2月28日放送の、NHK総合テレビの「にっぽんの現場」という番組で、地方私鉄における非正規雇用の広がりとワークシュアリングの実態が取り上げられているのを見ました。まずは、当該番組「わしらの給料どうなるんか~広島路面電車 運転士の本音~」の解説から引用します。
>広島県で路面電車とバスを運行する広島電鉄。乗務員には正社員と契約社員(非正規社員)がいる。両者の賃金格差を是正するために、いま給与体系を一本化しようという労使交渉が行なわれ、内容をめぐって経営側と組合側は激しい応酬を続けている。組合は、勤続年数や年齢に応じて給料が上がる仕組みを作るべきだと主張。一方、経営側は定期昇給は保障できないと主張している。組合員の間にも微妙な意識の違いが生じ始めている。勤続28年50歳代の正社員は、「私たちは、ただ運転するだけではなく、地域住民の生活を支えている。その意識を高めるためにも定期昇給は必要だ」と考える。しかし、契約社員の中には「賃金が上がるのはありがたいが、定期昇給よりも雇用が大事だ」と、会社案にも一定の理解を示す声も。労使交渉に合わせて開かれる職場集会でどんな議論から、働くことの意味や、賃金と雇用を両立させることの難しさを描く。<
http://www.nhk.or.jp/nippon-genba/yotei.html
私がこの番組を見ようと思ったのは、まず自分自身が鉄道ファンであり、また、以前も鉄道会社における非正規雇用への置き換えの話題を自分のブログで取り上げた事もあったので、当該職場における正規雇用と非正規雇用の間の格差是正、ワークシェアリングの試みにも関心があったからです。
見て感じた事の、まず第一点はやはり、「一体何処まで非正規雇用に置き換えれば気が済むのか」という事です。
そもそも、鉄道員と言うのは、たとえそれが第一線の電車運転士だけに限らず、他のどんな部署であろうとも、こと人の命を預かる、そういう仕事です。そういう仕事を、責任だけは正社員以上のものを要求しておきながら、待遇は契約社員(平たく言えばパート・バイト・派遣社員)の低待遇に押し止めておくと言うのでは、余りにも会社側の身勝手が過ぎます。人にそれなりの責任を求める以上は、それに見合った待遇や権限を用意しなければ、誰も人は来ません。
いくら失業難でも、介護や医療分野になかなか人が来ない(来ても直ぐ辞める)のも、偏にその為でしょう。
第二点は、そこで議論が進んでいるワークシェアリング(仕事・雇用の分かち合い)の、労使の認識の違いについて。労組側は、「勤続年数や年齢に応じて給料が上がる仕組み」は維持した上で、ベテランが自分たちの賃上げをある程度見送っても、若年層の正規職や、契約社員などの非正規職の賃上げを重視しました。つまり、世代間の賃金格差是正を、賃金体系見直しの最優先課題に据えたのです。
経営側は、それに対して、「定期昇給」ではなく一種の「職務勤続給」の形で段階別に賃金をランク分けした上で、一定年数経過後は昇給も無くなるという見直し案を提示してきました。
私、これを見て、労組側(労働者)と経営者の、ワークシュアリングの捉え方の違いが、はっきりと認識出来ました。労働者が、ワークシェアそのもの(分かち合いによる格差是正)に価値を見出しているのに対して、経営者は、労働者間の「分かち合い」や「格差是正」なんて、本当は別にどうでも良くて、あくまでも総人件費の抑制を狙って、ワークシュアリングを導入しようとしているのに過ぎない、という事が(上記写真のイメージ図を参照の事)。
第三点は、「広島電鉄よ、お前もか」という気持ちです。広島電鉄と言えば、地方私鉄の中では中堅どころで、経営基盤も比較的安定していた鉄道会社です。長らく広島市民の足として機能し、原爆投下3日後には路面電車の一部運行再開にこぎつけ、当時の市民を励ますなどの、多くの逸話も残してきました(当時の被爆電車が今も一両現役で走っている)。そして、戦後の高度経済成長期にも、一時は路面電車廃止の話が浮上したものの、市内軌道線と郊外鉄道線(宮島線)との相互乗り入れや、最新式低床車両の導入などのバイアフリー施策で、乗客の利用回復に成功し、引き続き多くの市民から親しまれてきたと聞いていたのに。
ワークシュアリングについても、色々調べて見ましたが、一番の成功例とされるオランダでは、労働者も勤務時間短縮や賃金抑制などで一定譲歩する代わりに、経営者も福利厚生施策を安易に切り下げたりはせずに、政府も減税や社会保険料の負担肩代わりを行うなどの、「三者痛み分け」で経営危機を乗り切り、雇用拡大と格差是正で、失業率の大幅引き下げに成功した、との事です。オランダでは、パートタームとフルタイムの賃金格差は、僅か7%程度なのだとか(日本では44%)。これこそが、本来の「ワークシェア」であり、「痛み分け」ではないでしょうか。
然るに、今の日本の政府・財界はどうでしょうか。派遣切りで住む所も失いホームレスが激増している現状を、「中福祉・中負担」だと言いくるめ、「それを維持していく為には消費税増税しかない」と、臆面もなくほざく。自分たちは思いっきり法人税減税の恩恵を蒙りながら。
また、開発途上国の資源と労働力を散々買い叩いておきながら(EPAによる低賃金外国人ケア・ワーカー受け入れなど、正にそうだろう)、自分たち多国籍企業による搾取は棚に上げて、「国際競争」を口実に、自国の労働者にも賃下げや社会保障切り下げを迫る。そして、「儲かりさえすれば何をしても良い」と、博打紛いの投機や経営に走り、世界経済に思いっきり穴を開けておきながら、自らは尻拭いを一切せずに、その責任を労働者人民に転嫁して恥じない。これの、一体何処が「ワークシェア」や「痛み分け」なのでしょうか。
自民党や財界は、かつて反共宣伝の一環として、「社会主義になると、かつての旧ソ連・東欧圏や、一時期の中国の様な、”みんな等しく貧乏”な社会になってしまう」という言い方をよくしました。しかし、何の事は無い、それは、かつての旧ソ連や中国だけに限った話ではなく、今やこの日本も同様に、「みんな等しく貧乏」な社会になってしまったではないですか。
「みんな等しく」痛み分けだとか言いながら、自分たち特権層だけは最初から除外して、そういう意味では全然「等しく」なく、それ以外の大多数の人間だけが「みんな等しく貧乏に」なってしまったではないですか。こんなニセモノの「痛み分け」「中福祉・中負担」「ワークシェアリング」話に、ゆめゆめ騙されないよう、くれぐれもご用心を。
(参考資料)
・「ワークシェアリング」ってどんな制度?(All About)
http://focus.allabout.co.jp/contents/focus_closeup_c/jijiabc/CU20090112A/index/
・鉄道、バス事業での契約社員の組織化事例(連合・私鉄中国地方労働組合・広島電鉄支部)
http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/koyou/part/data/jirei/shitetsu.html
・広島電鉄(ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%83%E5%B3%B6%E9%9B%BB%E9%89%84