原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

職場に於ける妊婦の権利をどこまで保障するべきか?

2013年09月28日 | 時事論評
 最近、マタハラ(マタニティ・ハラスメント)なる言葉が幅を利かせているようだ。

 以下に、ウィキペディアより検索したその言葉の意味と現状を記そう。
 マタハラとは、妊娠・出産をしたことが業務上支障をきたすという理由で、精神的・肉体的な嫌がらせを行い、退職を促す行為のことを指す。
 嫌がらせによる流産の危険性もあり、男女雇用機会均等法はもちろん労働基準法に違反する場合も多々見受けられる。 2012年に日本労働組合総連合会が行った調査では、「セクシャルハラスメントされた経験」(17.0%)を大きく上回る25.6%が被害を受けたとの結果が出た。 (以上、ウィキペディアより引用。)


 原左都子自身も妊娠中に職場で働いた経験がある。
 今から遡る事20年程前に高校教員をしていた頃の話だ。 参考のため、当時の社会は今程に妊婦の権利が保障されていない時代背景だった。

 私の場合高齢での妊娠だったにもかかわらず、妊娠当初に訪れた産院主治医先生が、働く妊婦に大いに理解がある人物だったことに勇気付けられたとも言える。
 「高齢出産になる身で仕事も持っていますが、日常生活上何か留意すべき事などありますか?」 と問う私に、「現在は体調良好のようですし、特に何もありませんよ。 今まで通りの生活をして下さい。」
 そのお言葉通り、私は妊娠前と変わらず電車・バスによる片道2時間に及ぶ遠距離通勤をこなしつつ、職場に於いても何らの変化もない勤務態度だった。 
 そもそも学校長と教頭以外の教職員には妊娠している事実自体を伏せていた。 職場内で周囲に妙に気を回されても、かえって自分自身が困惑するのみと判断したためだ。 (参考のため、私の場合結婚披露宴は親族版と知人・友人版を分け時期をずらして行っている。 知人・友人版はつわり症状が安定した妊娠4ヶ月時点で執り行い、その時初めて職場仲間に妊娠の事実を公表した。)

 妊娠4ヵ月後職場内に於いて、初めて妊娠している体に配慮してもらうはめになる機会があった。 それは校内陸上競技大会に際してであるが、さすがに生徒達と一緒に走り回る業務は回避し本部テント内任務を担当させてもらう事態となったのだが、何やら申し訳ない感覚が先行して落ち着かなかった記憶がある。
 もう一つ、妊娠8ヶ月時点の職場での出来事を紹介しよう。  当時の我が勤務高校では、生徒禁煙指導(当時は校内で喫煙する生徒が後を絶たない時代背景だったのだが…)なる業務が存在した。 生徒下校後、トイレ内で生徒が隠れて吸った煙草の吸殻を教員が当番制で広い集める作業(“モク拾い”と名付けられていた)が定期的にノルマとして課せられていた。(既に教員を辞めた人間がこんな事を世間に公開してよいのやら判断不能なままに記しているが、これこそ当時の一部底辺公立高校の実態だったことは確かな事実だ。)  これが結構、強烈な悪臭との闘いでもあった。 そこである一人の男性教員の方が提案してくれた。「○先生(私の事)は妊娠中だからこの業務から外してあげては如何か?」 お気持ちはありがたいが、皆の反応を待たずして私は直訴した。 「いえいえ私は大丈夫ですし、この作業に要する時間はたかがしれています。さほどの体内悪影響はないと判断しますので、このまま続けさせて下さい。」 医学経験もある私であり、妊婦の体に対する影響の程を吟味しての発言だった。

 ただ私の印象であるが、「教員」との職種は上記の我が妊娠中の事例にあるような学校行事や特殊な作業を除くと、普段は自分一人の采配で動ける業務内容が多い。 そのため仕事を続ける事が妊娠中の体に特段の弊害はなかったとも言える。 我が産院主治医先生がおっしゃる通り妊娠前と何ら変わらぬ職場生活が叶うと捉え、職場で妊娠前同様に頑張れた私は恵まれていたのか??


 それに比し、妊婦女性がもしも現在の厳しい民間企業現場で働いているとしたら、どう転ぶのだろう?

 その問いに応えるべくの朝日新聞9月19日付け記事を発見した。
 「おめでた…くない会社はツライよ」なる記事の一部を以下に要約して紹介しよう。
 34歳妊娠5ヶ月の女性曰く、同僚達が妊娠したとたんに立ちっぱなしの仕事に回されたり、子どもが熱を出して早退せねばならなくなった時に泣きながら上司に報告する姿を見て、この会社は続けられないと思った。 会社は対外的には「産休・育休制度が整った企業」とPRしているのに、その内情は社会の流れに逆行していると感じる。
 33歳有期雇用で働いている女性は、先輩ママの無理解さを訴えている。「あなたの休業中の手当てを、我々が節約せねばならない。」 妊娠経験がある先輩から「やめて欲しい」と解釈できる発言をされるのは、男性に言われるよりも悲しい。
 (以上、朝日新聞記事より一部を要約引用。)

 確かにそういう事例が民間企業に於いては存在するのかもしれない。
 と言うのも、原左都子自身が3~40年近く前に民間企業勤務を経験している。 我が記憶を辿ると、確かに同年代の女性同僚達が妊娠するのを何度も経験してもいる。
 結婚・出産にさほどの興味がなかった当時の我が私見を語るならば、申し訳ないが正直言ってその事態とは「迷惑」だったものだ。 彼女達はあくまでも自分の“嗜好”により結婚し子どもを産もうとしている。 当時の私に言わせてもらうならば、妊娠しようがしまいがそれは“個人的趣味”の範疇でしかない。 なのに何故、妊娠した女性を社会が尊び、職場に於いても彼女らに優遇措置を施すのか? それを認めるとしても、それがために職場で頑張る我々に穴埋め負荷義務が発生する事実は理不尽としか言いようがない。

 そのような我が感覚を長年胸に秘めていたからこそ、私自身が高校教員時代に高齢妊娠した暁にも、「妊娠」とのあくまでも個人的な事由で、周囲へ迷惑を及ぼす事態を最小限に留めるべきとのポリシーが育成できていたとも言える。


 最後に表題に戻そう。
 
 職場に於いて、妊婦の権利を全面的に保障する事が実際可能なのか?
 それは特に民間企業の場合、職場個々が抱えている営業実績等々諸事情に大幅に左右されざるを得ないであろう。

 厳しい私論であることは承知の上だが、個々の妊婦氏達が現在勤めている職場の内情を分析・理解することからスタートし直す必要があるのかもしれない。
 どこの企業とて“無い袖は振れない”事態であろうし、はたまた末端労働者である同僚達への負荷労働の苦悩をも思いやる気持ちを妊婦氏にも持って欲しい気もする。

 妊娠・出産はおめでたい事象であることには間違いない。
 だが今の時代背景に於いては周囲からの祝福のみを期待するのではなく、個々が客観的視野を持って周囲の事情をも勘案しつつ、生まれてくる子どもの未来のためにも心豊かな妊娠時代を育んで欲しいものだ。
 
 それと同時に妊婦社員を抱える職場が経営上厳しい局面に置かれているとして、もしも最悪の場合妊婦女性を解雇に至らせる場面に際しても、今後の出産を暖かく見守るべく常識的な対応をするべきなのは私が言うまでもない。