学問空間

「『増鏡』を読む会」、第9回は2月22日(土)、テーマは「上西門院とその周辺」です。

擬制的な家産制官僚制?

2014-02-08 | 丸島和洋『戦国大名の「外交」』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2014年 2月 8日(土)22時39分54秒

>筆綾丸さん
丸島氏の『戦国大名武田氏の権力構造』の「序章 戦国大名研究の現状と本書の視覚」は本当に平易な語彙で書かれていて、23ページの長さなのに外国語由来の言葉は「レベル」「フィクション」「イメージ」「アンチテーゼ」「ルート」「クラス」「ネットワーク」「フィールド」だけですね。
歴史業界のジャーゴンである「アンチテーゼ」を除けば小学生でも理解できる言葉ばかりで、丸島氏の和風趣味はなかなか徹底していますが、桃崎氏は語彙についてはマイルドな洋風趣味の持ち主のようですね。
ただ、『中世京都の空間構造と礼節体系』「序論」の中身はあまりマイルドではなく、分かりにくいところに?をつけてみたら、最初の4頁(p3~6)だけで20箇所ほどありました。
例えば桃崎氏は「石母田氏は様々な中世法のあり方から、尊卑を軸として各領国内の擬制的な家産制官僚制を整序するのに戦国大名が「礼」の概念を用い・・・」と書かれていますが(p5)、この「擬制的」は一体どこから来たのか。
対応する表現を石母田氏の論文に探しても、石母田氏は「擬制的」との表現は用いておらず、むしろ「未熟ながら家産制的官僚制をつくりあげることによって」(p『中世政治社会思想』上「解説」p640)云々とあり、戦国大名が作った家産制的官僚制は擬制(フィクション)ではなく、現実のものであることが明示されています。
そもそも「擬制的な家産制的官僚制」のイメージが浮かばないので、桃崎氏は「家産制的官僚制」を本当に理解しているのだろうか、石母田氏の「家産制的官僚制」がマックス・ウェーバーの概念を借用したものであることを知っているのだろうか、といった疑問も生じてきます。
これ以外にも、桃崎氏が石母田氏の主張を正確に読み取っているのか、疑問を感じるところがいくつかありますね。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

The medieval tree planted in person by Ishimoda Shō 2014/02/08(土) 16:11:33
小太郎さん
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(中世社会において個別具体的な集団は)あくまでも身分制社会の一構成要素であったために、礼の秩序という一本の幹に必ずどこかで(直接・関節を問わず)接続しており、現実の支配体制とは別にそのような面において、全体で一つのツリー(樹形)を観念上形成していた、と(いうモデルに、石母田氏の指摘は換言できる)。(『中世京都の空間構造と礼節体系』6頁)
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http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%A0
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%A0%E3%81%AE%E5%89%83%E5%88%80
この「ツリー」は、ドゥルーズ/ガタリ『千のプラトー』における「ツリー」を想定しているような感じがしますが、桃崎氏にとって、この木を植えたのは石母田正という人なんですね。先生お手植えの木はこんなに大きくなりました、先生の学恩には感謝してもしきれません、と。しかし、これは砂上の楼閣というか、蜃気楼というか、ただのパラノイアではないか、とだんだん怪しくなってきました。丸島氏の国家論・外交論などは、オッカムの剃刀ではないけれども、ときどき枝打ちしたほうがいいのではないか、という気がしますね。木に縁りて魚を求む? 枯れ木も山の賑わい? ・・・いやいや。

必要が無いなら多くのものを定立してはならない。少数の論理でよい場合は多数の論理を定立してはならない。ーオッカム
コメント
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