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秘密保護法反対の主張を優先した為にブログに書けなかった記事を忘れないうちに書いておきます。
私の地元、大阪府高石市には高師浜線という南海電鉄の支線が走っています。南海本線の羽衣から分岐して伽羅橋(きゃらばし)・高師浜(たかしのはま)の僅か2駅、全長1.5キロを結ぶ単線で、沿線全域が高石市に含まれています。かつては海水浴客や沿線の別荘地に行楽客を運ぶ観光路線でしたが、戦後の臨海コンビナート造成で海水浴場がなくなった後は、郊外住宅地を走るただの盲腸線と化してしまいました。しかし、それでも一定の通勤需要に支えられて今まで存続して来ました。
ところが、モータリゼーションの進展や少子高齢化の影響もあって、乗客数は年々下降線をたどり、最近は廃止の噂もチラホラ聞くようになりました。そこで高石市と南海電鉄がタイアップして、沿線活性化の一環として、12月中は終点の高師浜駅前に夜間イルミネーションをともす事になりました。(左上がその宣伝ポスターの写真)
その話を私も聞きつけ、地元の鉄道ファンとして宣伝がてら見聞に行って来ました。でも残念ながら予想以上に期待外れでした。まず以てイルミネーションのしょぼい事。高師浜は終点とは名ばかりの住宅地の中の駅で、周囲には商店は殆どありません。通勤需要の大半は大阪市内に通う通勤・通学客で、後は近くの臨海スポーツセンターへの行き来に利用する人が少しいるだけです。そんな住宅街の中の支線の行き止まり駅に、こんな子供だましみたいなイルミネーションを飾った所で、誰がその為だけにわざわざ電車に乗って見に来るでしょうか。正直言って私ぐらいのものです。実際、駅を降りた電車の乗客も、イルミネーションなんかには目もくれずに一目散に家路を急いでいました。
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途中駅の伽羅橋も「伽羅橋スイーツ駅」と改名して活性化すると、高石市の広報誌にありましたが、この効果についても甚だ疑問です。高師浜駅前とは違い、伽羅橋駅のガード下にはごく小規模な商店街が一応はありますが、これも最近は殆どシャッター街と化してしまっています。ただ、大阪・心斎橋のカステラの老舗「銀装」の工場と直営の喫茶店が駅前にあるので、そこから「スイーツ街」構想も出たようです。
でも、ランドマークになりそうなのはその工場と直営店のみで、他にはショッピングモールも何もありません。周囲は別荘地の名残を残す風致地区で、しかも最近は再開発の進展でマンションや建売住宅、文化住宅の浸食にも晒されている、そんな所に仮に幾許かの店をガード下に呼び込んだ所で、誰がわざわざこんな盲腸線に乗り換えてまで来てくれますか。(左上が伽羅橋駅、右上が直営喫茶店で出たモーニングのカステラの写真)
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高師浜線は前述したように全長僅か1.5キロの単線区間を、二両編成の電車が機織り運行で走っています。一定の輸送需要がまだあるので、ラッシュ時は15分ヘッド、日中でも20分ヘッドのダイヤが組まれています。しかし、ラッシュ時以外は数人の乗客しか電車に乗っていない場合もあります。
実際、乗換駅の羽衣から一駅目の伽羅橋までは僅か数百メートルしか離れていません。しかも単線の機織り運行なので、電車を乗り過ごしたら次の電車まで15分は待たなければなりません。これでは定期代を浮かす為に伽羅橋から羽衣まで歩いても時間的にはそう変わりません。
流石に終点の高師浜までとなると、羽衣からは1.5キロも離れているので、歩くのには少し長すぎます。でも、これも東に約1キロ程歩けば、同じ南海本線の高石駅があるので、わざわざ高師浜線に乗るよりも、もっと交通の便の良い南海本線の方に乗客は流れていきます。(左上が高師浜線の電車、右上は運行ダイヤの写真)
だから、採算だけで考えれば「別にあってもなくても良い」線なのです。福井県の「えちぜん鉄道」のように、併行道路が一本しかなくて運休すればたちどころに大渋滞が起こる訳ではありません。かと言って、かつての南海和歌山港線の和歌山港・水軒(すいけん)間のように、全然輸送需要がない訳でもありません。年々乗客が減少しているとは言え、今でも年間3千人以上もの輸送密度を誇る、南海の支線の中ではトップクラスの輸送量を抱えている線区なのですから、別に急いで廃止しなくても良いのではないでしょうか。(下記参考資料参照)
高師浜線がどれだけの累積赤字を抱えているのか、正確なデータはまだ把握していませんが、規模からしてもせいぜい年間数億の赤字止まりでしょう。2013年度決算でも年間150億もの経常利益を計上し、関空発着のLOC就航やマンション分譲、有料老人ホーム・葬儀ホール開業で増収に転じた(以上「日経会社情報」2014年新春版より)今の南海電鉄にとっては、支線の赤字なんて本当は別に痛くも痒くもない筈です。
