も昔に創られて、医者も患者も日系アメリカ人が殆どだったそうである。
今でも、日本の苗字をもつ医者が多いし、気のせいか患者も日本人顔が多い。
病院の隣りは日本の総領事館で、このあたりは日本人が多く住んでいたのかも。
クイーンのように洗練されたモダンさはないけれど、人も雰囲気も温かい感じがする。
今後も、クアキニに来よう。
何度も行くうちに、あの迷路にも少しは慣れるかもしれない。