「認知症になったらどうなると思いますか」とか
「どういうことをしたら、認知症になったと言いますか」と聞いてみると、実にさまざまな答えが返ってきます。
まずは「物忘れ」ということば。
「40代ともなると物忘れしない人がいないでしょう?何を忘れたら認知症と断定できますか」と重ねて聞くと
「食事をしたのに食べてないという」とか
「家を忘れて徘徊する」とか
「家族の顔も分からなくなってしまう」という最重度の結論になってしまいます。
次に出てくるのは「一人で生活できない。生活に全面的な介助が必要」という理解でしょう。
こちらは逆に
「突然、目が離せない全面介助になりますか?」
最近の近所の花たち。大寒というのに桜が咲いています。
正月千鶴桜
認知症の始まりを知る必要があります!
このブログで何度も繰り返しているように、認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症は、誰にでもある前頭葉機能の正常老化が、加速されるところから始まります。そのきっかけや経過はこのブログのカテゴリー「正常から認知症へ」に譲るとして、正常老化が加速され始めたその時に起きる具体例を紹介します。
今年いただいた年賀状です。
まずは84歳の方
宛先に注目してください。我が家の地番は「1030-44」
「一〇三〇-四四」と漢数字を縦書きにするか
数字を横書きにして「1030-44」にしたり「1030」と横書き、その下に「|」を加えて「44」と書くでしょう。(カンマを付け加えることもある)
まとめてみました。赤字がいただいた賀状の表記です。並べるとそのおかしさがはっきりするでしょう。
私たちでも書き間違えは起こします。ついでに言えば、歳を重ねるごとにその頻度は増しますね。
でも「あ、間違えた!」と自覚して、次の策を考えませんか?
年賀状だから破棄する。修正液を使う。修正線で書き直す。小さな紙を貼るetc
高齢の方が年賀状を書いただけでも素晴らしい。小さな失敗をあげつらう必要はないのに。と思う方は多いでしょう。
もう一つあげつらわせていただくと、郵便番号も間違っています…413-0232ですが113-0222。
この事件は、前頭葉が担う注意集中力および分配力がきちんと機能していない結果なのです。脳から言えば、まさにこの時が前頭葉が老化を加速し始めた時なのです。つまり認知症が始まった時!
歳上の友人から電話がありました。
「とにかく、ボケずに逝きたいの。子供達に迷惑をかけたくない。断捨離も頑張ってるし。そう思いながらちょっと心配もしてる。だっていろいろ忘れる…だんだんひどくなってる」
実はこの友人からいただいた年賀状も気がかりなものでした。
差出人に「様」がついていました。しかも夫婦連名で二人とも…まさに注意集中が逸れてしまった…毎年下さるのですがもちろん今までにないことです。書かれているのはご主人(81歳)なので
「ご主人様はおかわりないですか?お元気ですか?」と尋ねたら
「体は特に問題ないと思うけど、なんだかいつもよく寝てる…することがないとテレビ見てるかと思うと寝てるんです」
前頭葉は司令塔。先の例のように注意の集中をかけたり、分配したりする要の役割を担っています。状況を判断してどのように脳を使うか決める役割も重要な前頭葉の機能です。
指令が出なければ、脳としてすることがない。それは日常生活では居眠りという形で現れます。
ハガキと居眠り。思いがけずはっきりと前頭葉機能低下を確認できてしまいました。どのように説明をすべきか、ちょっと思いを巡らせていました。
友の言葉が続きます。
「家の片付けも済み、庭木の手入れも今までにないほどバサバサ切って当分は手入れも不要。それに寒いからすることがないと言えばないんだけど、とにかく意欲がないのよね」
そこですかさず言いました。
「ボケ始めって何だと思いますか?」
「物忘れでしょう?だって『物忘れはボケの始り』っていうでしょう?」
(ホトケノザ)
「いいえ違います。確かに世間では『物忘れはボケの始まり』って言いますが、間違ってるんです!脳の検査をすればよくわかります。記憶力に何の支障もないのに、前頭葉機能がうまく働かなくなっている人がいるんです。その人たちがボケ始め。
日常生活で一番気がつくことは(思わずここで一息入れました)意欲がなくなるのです。結果、前頭葉は脳に指令を出さないので居眠りが目立つ。同時に好奇心も無くなるので、いよいよすることもなく居眠ることになってしまいます。
居眠りは危険信号ですよ」
熱を込めて言いましたが、怪訝な感じが電話から伝わってきました。
「だって普通に話すし、日常生活は自立してるし、遠くはやめたけど近くへの運転も問題ないし(本当は問題がある)、もちろん徘徊も夜中に騒ぐこともない。この歳なら普通…」
私は言葉を飲み込みましたが
「じゃあ、あなたが年賀状の差出人に『様』をつけてしまい、それを指摘された時『歳だもの普通』と平気でいられますか?」と言いたかった。
些細なことに心を配っていないと、ボケ始めは見逃すことになります。
失敗はいいのです。失敗した時にどう対処できるか、その人らしく対処できるなら、前頭葉機能はちゃんと機能していると言うことです。これが「歳のせい」と笑って済ませていい事件。
どこまで私が感じた切迫感が伝わったか、正直言って心許ない気がしています。
by 高槻絹子