では何故、より輸送密度の低い多奈川線などではなく、支線の中ではまだ比較的好調な高師浜線の方から先に廃止の噂が出てきたのか。これはあくまで私個人の推測ですが、併行路線の南海本線がある為に、乗客数が比較的多い割には廃止反対の声もさほど強くない高師浜線から先に手を付けようとしているのではないか。実際に地図で見て貰えれば分かりますが、多奈川線などは他に併行路線がありません。如何に乗客数が少なくとも、廃止されれば沿線は確実に「陸の孤島」と化してしまいます。沿線住民にとっては到底呑める話ではありません。その反対の声を抑える為に、まだ廃止しやすい高師浜線の方から先に手を付けようとしているのではないでしょうか。(尚、汐見橋線については、地下鉄なにわ筋線延伸問題というまた別の要因も絡むので、ここでは切り離して考える事とします)
勿論、幾ら廃止すれば陸の孤島と化してしまうからと言っても、今の支線をそのまま放っておいて良い訳ではありません。鉄道会社とて民営事業なのですから、採算面を無視はできません。でも、自助努力もろくにせずに株主ばかり優遇して、ツケを安易に沿線の自治体や住民に押し付けるだけでは、鉄道事業なんて最初からやる資格はありません。鉄道会社はただの民営企業ではありません。「沿線住民の足」としての公益性も持って貰わなければなりません。
高師浜線についても、こんなしょぼいイルミネーションや思い付きの「スイーツ街」構想なぞではなく、一層の事、浜寺公園や対岸の臨海コンビナートの遊休地を南海が買い取り、そこを歴史公園として整備してはどうか。元々、高師浜の地名の由来も、古代豪族の高志(たかし)氏にちなみ、市名の高石もそこから来ていると聞きます。伽羅橋の地名も、南北朝の争乱期まで存在した大勝寺(だいしょうじ)という大寺院の門前にかかっていた伽羅香木の橋に由来するとも言われています。実際、伽羅橋駅前にはその寺院跡の石碑もあります。高師浜線そのものも、戦前の住宅開発の一環として敷設されました。高師浜駅のステンドグラス窓の駅舎はその名残です。
それらの旧跡を歴史遺産として整備する方が、よっぽど沿線の活性化になるのではないでしょうか。歴史公園の整備は予算上無理と言うなら、高師浜駅を有形文化遺産として登録・整備し画廊や美術展を催すだけでも良い。一企業の採算だけでなく市民文化の創造という点でも遥かに意義がある。以上、あくまでも素人考えの一案にしか過ぎませんが、前述のしょぼい試みよりかは、よっぽど長期的視点に立っていると思います。
(参考資料)
南海各支線の輸送密度(単位:人/営業キロ) 出典:「鉄道ピクトリアル」No.807(2008年8月号、南海電鉄特集)
1977年度 高師浜線8,578 多奈川線8,032 加太線6,215 和歌山港線2,157 汐見橋線3,547
1987年度 高師浜線5,934 多奈川線5,817 加太線6,747 和歌山港線1,325 汐見橋線2,091
1997年度 高師浜線4,223 多奈川線4,082 加太線5,144 和歌山港線1,118 汐見橋線1,360
2006年度 高師浜線3,234 多奈川線1,963 加太線3,295 和歌山港線 641 汐見橋線 713
1977年度を100とした場合の2006年度実績指数 高師浜線38 多奈川線24 加太線53 和歌山港線30 汐見橋線20
減少幅の大きい線区は、それぞれ淡路航路の廃止(多奈川線)、普通電車の廃止(和歌山港線)、ダイヤ大幅削減(汐見橋線)等の影響によるものと思われる。
(追記)
この高師浜駅前のイルミネーションは、地元を愛する「高師浜を明るく楽しくする会」さんが自腹を切って自分たちで考えてやって下さっているものであり、市からも南海からも何ももらってない――とのご指摘を、先般、読者の方からいただきました。今の阪口シンロク・高石市長のやり方を批判する余り、イルミネーションについても、無意識のうちに先入観を持って評価してしまったようです。
前述のご指摘を受けて、先程、タイトルから「しょぼい」の文言を削除しました。しかしながら、記事本文については、当該箇所を削除してしまうと、イルミネーションについて書いた段落全体を削除しなければならなくなり、前後の文章とのつながりも失われ、もはや記事としての体を為さなくなるので、このまま変えずに置いておく事にします。その上で、このイルミネーションに対する評価については、私の判断ミスという事で、ここで改めて取り消したいと思います。
今回の件で、関係者の方につらい思いをさせてしまった事については、まことに申し訳なく思います。これを機に、ブログを書く際は、先入観や思い込みだけで記事を書く事がないよう、改めて気を付けて行きたいと思います。どうも申し訳ありませんでした。(2015年2月5日 プレカリアート)