【現代思想とジャーナリスト精神】

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日本の「報道の自由」を懸念する世界の良識に応える道

2016-04-11 14:29:58 | 政治・文化・社会評論
日本の「報道の自由」を懸念する世界の良識に応える道

                  櫻井 智志





 孫崎享氏の的確な評論『日本の報道の自由に世界は危機感。国連人権委員会、日本の報道の自由を調査実現へ。ワシントンポスト社説主要点再掲載』(2016年04月11日)からは、大いに得るところがある。

① 孫崎氏は言う。

 ワシントンポストは、本年3月5日、「日本で、都合悪いニュースは押し潰し」との表題で「戦後日本成果の最も自慢すべきは経済的驚異ではなく、独立したメディアを含む自由な機構の設立であった」[安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない」との内容を含む社説を掲載した。こうした懸念が国際社会で持たれている中、昨年12月、国連人権委員会は日本の「報道の自由」を調査する予定で国連スケジュールに掲載されたが、突然「関係者は予算で忙しい。本年の9月以降にしたい」と外務省が伝達するとの異例の事態が生じていた。「関係者は予算で忙しい」というのは余りに詭弁であり、明らかに7月参議院選挙に悪影響を与えたくないとの意図が明白であった。それが、特別報告者で、「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大ケイ教授が12日から訪日調査をすることとなった。



② 毎日新聞(4月10日)は、《国連人権理事会 「機密取材で罪」懸念 訪日調査へ》として以下の報道を伝えた。
  
 国連人権理事会が任命した特別報告者で、「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大アーバイン校のデビッド・ケイ教授(47)が12日から訪日調査をする。昨年12月の予定だったが、日本政府の要請で直前に延期になった。日本で国民の知る権利や表現の自由が脅かされていないかどうか、政府の対応などを聞き取る。来日を前にケイ教授に調査のポイントなどを聞いた。
--なぜ、調査が延期になったのですか。
日本政府から「政府当局者の都合が合わない」と説明を受けた。今年秋への延期を提案されたが、大学の講義などがあり多忙だ。早い時期を希望した。
--調査のポイントは何ですか。
 ◆各国でジャーナリストの(権利)保護や情報へのアクセス、インターネットの自由などを調べている。特に法的環境を見る。日本では例えば、特定秘密保護法が情報へのアクセスに、どう関係するのか。ジャーナリストが圧力を感じているという指摘もある。一方、日本は検閲なしにインターネットに自由にアクセスできる面もある。政府やメディア、NGO関係者に聞き取りをし、(改善点を)勧告する。
--秘密保護法について知りたい点は。
 ◆安全保障に関わることだからと政府が秘密指定し、(国民が)情報を入手できなくなることを懸念している。一般の人が、政府が何をしているのか評価できることは非常に重要だ。政府がどのように情報へのアクセスを保障しているのか、不正を内部告発できる状況か(を把握したい)。
 
--米国と比べ問題点はありそうですか。
 ◆米国は機密や秘密に分類されるものが多すぎる。しかし内部告発者を保護する強い法律がある。政府がどのように国民を守ろうとしているのか聞きたい。米国ではジャーナリストが機密情報にアクセスしても原則、違法ではない。日本の秘密保護法で罪になり得ることを懸念している。
 
--高市早苗総務相が放送法の「政治的公平」の解釈を巡り番組に問題があれば放送局に電波停止を命じる可能性に言及しました。
 ◆もし政府が放送局に特定の観点を強要することがあれば問題。公平とは何か。常に政府側の見方なのか。政党の主張を述べないことなのか。テレビキャスターが交代した話題も関心がある。政府には規制だけでなく、報道しやすい環境を促進する役目もある。もしジャーナリストが厳しい質問を控え、情報にアクセスできなくなれば、人々は情報に基づく選択ができなくなる危険性がある。


③ 孫崎氏は述べる。

日本側要請で一度延期

 国連人権理事会は、国際的な人権基準に照らして各国を調査し、問題点の改善を勧告する。特別報告者の公式訪問調査の対象は担当ごとに年間数カ国だけで、表現の自由に関して、その一つに日本が選ばれた。表現の自由担当の前任の特別報告者は2013年、国会審議中の特定秘密保護法に懸念を表明した。後任のケイ氏はそれを受けて調査に乗り出した。訪日調査の延期は日本政府が直前に要請し「予算編成作業があり十分な受け入れ態勢を取れなかった」(外務省)と説明した。これに日本の人権保護団体は抗議した。外務省は今回、「局長・審議官級が対応する」としている。表現の自由に詳しくケイ氏と親交のあるローレンス・レペタ明治大特任教授は「報道機関に政府の圧力がかかっているとされる問題、高市総務相の発言、週刊誌に対する名誉毀損(きそん)訴訟など、知る権利が脅かされている現状を調べてほしい」と話す。


④ それらの事実を総括して、孫崎享氏は問題に対する評価をこう述べる。

1:国際社会において、日本に表現の自由が十分に保障されていないのではないかという懸念は、最近特に高まっている。
2:ケイ氏は当然下記のワシントンポスト紙の社説を知っている。調査はおざなりなものにはならないであろう。
 3月5日付〔ワシントンポスト紙〕が「日本で、都合悪いニュースは押し潰し(Squelching bad news in Japan)」との表題で掲げた社説は、極めて重要な論点を含んでいる。
(論点)
1.アベノミクスはこれまでのところそう良くはない。
2.2015年末の更なる四半期のマイナス成長を含め、迫力に欠ける結果を見て、日本人は不安になり、首相支持率が落ち込んできている。
3.こうした悪いニュースによって、関係者は非難され始めたが、安倍氏だけは例外だ。
4.政府およびその支持者達による公式、非公式のメディアに対する圧力がある。
5.2015年国境なき記者団は報道の自由度で日本を世界180か国中、61番目とした。2010年には11であった。
6.戦後日本成果の最も自慢すべきは経済的驚異ではなく、独立したメディアを含む自由な機構の設立であった。
7.安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない。
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⑤ 以上を通して、小生はこう考えた。

 アメリカにも様々な社会的潮流と立場による見解の違いもあることだろう。けれども、アメリカで世論に大きな影響力をもたらすワシントンポスト紙(ニューヨークタイムス紙より保守的と言われてきた)が、これだけ明快な、安倍政権がもたらす言論とコミニケーションにおける偏向した対応乃至「無」対応を批判し、注意を喚起している。そのことを、安倍政権とその圧力のもとで仕事をしている国家・地方の公務員たちは無理だろうが、市民とジャーナリストたちは強い気概をもって、世界的国際世論が、安倍「独裁者」政権に強い懸念をもっていることを、十二分に承知し、自由で見識のある言論の格調に自信をもって、安倍「独裁者」政権から、日本の民主主義を擁護する義務がある。
 義務、とは日本の歴史と未来への義務であるとともに、国際人権宣言を備えた世界各国の民衆に対しての義務である。