『「エジプトはナイルの賜物」今は昔の話、塩害に苦しむエジプト)』
―アスワン・ハイ・ダム vs 大エチオピア再生(復興)ルネッサンスダム ―
『水の惑星』も『宇宙船地球号』である以上は、規模の大小『水道水から大河川の水まで』に拘わらず、水は上手に使いたいものです。 先ずは大きな話題です。 中国の三峡ダム、ブラジル・パラグアイ国境の『イタイプ発電所』に次ぐ、アマゾン川『支流』に世界3位のベロモンテ水力発電所が建設中です。
アマゾン川流域にはすでに百数十か所の発電所がありますが、この大河(水位変化幅はナイルと同様およそ10m)の下流には塩害の話は聞いておらず、流量・流域スケールの巨大さの所為でしょうか。
少し脱線で恐縮です。 昔お世話になった会社で南米に駐在したときに、この『イタイプ発電所』にCCTVの売り込みに行ったことがありました。 サイトからアスンシオンへの帰路、代理店社長車のタイヤ(スペアも)パンクでジャングルの道路傍らでビバーク、念願のイグアスの滝は、真っ暗な明け方に滝の爆音だけ聞いたという残念無念のオマケが付きました。
この時でした。 南米でテレビ放送機の販売に強かった競合の某メーカーの製品ラインアップとセールスパワーに驚きました。 もっと驚かされたのは、瞬時を争うテレビ放送機器のサービスの移動にはチャーターの小型飛行機を使っていました。
大河川に発電用・貯水用又は兼用のダムが建設されると、流量変動と流送土砂量の変化が沖積河川生態系に.影響が、その一つ、塩害を及ぼす。 顕著に出ているのは、ナイル川とチグリス・ユーフラテス川です。
『エジプトはナイルの賜物』と言われますが、誰が言ったかは二説あり、通説と記録は、違う場合がたまにはあります。 とにかくエジプトの場合は、約4500年前に建造された大ピラミッドの『想像を絶する大建造物で、中の内部構造(重力軽減の間・大回廊構造等)の精巧さと、そのベースになる科学理論』は未だに、多くの謎です。
『世界の四大文明』のひとつエジプト文明を誕生・成長させたのはナイル川(暴れ川ともいえる)の年間の水位差約10mがもたらす、肥えた土壌を運ぶ洪水も一因であると思っています。 洪水はナイル川の上流、青ナイル流域の雨期に起因していました。 この洪水を予想し対策をするために天文学の発達かあり、同時に古代エジプトの『エジプト数学 』の進歩がありました。
『国際的には、「四大文明」ではなく「文明のゆりかご」(Cradle of civilization)という。「文明のゆりかご」は、肥沃な三日月地帯を念頭に起きつつ、長江文明・メソアメリカ文明・アンデス文明なども含み、明確な数も決まっていない。』
『エジプト数学 (Egyptian mathematics)とは、 紀元前3000年から紀元前300年頃の古代エジプトにおいて、主にエジプト語を用いて行われた 数学 全般を指す。』
文明(文化も含む)発展・発達には、ナイル川や長江のような、大河川の悠久の流れとゆったりした時間の流れが必要であったように思えます。 悠久の流れを育むのが『河床勾配』ですがナイル川の0.02%は、他の文明発祥地の大河川(長江0.08%、黄河0.09%、インダス0.14%、ユーフラテス0.13%、チグリス0.04%)の数分の一です。
エジプトのロックフィル、のアスワン・ハイ・ダムは完成当時、世界最大級の発電規模であったが、半世紀後に完成した、コンクリート製の大エチオピア再生(復興)ルネッサンスダムに発電能力ではあっさりと抜かれた。 ダム湖容量はアスワン・ハイ・ダム約2倍と大きく、砂漠地帯の灌漑と漁業に貢献しています。
さて、表題の『「エジプトはナイルの賜物」今は昔の話、塩害に苦しむエジプト)』
―アスワン・ハイ・ダム vs 大エチオピア再生(復興)ルネッサンスダム ―
に戻ります。
アスワン・ハイ・ダム(ロックフィルダム 1960着工・1970竣工)
ウキペデイアから引用
- 堤高 - 111 m
