◎文体模写(その4)、内田百閒「煙突事件」
あいかわらず本日も、アサヒグラフ編『玉石集』(朝日新聞社、一九四八)にあった「文体模写」の紹介。本日は「模・内田百閒〈ヒャッケン〉」。改行は原文のまま。
=== 文 体 模 写 ===
煙 突 事 件 模・内 田 百 閒
お隣の奥さんが物々しい顔付で駆けこんで来て、宅の煙突にサンタクロ
ースがつかへてゐるらしいから来て下さい」といつた。
直には、どういふ話か見当がつかなくて愚図々々してゐるといきなり手
首をつかんで引張られたので、はだしで駆けけつけた。多勢がやがや居て長
い竹の竿で煙突を下から突き上げてゐる。本常に、つかへたのがサンタク
ロースなら随分お尻が痛いぢやないかと心配につたので念を押すと「早
く手伝へ」と指揮者らしい若者に剣突を喰はされた。一緒に竿の端を握つ
て突き上げて見ると、その度にぐにやくとしたものに当る手応へがあつ
て確かにサンタクロースのお尻らしい。「エイサエイサとやつてる中にだ
んだん落ちつかない気持になつて来たので便所へ行つて来ますといつて家に
帰つて来てしまつた。