中国は広い。
私は南昌しか知らないので、
いろいろな地方から来た学生たちの故郷自慢話を聞くのが楽しみだ。
昨日は、用事で宿舎に来た藩梅ひょうさんが家族や村の様子を話してくれた。
藩さんは広西チワン(壮)族自治区ユイリン(玉林)の近くの村で生まれ育った。
彼女から曽お祖父さんと曽お祖母さんの出会いを聞いて、
(うう、村上春樹の「1Q84」と争うロマンチックさ)と、
思わず食べてる蜜柑を落としそうになった。
「若い頃のこと、
山中で一人仕事をしていたお祖父さんは、
疲れたので少し手を休め、ひんやりした清々しい山の空気に包まれて
汗を拭いました(これは私の想像ね)。
周囲は山、また山で、聞こえるのは小鳥の囀りと木々の葉が擦れる音ばかり。
(向こうの山で、私のように一人ぼっちで働いている人間がいないかな。いたらいいな)
若者は向こうの山に届けとばかりに、歌を歌いました。
張りのある、明るい挨拶歌でした。
なんと、まもなくそれに応えて歌が返ってきたではありませんか。
美しい天女のような歌声です。
それから、
向こうとこちらの山の二人は、
毎日山仕事をしながら相聞の歌を交わすようになりました。
歌われた言葉と声に秘められた優しさを頼りに
二人は結ばれたのです。」
本当にあったお話なんですねえ、これが(ちょっと脚色入っているけど
)。
今でも、村の人たち(全員、姓は藩さんばかり)は歌が大好きなのだそうだ。
結婚式などの祝い事があるときは、
村のお金持ちが劇団を呼んで、
村人たちにショーを振る舞う習慣があるという。
そのショーは、チワン族語の歌劇で、
藩さんは子どもの頃、それを観るのが大好きだったそうだ。
漢語を覚える前に、藩さんは村の言葉と、もう一つの方言をマスターしていた。
それは、両親が出稼ぎに行って暮らしていた地方の言葉だ。
漢語は、藩さんにとって3つ目の言語、日本語は4つ目だ!
(英語を入れたら5種類の言語・・・)
言語を習得することはものの見方(世界観)に影響すると私は思う。
他言語を習得することで
たったひとつの純粋な言語世界にのんびり浸る生活から
否応なく波風に揉まれる大海に放り出されてしまうのだ。
井戸の中の、知らないことによる幸福な暮らしは、二度と戻らない。
彼女が自分の民族、チワン族を心底愛していることは、
話す言葉の端はしからにじみ出ている。
しかし現在、故郷は、都市部から運ばれ捨てられたゴミが川の両岸に山と積まれ、
大気も汚染され、見る影もないそうだ。
〝桃源郷″のもとで培われた豊かな感性と、
その感性が育んだ民族文化の行く末を思うとき、
藩さんの表情が陰るのだ。
私は南昌しか知らないので、
いろいろな地方から来た学生たちの故郷自慢話を聞くのが楽しみだ。
昨日は、用事で宿舎に来た藩梅ひょうさんが家族や村の様子を話してくれた。
藩さんは広西チワン(壮)族自治区ユイリン(玉林)の近くの村で生まれ育った。
彼女から曽お祖父さんと曽お祖母さんの出会いを聞いて、
(うう、村上春樹の「1Q84」と争うロマンチックさ)と、
思わず食べてる蜜柑を落としそうになった。
「若い頃のこと、
山中で一人仕事をしていたお祖父さんは、
疲れたので少し手を休め、ひんやりした清々しい山の空気に包まれて
汗を拭いました(これは私の想像ね)。
周囲は山、また山で、聞こえるのは小鳥の囀りと木々の葉が擦れる音ばかり。
(向こうの山で、私のように一人ぼっちで働いている人間がいないかな。いたらいいな)
若者は向こうの山に届けとばかりに、歌を歌いました。
張りのある、明るい挨拶歌でした。
なんと、まもなくそれに応えて歌が返ってきたではありませんか。
美しい天女のような歌声です。
それから、
向こうとこちらの山の二人は、
毎日山仕事をしながら相聞の歌を交わすようになりました。
歌われた言葉と声に秘められた優しさを頼りに
二人は結ばれたのです。」
本当にあったお話なんですねえ、これが(ちょっと脚色入っているけど

今でも、村の人たち(全員、姓は藩さんばかり)は歌が大好きなのだそうだ。
結婚式などの祝い事があるときは、
村のお金持ちが劇団を呼んで、
村人たちにショーを振る舞う習慣があるという。
そのショーは、チワン族語の歌劇で、
藩さんは子どもの頃、それを観るのが大好きだったそうだ。
漢語を覚える前に、藩さんは村の言葉と、もう一つの方言をマスターしていた。
それは、両親が出稼ぎに行って暮らしていた地方の言葉だ。
漢語は、藩さんにとって3つ目の言語、日本語は4つ目だ!
(英語を入れたら5種類の言語・・・)
言語を習得することはものの見方(世界観)に影響すると私は思う。
他言語を習得することで
たったひとつの純粋な言語世界にのんびり浸る生活から
否応なく波風に揉まれる大海に放り出されてしまうのだ。
井戸の中の、知らないことによる幸福な暮らしは、二度と戻らない。
彼女が自分の民族、チワン族を心底愛していることは、
話す言葉の端はしからにじみ出ている。
しかし現在、故郷は、都市部から運ばれ捨てられたゴミが川の両岸に山と積まれ、
大気も汚染され、見る影もないそうだ。
〝桃源郷″のもとで培われた豊かな感性と、
その感性が育んだ民族文化の行く末を思うとき、
藩さんの表情が陰るのだ。