- 堤頂長 - 3600 m
- 幅(基礎部分) - 980 m
- 厚さ(基礎部分) - 180 m
- 発電能力 - 2.1 GW (175 MWの水力発電機が12基)
- ダム湖容量 – 132㎞³
大エチオピア再生(復興)ルネッサンスダム(コンクリートダム)
(2011着工・2020竣工)
ウェブ情報から引用
- 堤高 - 155 m
- 堤頂長 - 1780 m
- 幅(基礎部分) - 500 m
- 厚さ(基礎部分) - m
- 発電能力 – 6.45GW (16基の内14基が400 MWのアップグレード)
- ダム湖容量 – 74㎞³
二つのダムの位置関係ですが、エジプトのアスワンダムは、ナイル川の中流で、白ナイルと青ナイルの合流点から、直線距離で約1000㎞下流の砂漠の中にあります。 エチオピアの大ルネッサンスダムは、合流点から直線距離で約600㎞上流の熱帯雨林地帯にあります。
アフリカの二大巨大ダムの位置関係・流量比較
ウェブ情報から引用
ウェブ情報から引用
白ナイルと青ナイルの年間流量は、青ナイルは白ナイルの約二倍です。 この青ナイルに、コンクリートダム、堤高 - 155 mの大ルネッサンスダムが建設されました。
繰り返しになりますが、『エジプトはナイルの賜物』とはナイル川が運ぶ肥沃な土のおかげで、エジプトの壮大な文明・国家が築かれた、の意、ギリシャの歴史家ヘロドトスの言葉です。 ヘロドトスが述べるように、豊かな古代文明を発達させた「エジプトはナイルの賜物」なのである。 従って、エジプト政府は、ナイルの水量確保を譲れない国益としてこの問題に対応することになる。
ウェブ情報です
乾燥地域である中東・北アフリカおいて、人間の命を保ち、農業を成り立たせ食糧確保を行う元となる水は最重要資源である。 ナイル川は、そのことを示す最も顕著な例。
これに対し、エチオピアからすれば、自国の経済発展上でネックとなっている電力不足を解消する上で、GERD(the Grand Ethiopian Renaissance Dam)建設は必要不可欠なものと考えており、建設・発電は譲れない。これまで、両国に加え、スーダンは、この問題につき協議を重ねてきている。しかし、協議がまとまらない場合、アラブ諸国及びアフリカ諸国内で中心的役割を果たしてきたエジプトとアフリカ連合の本部が置かれアフリカ諸国に大きな影響力のあるエチオピアという2つの地域大国の対立は、今後継続してアフリカ大陸の平和と安定にとっての脅威となりうる。以下、GERD建設を巡る対立とその解決に向けての方策について探ってみたい。
ナイル川は、スーダンのハルツームで、アフリカ東中部のビクトリア湖から流れ出る白ナイル川及びエチオピアから流れ出る青ナイル川が合流し、エジプトへと流れているが、エジプトが受ける水の86%は、青ナイル川が運んできたものである。 従って、もし青ナイル上にダムを建設し、貯水を行えば下流に流れる水量に多大な影響を与える可能性が出てくる。
GERDは、水力発電用のもので、その発電能力は、600万キロワット、日本の黒部第4ダムの33.5万キロワットと比較すれば分かるように、圧倒的な発電量であり、ここで発電された電力は、隣国にも供給されるとしている。 一方、発電を行うためには、ある程度の貯水が必要であり、それをいつどのような量で行うか、エジプト、スーダンが干ばつにみまわれた場合の対応措置をどうするかが、交渉における大きなポイントとなっている。
エジプト、スーダン、エチオピアの関係3か国は、2019年11月以降、各国が相互に担当相が訪問して4回にわたる技術会合を開催し、2020年1月には、米国ワシントンで、米国及び世界銀行も入って、GERDに関する最終合意を結ぶための会合を開催した。 1月13~15日の会合で最終合意が成らなかったため、同月末にワシントンで再度会合を開催し、貯水スケジュールに加え、短期的及び長期的な干ばつの被害削減を図るメカニズムづくりの問題につき専門家が更に協議を行い合意案を策定し、2月末までには3か国が最終合意書に署名するとされた。
