原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

もしも彼氏が“おおかみ男”だったら…

2012年08月16日 | 人間関係
 昨日、私と娘が何故この映画を見に行ったのかというと、そのきっかけは主人公 花 が娘と同年代の大学生との設定だったからである。

 この映画とは、  細田守氏監督・脚本  「おおかみこどもの雨と雪」 。


 毎年夏休み中に娘と共に必ず1本は映画を観るのが、娘小学生の頃より恒例となっている我が家だ。
 この夏は何を見ようか?と、2人であれこれネットを探り事前研究をした。
 CGを駆使した3Dスペクタクルものがダントツに多い印象の現在の映画事情のようだが、その中我々が探し当てたのは至って地味な存在の 「おおかみこども……」だった。
 アニメでかつ、おおかみこども??  その題名や夏休み中公開である事から推測して、「単なる子ども騙しだろうか…」との我々の一抹の不安を払拭したのは、その映画のキャッチコピーだった。
 < わたしが好きになった人は“おおかみおとこ”でした >

 この春大学生になったばかりの18歳の我が娘も、これから“男”と出会う機会が増え彼女なりに恋愛経験を積んでいく事であろう。 そんな娘に何らかの参考になればと私は考えた。
 もう一つ、相手の“おおかみおこと”との間に生んだ二人の子ども(人間と狼のハーフと言うべきか??)を若き主人公が如何に育てていくのかについても、私は興味津々だった。

 通常一般人が“おおかみおとこ”と出会うチャンスは極稀であろうが、一体全体、主人公花はどこでどうやって“彼氏”と出会うのだろう。 人里離れた大自然の山奥か?? などとの私の推測は大きく外れた。

 何と、花が“彼氏”と出会ったのは大学(映画では 一橋大学 を想定しているようだが)構内の大教室だった。 どうやら哲学関連(ソクラテスに関する真・善・美の講義中)の学生がまばらな一般教養と思しき授業中に、花は少し前の離れた席で熱心にノートを取っている男子学生に視線を移す。
 授業が終わり学生各々が「出席票」を教壇に提出して退室する中、上記男子学生は後ろの扉から一人退室する。 それを追いかけて花曰く、「出席票を提出しなければ欠席扱いになるよ」 男子学生が応えるに「僕はこの大学の学生じゃなく隠れ受講だけど、目障りならばもう来ないよ」……
 その後も男子学生が気になってしょうがない花は、後に図書室で再開して曰く「あの授業は教科書なしでは難しいと思うから、私の教科書を貸すけど…」 そんなこんなで少しずつ親しくなった2人はその後デートを重ねつつ、クリスマスの夜を迎える。 ところが、彼氏はいつになく遅れて来る…。
 それは満月の夜だったが、「今日こそ自分が抱えている真実を伝えたい(いや、見せたい)から、少し目を閉じて…」と彼氏が言う。 しばらくして目を開けた花の前には「狼」の姿があった。
 そのまま2人は結ばれて……

 ここで一旦原左都子の私論に入るが、夏休み中の小さな子ども達も数多く観賞しているという意味合いにおいて、“この場面”は適切だったのかとの観点も少しある。
 ネット上でもこの場面がリアルである等の趣旨の書き込みが交錯しているようだが、十分大人の原左都子の視点でも確かに“刺激的”な場面だった。(低俗かつ極端な表現をすれば“SMチック”……とでも表現できそうな… )  と言うのも、その場面に於いて花は人間、彼氏は「狼」の姿だったのだ!
 それでも私はこの場面を肯定したい。 2人が結ばれた場面がそうであったからこそ、今後2人の間に生まれてくる(原左都子曰く、人間と狼のハーフの)子ども達である 雪 と 雨 の今後の葛藤が活きると理解する。

 花が第2子である男の子 雨 を生んでまもなく“おおかみおとこ”は原因不明のまま他界する。 この場面の描き方が優れていて、何とも悲しく辛かった思いの私だ。
 映画を観終わった後の原左都子の考察によると、もしかしたら“おおかみおとこ”は花との間に2児を設けた時点で既に寿命を迎えていたのではなかろうか?  何分、“おおかみおとこ”も人間と狼とのハーフである。 生態学的にそう解釈すれば整合性もあるし、またその後単独で2児を抱えて育てねばならない花にとっても救われると言う事ではあるまいか? 
 この我が考察は、映画の終盤で 雨 がわずか10歳にして「狼」として生き森を守っていく決断を自ら下した事にヒントを得ている。 人間とは異なり狼のオスとは10歳ともなれば立派な成人である。

 片や長女である 雪 は如何なる人生を歩むのかに関しても記述したいものの、現在放映中の映画であるため、ここでその詳細に関して言及し過ぎることは控えよう。


 この映画の主たるテーマが「親子」である事には間違いない。
 彼氏の“おおかみおとこ”に第2子出産後急死された母親花のその後の子育ての様子が、ある程度丁寧に描かれた作品と私は評価する。

 例えば子ども幼少の頃には団地暮らしの一家において、わずか4歳位の長女雪が不機嫌になると「狼」に変身して部屋中を暴れ回る。 まさか自分の子が“狼とのハーフ”であるとは一切社会に公言できない花は、周辺住民から「育て方が悪い!」と避難され、あるいは地元自治体からも「検診や予防接種をまったく受けていない」と自宅強制訪問される。 母としてどうしても子ども達が持って生まれた特殊事情を覆い隠したい花は、大自然に恵まれたド田舎地方へ転居し、雪6歳の小学校入学以降もそれを隠蔽する手段に出る。
 この場で原左都子の私事を述べると、まさか我が子は“狼ハーフ”ではないものの、若干の事情を持って生まれてきた我が娘に対する周囲よりの理解が得られ難い現状から逃避したい思いが、我が子小さい頃程強かった。 花が母親として取った“へき地移転方策”に関しては我が身としても痛い程に理解可能だ。


 この物語は、長女11歳までの子育てしか描かれていない。 
 各種特殊事情児を抱えた家庭に於いては、その後の子育ても尋常ではないのが事実だ。

 それでも主人公 花 が自分が欲した大学での学問も中断して心より愛した彼氏である“おおかみおとこ”との間に2子を設け、その後単独で母として子ども達を精一杯育てる風景に涙した私である。

 大学生になった我が18歳の娘が、映画を見て涙する姿を今回初めて見た。 
 いつ何時も涙もろい私も、これには参った…   帰りの道中、そんな娘の心情を思い黙り続けていたのだが、家が近づいた頃私は母親として娘に一言告げた。
 「あなたが選ぶ相手が“おおかみおとこ”であっていいと私は思うけど、今現在の親の思いとしてはせっかく入学した大学は中退せずに卒業して欲しい…」

 悲しいかな、現実世界に生きる親とはいつ何時も愚かな存在でしかないね……
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