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 書評 『それでも、日本人は「戦争」選んだ』(加藤陽子)  文科系

2022年03月09日 15時28分06秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 東京大学大学院で日本近現代史を専攻とする加藤陽子教授のこの本を、ざっと走り読みした。元は2009年に朝日出版社から出たものだが、僕が読んだのは2017年の新潮文庫本である。
 この本のでき方がとても興味深くて、神奈川県の私立栄光学園歴史研究部の中一から高二までの学生さん20名ほどへの集中講義録を製本化したものなのだ。2007年の年末から正月にかけて5日間の講義、質疑応答などの報告書だが、参考文献、解説など総て含めると498ページという大作である。目次はこうなっている。序章 日本近現代史を考える 1章 日清戦争、2章 日露戦争、3章 第一次世界大戦、4章 満州事変と日中戦争、5章 太平洋戦争、と。

 いろんな紹介の仕方があるが、第4章のある一点に絞って抜粋という形を中心としてみたい。以下に紹介する中国人論客のような人物が戦前日本国家の要職にあったら、あのような戦争はなかったのではないかという思いを込めて。この思いは、加藤陽子氏が学生らに伝えたかった歴史学の最大問題、「歴史は科学か」「歴史とは現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」(英国の歴史家、E・H・カーのことば)という思考と不可分のものであると確信している。

 以下の舞台は、満州事変の後、日中戦争直前の1935年。社会思想専門の北京大学教授・胡適が唱えた「日本切腹 中国介錯論」を加藤陽子教授はこう紹介する。なお、胡適氏はこの後38年には、蒋介石によって駐米国大使に任じられている。

『 胡適は「アメリカとソビエトをこの問題に巻き込むには、中国が日本との戦争をまずは正面から引き受けて、二、三年間、負け続けることだ」といいます。このような考え方を蒋介石や汪兆銘の前で断言できる人はスゴイと思いませんか。・・・具体的にはこういいます。
 中国は絶大な犠牲を決心しなければならない。この絶大な犠牲の限界を考えるにあたり次の三つを覚悟しなければならない。第一に、中国沿岸の港湾や長江の下流地域がすべて占領される。そのためには、敵国は海軍を大動員しなければならない。第二に、河北、山東、チャハル、綏遠、山西、河南といった諸省は陥落し、占領される。そのためには、敵国は陸軍を大動員しなければならない。第三に、長江が封鎖され、財政が崩壊し、天津、上海も占領される。そのためには、日本は欧米と直接に衝突しなければいけない。我々はこのような困難な状況下におかれても、一切顧みないで苦戦を堅持していれば、二、三年以内に次の結果は期待できるだろう。[中略] 満州に駐在した日本軍が西方や南方に移動しなければならなくなり、ソ連はつけ込む機会が来たと判断する。世界中の人が中国に同情する。英米および香港、フィリピンが切迫した脅威を感じ、極東における居留民と利益を守ろうと、英米は軍艦を派遣せざるをえなくなる。太平洋の海戦がそれによって迫ってくる。・・・・・』

『 胡適の場合、三年はやられる、しかし、そうでもしなければアメリカとソビエトは極東に介入してこない、との暗い覚悟を明らかにしている。1935年の時点での予測ですよ。なのに45年までの実際の歴史の流れを正確に言い当てている文章だと思います。それでは、胡適の論の最後の部分を読んでおきましょう。
 以上のような状況に至ってからはじめて太平洋での世界戦争の実現を促進できる。したがって我々は、三、四年の間は他国参戦なしの単独の苦戦を覚悟しなければならない。日本の武士は切腹を自殺の方法とするが、その実行には介錯人が必要である。今日、日本は全民族切腹の道を歩いている。上記の戦略は「日本切腹、中国介錯」というこの八文字にまとめられよう。』

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