石油ストーブの給油中に
「石油こぼさんようにね」と言うのはご法度だとわかった。
いかに、危なっかしく作業しているように見えても、
慣れていれば、こぼすことなどまずない。
が……「こぼさないように」と言われた矢先に……
という事例が今まで何回もあったである。
似たように、
絶対忘れないようにしよう、と思っていると
かえって忘れ物をしたり、
旅行の日に限って、
熱を出したりするという話はけっこうある。
それに通じる話で、ムカデの童話を思い出した。
踊りの上手なムカデが
――そんなたくさんの足で、
どうやったら上手く踊れるんですか?
と聞かれて、
――はて。どうやって踊ってるんだろう
と考え出す。
そして、いざ踊ってみようとすると踊れない。
結局、ムカデは二度と踊りができなくなってしまった、
という悲劇である。
意識はやっぱりおそろしい。
殊に、"無意識"の管轄と言われるスポーツや芸術は、
無心でやらないとうまくいかない由縁かもしれない。