子供は、時に嘘を吐きます。
以前実際にあった話です。
ある中学の、比較的正直な感じがしていた子の保護者の方8母親)から突然電話がありました。
「ウチの娘、最近どうもあまり勉強に身が入らないようなんです。それで、一体どうしたのかと問い詰めたら、こう言いました。『学校の先生の言う勉強の仕方と塾の先生の言うやり方が違うので混乱してしまい、やる気になれなくなった』って。これ、本当のことなんでしょうか。私には子供が言い逃れしているとしか思えないんです」
このお母さんは、子供の言うことだけを鵜呑みにしない点で、賢明な人だと思いました。
はっきりいってしまえば、この子は嘘をついていました。
以下、この子が言ったということに沿ってお話します。
この子は英語が大の苦手で、1年生のときから手を抜き放題でしたので、どうしようもなくなって入会してきました。
2年生のはじめの段階でbe動詞と一般動詞の区別がつかないし、3単現も代名詞も、現在形も過去形も否定形も疑問文も、すべてが良くて3割、酷ければ壊滅状態という、そんな感じでした。
そうなると、英文を読んでもこれを訳すなど、まず無理ですし、そもそも英文を読めません。
ですから学校の授業についていくのは至難の技でしたので、塾では切り口を買えて勉強し直していたというのがそのときの状態でした。
その際、英文を訳すのに、よくあるやり方ですが、後ろから訳したりすることはせず、前の単語から順番に訳して全体のイメージを掴み、そのあとで構成の約束事に従って文意を掴むというやり方をしていました。
それはそれで少しは理解しやすいと思えたらしく、徐々にではありましたが、英文に対する抵抗が低下していった頃、今度は全く別の問題で、勉強に対する意欲が削がれてしまったのです。
といっても、大した話ではなく、夏が近付いて気持ちがふらふらし出し、要は遊び心が活発化したのであって、そういうときにも塾や学校では変わることなく勉強を強いられるのが鬱陶しくなってきたというわけです。
かといって、ここで正直にそう言うわけにも行かず、中途半端な屁理屈を考え出して言ったのが、冒頭の言葉だったというわけです。
「学校と塾で教え方が違う」というのは、そういう意味では確かにそうだったのでしょうが、しかし、それにはちゃんと理由があったわけで、保護者の方はそれをしっかりと理解してくれました。
また、百歩譲って、まったく別の事情で教えられ方の違いからくる混乱があったとしても、だからといって、それを理由に「だから勉強する気が無くなった」などという理屈には到底結びつくはずも無く、そんな台詞からは、ただ甘ったれた気持ちが窺えるだけです。
このときの保護者の方は、そのあたりもちゃんと理解してくださったので、幸いなことに、この子が軌道を外れることはなく、その後しばらくしてまた勉強に精出すようにはなりました。
子供は、意図するしないは別として、時として事実と相違することや矛盾することを、さも当然と言った口調で言い出すことがありますが、肝心なことは、周囲の大人がそれを鵜呑みにしない慎重さを持つことだろうと思う、そんな経験でした。