礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

左ニ掲グル法律及勅令ハ之ヲ廃止ス

2023-03-03 04:12:41 | コラムと名言

◎左ニ掲グル法律及勅令ハ之ヲ廃止ス

「不穏文書臨時取締法」について、若干の補足をおこなう。
 まず、その条文を確認しておこう。出典は、東光社の『最新六法全書』改訂増補廿六版(一九三八年四月)、および、日本検察学会編『不穏文書臨時取締法解説と出版法・新聞紙法判例』立興社(一九三六年六月)。 

  不穏文書臨時取締法
       (昭和十一年六月十五日/法律第四十五号)
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル不穏文書臨時取締法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
 第一条 軍秩ヲ紊乱シ、財界ヲ攪乱シ其ノ他人心ヲ惑乱スル目的ヲ以テ治安ヲ妨害スベキ事項ヲ掲載シタル文書図画ニシテ発行ノ責任者ノ氏名及住所ノ記載ヲ為サズ若ハ虚偽ノ記載ヲ為シ又ハ出版法若ハ新聞紙法ニ依ル納本ヲ為サザルモノヲ出版シタル者又ハ之ヲ頒布シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 第二条 前条ノ事項ヲ記載シタル文書図画ニシテ発行ノ責任者ノ氏名及住所ノ記載ヲ為サズ若ハ虚偽ノ記載ヲ為シ又ハ出版法若ハ新聞紙法ニ依ル納本ヲ為サザルモノヲ出版シタル者又ハ頒布シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
 第三条 前二条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス但シ印刷者印本引渡前ニ自首シタルトキハ其ノ刑ヲ免除ス
 第四条 第一条又ハ第二条ニ該当スルモノト認ムル文書図画ニ付テハ真実ノ記載ヲ為シ又ハ成規ノ納本ヲ為ス迄地方長官(東京都ニ在リテハ警視総監)ニ於テ其ノ頒布ヲ差止メ必要アリト認ムルトキハ其ノ印本及刻版ヲ差押フルコトヲ得
 前項ノ規定ニ依リ頒布ヲ差止メラレタル文書図画ヲ頒布シタル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
    附 則 
 本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
    附帯決議
 一 本法ハ其ノ制定ノ趣旨ニ鑑ミ臨時立法タルベキモノトス仍テ政府ハ最善ノ努力ヲ払ヒ現下ノ社会不安ヲ一掃シ速ニ本法ヲ廃止スベシ
 二 本法ヲ施行スルニ際シ政府ハ厳ニ之ガ運用ヲ慎ミ苟モ言論自由人権尊重ノ趣旨ニ悖ルコトナキヲ期スベシ
    
 不穏文書臨時取締法の「附帯決議」には、「速ニ本法ヲ廃止スベシ」とあった。また、行政法学者の田中二郎は、不穏文書臨時取締法が成立した直後、この法律について論評し、これを「遠からず廃止さるべき運命を担つた法律」と位置づけた(昨日の記事参照)。
 しかし、この法律が廃止されたのは、戦後の一九四五年(昭和二〇)一〇月一三日のことであった。すなわち、〝昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム」宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件〟によって廃止されたのである。同勅令の第一条は「左ニ掲グル法律及勅令ハ之ヲ廃止ス」となっていて、そこには、次の九件の「法律及勅令」が挙げられている。
 国防保安法・軍機保護法・軍用資源秘密保護法・不穏文書臨時取締法・言論、出版、集会、結社等臨時取締法・国防保安法施行令・関東州国防保安令・軍用資源秘密保護法施行令・関東州言論、集会、結社等臨時取締令。
 二・二六事件の直後に、この法律が作られた意味については、機会を改める。前から考えているところがあるが、今回、基礎的な研究が十分でないことを自覚したからである。

*このブログの人気記事 2023・3・3(8・9・10位は、いずれも久しぶり)

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