しかし、2月末までに専門家間で最終合意に達することはなく、7月上旬、アフリカ連合(AU)の調停で、オンライン協議を連日実施していたが、同月13日には決裂した。 このような中、7月15日、エチオピア政府が、GERDの貯水が始まったと表明すると、エジプトは反発し、緊張が高まった。 この件については、15日の貯水開始は誤報で、雨期の豪雨で自然に水がたまったものであることをエチオピア政府が説明するとともに、7月21日、3か国首脳が、協議継続で合意したことを発表し収まったが、従前からの対立点は合意に至っておらず、火種は残っており、今後も注視していく必要がある。
今後の注目点
上述した交渉状況から分かることは、合意を疎外する技術的な問題は、ダム貯水と干ばつ時や干ばつ年が継続する際の被害削減のためのメカニズムづくりであること、これらにつき専門家間で話し合いを継続しても、半年以上の間合意に達することができない事実である。
ブルッキングス研究所のジョン・ムクン・ンバク(John Mukum Mbaku)非常勤上級研究員は、この背景として、エジプトが、1929年のAnglo-Egyptian Treaty (1929AET)と1959年のAgreement between Egypt and Sudan(1959 AES)を根拠に、ナイルの水に対する自国の特別の権利(「自然的・歴史的権利」)を主張し続けていることを挙げている。 1929AETはイギリスとエジプトが、1959AESはエジプトとスーダンが結んだ条約であるが、その中でナイルの水に対するエジプトの権利が認められており、同国の同意なしにナイルの水量その他に関する変更は認められないとするのである。
エチオピアを始めとするナイル川流域諸国からすれば、自国のナイルの水に対する権利を考えれば、エジプトの「自然的・歴史的権利」の主張は認めがたいものがある。
このような埋め難い主張の隔たりを克服することも考え、アメリカと世界銀行が調停者となり、本年1月の3か国協議がなされたわけであるが、両者以外にも域外諸国等が、この問題に関心を示している。例えばロシアは、ラブロフ外相がAUトロイカ外相とのオンライン協議で、GERD問題に対し、支援の申し出をしている。 ラブロフ外相はアメリカによる調停に言及しつつ、この申し出をしており、この問題が大国間の競争の道具にされる可能性も生まれてきているとも言える。エチオピアの近年のインフラ開発は、中国の資金的援助により進められおり、GERDはその代表的なものである。これまで中国は、交渉に対して介入する姿勢は見せていないが、エチオピアの背後に中国がいることを忘れるべきではない。
したがって、ロシアや中国などが介入し問題が複雑化する前に、最終合意に向けた交渉を再開するべきである。このためには、アメリカの調停者としての役割は重要である。エジプトを説得し、ナイルの水がエジプトの生死にかかわることを認めつつも、技術的な課題解決に関係3か国を向かわせるようにする必要がある。現在アメリカは、大統領選挙を前にして外交的動きが十分に取れない状況ではあるが、大統領選挙後すぐさま調停に携われるようにすべきである。それまでの間、日本を始めとする他の域外国は、関係3か国に対し、それぞれの話を聞きつつ、アメリカが調停する交渉に参加するよう促し、 大統領選挙後すぐにも交渉が始まるような国際環境づくりに貢献すべきである。
国家間の紛争の解決には、新しい『地球的・世界的規模体制』の構想必要ですが、遅きに失しています。 最近の大国の独裁的動きのリーダーの皆様、七十数億人の人間が、生きるためには『自分・家族・自国、最適』から古くて新しい『自由・平等・博愛』に向けて頑張って頂きたいと思っています。
(20200914纏め、20210917追補、#289)