あるBOX(改)

ボクシング、70年代ロック、ヲタ系、日々の出来事などをウダウダと・・・

書籍:光の教会―安藤忠雄の現場

2002年05月11日 | 生活
光の教会―安藤忠雄の現場

平松 剛 (著)  石堂威(編集)
出版社名 建築資料研究社
発行年月 2000年12月
サイズ 398P 19cm
価格 1,995円(税込)

装丁は、和田誠さん。
「この人が装丁ってだけで読む」というほどのファンが居る。
ウチの連れが、そのクチで。
「本の雑誌」での高評価もあって、図書館で借りて来てくれた。



安藤忠雄氏が、元プロボクサーで、そのバイタリティー溢れる
キャラクターから、私が気になって仕方ない人物であることを
知っててくれたのだ。

その建築家・安藤忠雄の代表作の1つとなった「光の教会」

大阪府茨木市の日本基督教団茨木春日丘教会、別名が「光の教会」。

安藤忠雄の十八番・コンクリート打ち放し、直方体の箱のような
シンプルな作りながら、十字に大きく抜かれた正面の壁からは光が
差し込みむ、ユニークこの上ない建築物。

本書は、この独創的な教会堂の構想・設計・施工の経緯を丹念に
追ったノンフィクションであり、スリリングな臨場感を持った読み
物である。

「予算が少ない?そりゃ面白いものが出来るかも知れんな」

そんな印象的な建築家の発言から、実質このドラマは始まる。

しかし、低予算は工務店を圧迫し、独創的アイディアの実現は工期を
遅らせる。
そして安藤氏は「アーティスト」だ。

十字に壁を抜くだけで、建物の強度は劣化する。
鉄筋を増やせば予算を圧迫する。

しかし、アーティストは「最後の一線」を妥協しない。

コンクリートの柔度は、コンクリ打ちっぱなしの質感に関わる。
工事が難しくなろうと、職人が渋い顔をしようと譲らない関西弁の
建築家。

依頼主は、「冷暖房なし」と聞いて驚愕する。「低予算だから」と
諦めるが、もともと安藤氏は「暑さ寒さは我慢せい」の建築家だ。
自分の事務所にも冷暖房は無い。
スタッフは「我慢せい」と叱咤され、不便を受け入れる精神を叩き
込まれる。

ボクサー時代、東南アジアに一人で遠征させられた安藤氏は、心身
ともにタフなのだ。
※プロ戦績13勝3敗7分けは立派なものだが
 「同時代の原田や海老原の天才ぶりの前に諦めた」
 との事。
 本書では「海老原博之」と字に誤りがあるのが
 残念だ。
 ボクシング・ファンからすると
 「天才カミソリ・パンチャー」の名前のミスは
 ちょっとねぇ・・・。

安藤事務所のスタッフ、牧師と教会員で構成される建築委員会、
施工業者ら登場人物が「新しい教会を作る」という同じ目的へ
意見を出し合い、時に摩擦を生み出しながら竣工へ突き進む様は、
読み物として面白い事この上ない。

時はバブルの真っ只中。
建設ラッシュで職人は足りない。工期は迫る。

しかし、なんとかなってしまうのだ。
利益が出ない(つ~か赤字)の仕事を受ける建設屋さんがエライのか?
「職人の地位が低い。プライドを持って仕事して欲しい」と、大規模
建築に参加した全ての職人の名前を建物の一角に刻む安藤の「男気」が
人を集めるのか?

ついに「光の教会」は竣工を迎える。

だが、「建物は人が使って完成する」のが安藤イズム。
チャンスがあれば、十字のくりぬきのガラスを外そうと企んでいる。

十字を背にして教会員と対面しなければならない牧師は
「身体が持たない」と受け入れないが、
建築家は「素の光がもっとも美しい」と機会を窺い続ける。

建設途中、十字架の「素のくりぬき」を安藤が構想してると知って
関係者は愕然とするが、
私は「彼ならそれくらい考えるだろう!」と大笑いしてしまった。