ちょっと前の事例ですが、脳の老化を加速させる「きっかけ」で興味深いことを聞きましたので、今日はその話をします。
78歳の女性。いかにもテキパキとしたしっかり者という印象がありました。ただ、おしゃべりというか、状況も考えず自分の言いたいことを言い立てる傾向がかなり顕著に見られました。
クリスマスローズ(庭の花 in april)
検査に入る前に滔々と話します。
内容も、ユニークといえばユニーク。
「私は読書と、それからテレビじゃなくてラシオを聞くのが好きなんです。それも、建設的なヤツ。例えば、ニュースとかは欠かしません。ラジオは夜中でも朝早くでもやってるからいつもいつも聞いてるのです」
(本来ならば、検査の前に世間話や雑談はしないのですよ。
「後から伺いますから」と言って中止するのが、二段階方式でのやり方です。
その人の脳の機能レベルがわからないと、言われていることをどこまで真実として理解していいかわからないので、余分の時間がかかるからです。
だからニュースに関する質問は、本来ならば脳機能テスト、30項目問診票が終わったところでのやり取りでなくてはいけません。)
ホメリア
先ほどからの話題が、ちょうど小ボケレベルの人の話に似ていたので、多分しどろもどろになるだろうという予測のもとに
「最近のニュースで、一番大きなものは何でしょうか?」と尋ねてみました。
「そりゃあ、ミサイル発射です!」と即答。
私は「アレアレ、きちんと答えてくださった!」と内心びっくりしながら
「どの国のことでしょうか?」とさらに尋ねます。
小ボケになると、時事問題をテーマに話すとどこかでほころびが出てしまうのです。
このやり取りからは、小ボケは否定されます。
「先ほどからの勝手な話ぶりはこの人の個性かな。そういう前頭葉の持ち主かもしれない」と思いながら、脳機能検査に入ります。
MMSの結果は28点。「想起」か「計算」で点を落としたと思うでしょう・・・
ところが、どちらも満点!
減点は「記銘」と「模写」でした。
A4用紙
「記銘」の減点は、三番目の単語に対して
「アレアレ、しゃべっとったで聞いてなかった」ということでしたから、再教示したら即正答。
「模写」はユニークな間違い方です。なかなかお目にかかるチャンスはないでしょう。
さらには「立方体の模写」は再試行で一応可能という結果でしたから再挑戦をお願いしました。
普通はここできれいに描けるものなのですが、前と全く同じに描かれます。
こういう結果からも検査の当初から抱いていた「ちょっと変わった人」という印象を理解してもらえるかと思います。
名前の大きさと場所については、マニュアルA73ページの解説の通りだということがその後の聞き取りの中からはっきりしてきました。
エビネラン
MMSは合格なのですが、前頭葉テストはかなひろいテスト不合格。
動物名想起は、あれだけ多弁なのに5個のみ。しかも10秒までに言ってしまい後は見事に無言という結果でした。
つまり、やはり小ボケのレベルということになります。
30項目問診票も②④⑤⑥⑦⑧と1~10までに6個と完璧。
そこで生活歴の聞き取りに入ります。
小ボケの人は自分から話しだすことについてはよく話しますが、こちらの質問に対する答えはなかなか要領を得ません。
クンシラン
まとめると、
31歳の時に舅と子供三人を残して夫が事故で急死。
その後、病院の付添婦として働き一家を支えてきた。
現在は三男一家と同居しているが不仲。ただこの状態は以前から継続している。
はっきりしたきっかけがなかなか説明できません。
「まだ一年もたってはいないんですよ」という再度の問いかけに
「スナックのマスターが急死してしまって、お店が閉まったことかも」とようやくそれらしきことが出てきました。
「もしかして、恋愛関係でもあったかしら」とTVドラマのような気分になっていったのですが、真相は
「週に2~3度その店に行って、限られた予算分だけカラオケを楽しんで、セイセイして帰るのが生きがいだったのに。急に死んでしまって店は閉まっちゃうし、家から出ることがなくなった」
その「家」では、家族関係はむずかしく会話も何もない状態。TVが壊れたら買い換えるゆとりがない(ためにラジオを聞いている)程経済的に困窮している。その生活の中でもカラオケだけは続けるほど楽しみだった。
カラオケが生きる力を生んでいたんですね。
スナックが閉店になって、ボケ始めることもあるという話でした。