◎原稿執筆の心得(『書物語辞典』より)
たまたま、古典社編『書物語辞典』(古典社、一九三六)を読んでいたところ、「附録」に、「原稿執筆心得」というのがあった。本日は、これを紹介したみたい。なお、私が読んだのは、同書の第三版(一九三九)である。
原 稿 執 筆 心 得
(次のA.B.C.は大阪毎日新聞社発行「スタイル・ブツク」によるもので、新聞記名のための心得であるが、一般原稿執筆者にも参考となるので借用した。)
A. 執 筆 十 則
1. 筆跡はたれにもわかりよく
2. 紛らはしい字は特にはつきりと
3. 固有名詞には振仮名を
4. むづかしいあて字を書くな
5. 慣用語をつかへ
6. 句読点をわきまへて
7. 仮名を誤るな
8. 用語は品よく
9. 漢字制限を守り
10. 法規に油断なく
B. 原稿紙を前にして
1. 青インキか濃い鉛筆を用ゐること
2. 楷書またはわかりやすい行書で書くこと
3. 紛らはしき文字は特にはつきりと書くこと
4. 数字や固有名詞は特にはつきりと書くこと。読方のわかりにくい固有名詞には、振仮名をつけること
5. 文字の大きさを一定すること
6. 書きかへや書入れを多くせぬこと
7. 行間に相当の間隔をおくこと
8. 最初のページは中ほどから書くこと
9. 紙の両面に書かぬこと
10. 一枚の紙に二つ以上の記事を書かぬこと
11. ページごとに一定の個所に丁数をつけ、その丁数を円でかこふこと
12. 記事の終りに「止メ」の記号を記すこと
13. 脱稿後に読みかへすこと
C. 原稿の指定事項
印刷するために執筆された原稿には、印刷上必要な指示命令をした指定事項を赤字で記載しなければならない。即ち、印刷職工にわかるやうにするためで筆者又は編輯者の仕事である。即ち、原稿用紙の第一枚へ、活字の名称、型、大きさ、字詰、段数、行数及び、字間、行間等を指定する。又、本文何号何号ルビつき等と指定し、題名や執筆の部分には、更に各別に活字の号数を指定する。本文とまぎらはしいものは円でかこんでおく要がある。尚、原稿字数割出表、字詰計算表、行数計算表等に関する至便の一覧表を東京印刷株式会社工場長小塩信三氏が考案された。一般に発売しないが相当の礼を以てすれば喜んで分譲されるであらう。(自宅―東京市豊島区西巣鴨二ノ二三九)
D. 校正上の注意
印刷物は必ず校正を要する。初校は印刷所でやつても、再校三校は多く執筆者がやる例になつてゐる。執筆者の校正は、「見る」前に「読む」ので誤字が発見できないのであるから、眼で見て原稿と対照して校正することを忘れてはならない。校正は多くで毛筆又はペンで朱又は赤インキを用ゐる。校正の方法には単独と読合せとがある。校正刷には「初校」「要再校」「校了」「上り」又は「急」「版附」「写真附」等の指定をする。校正について詳しく知りたい者は大阪毎日新聞社『校正の研究』(春陽堂発行。古本なら1円20銭位で買へる)を一読するがよいであらう。尚、校正については次表【略】を参照せられたい。