【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

北海道5区補選と政局

2016-04-27 00:05:37 | 政治・文化・社会評論
北海道5区補選と政局の展望~革命的楽観主義は現実の改革を見失う~

                櫻井智志


 衆院補選北海道5区の選挙は、終わった。



和田義明 136,202
池田まき 124,058



 通常なら以下に掲げる「A東京新聞の分析記事」が、妥当だろう。しかし、熊本激甚災害を政治的に利用した安倍総理の計算を見通した「B日刊ゲンダイの記事」のほうが、すべて肯定するわけではないが、Aで見ていない視野を見ている。




-----------------------------------
A 東京新聞転載

北海道5区補選 民共共闘で「合算」成果 上積み効果には課題
2016年4月26日 朝刊
 夏の参院選の前哨戦となった衆院北海道5区補欠選挙では、民進、共産、社民、生活の野党四党が推薦した無所属新人・池田真紀氏の得票は、二〇一四年十二月の前回衆院選で民主(当時)、共産両党が個別に擁立した候補者の合計得票とほぼ同じだった。敗れたものの候補の一本化による得票増につながり、「民共協力はかえってマイナス」との懸念は打ち消す結果になった。(高山晶一)
 前回衆院選で、5区に出馬した民主新人の得票は九万四千九百七十五票、共産新人は三万一千五百二十三票で、計十二万六千四百九十八票。今回池田氏の得票は十二万三千五百十七票と、約三千票しか違わなかった(投票率は前回比0・8ポイント減)。
 共同通信社の出口調査では、民進支持層の95・5%、共産支持層の97・9%が池田氏に投票した。民進党内では、参院選での野党共闘を巡り「共産党と連携すると保守票を取り込めなくなる」との見方があるが、今回を見る限り、そうした傾向はうかがえない。
 地元で一定の影響力を持ち、前回は民主と協力関係にあった政治団体・新党大地は今回、自民候補の支援に回った。池田氏の得票率は47・6%で、前回の民主、共産両党候補の得票率を合わせた49・1%から微減したことに影響した可能性がある。
 野党統一候補は、注目度が上がることで各党の基礎票の合計より多くの票が集まる「上積み効果」が期待されている。今回はそこまでの効果はなく、組織力のある与党候補に対抗する課題を残した。
 ただ「支持政党なし」と答えた無党派層は共同通信社の出口調査で、北海道5区で73・0%が池田氏に投票し、無党派層は「非自民」に動いた。与党が不戦敗の京都3区補選では無党派層の72・6%が当選した民進前職の泉健太氏に投票。改憲などの政策で自民に近いおおさか維新の候補らを大きく上回った。


----------------------------------------------------
B  日刊ゲンダイ

善戦じゃダメなのだ 衆院補選・野党共闘「惜敗」の絶望
2016年4月25日
 24日、投開票された衆院の2つの補欠選挙は、自民が北海道5区で勝ち、民進が京都3区で勝利という結果に終わった。
 もともとは両選挙区とも自民の議席だったことを考えれば、自民が議席を1つ減らしたわけで、自民敗北だ。しかし、よくよく見れば、なんのことはない、自民の故町村信孝前衆院議長の議席は娘婿に“世襲”され、結局、妻の妊娠中に不倫したゲス議員1人が消えただけだ。特に、北海道5区は選挙期間中、自民の和田義明氏(44)が野党統一の池田真紀氏(43)に一時、逆転を許し、安倍政権に大打撃を与える可能性が注目されただけに、終わってみれば「大山鳴動してネズミ一匹」という印象を持った人が少なくないのではないか。
「北海道では告示前後、野党の池田さんが先行するデータもあって、与党陣営は相当焦っていました。それが中盤以降、自民の和田さんが巻き返した。
公明・創価学会が参院選の選挙区候補のバーター支援を受けるため、補選で和田さんのためにフル回転したことが一因です。そして最も大きかったのが熊本地震。あれで選挙のムードがガラリと変わった。争点に挙がっていた福祉や保育園問題が吹っ飛んだだけでなく、『災害対応に取り組んでいる政府にケチをつけるのか』と言われかねず、野党側が政権批判をしにくくなってしまったのです」(地元マスコミ関係者)
■投票開始日に「震災補正予算」指示の大仰
 おおさか維新の会の片山虎之助共同代表の不謹慎な発言にあったように、安倍政権も“タイミングのいい地震”を政治利用しまくった。
 災害時、予算と権限を持っている政府は強い。安倍首相は23日、ようやく被災地の熊本県に入ったかと思ったら、一通りの視察が終わるやいなや、「激甚災害指定」と「補正予算編成」に言及。防災服姿で「一日も早い被災者の生活再建へ政府一丸で取り組む」と意気込んでいた。それまでモタモタしていたくせに、毎度の“決断するリーダー”をアピールしたのは、補選の最終日を意識したパフォーマンスでもあったのは想像に難くない。視察翌日の24日、安倍首相はさっそく補正予算の今国会中成立を指示した。赤字国債も増発して数千億円規模になる見込みだ。
 補正予算は自民党選挙マシンのゼネコンに対して、「復興に関わりたければ選挙ヨロシク」という側面もあるだろう。実際、自民党は北海道5区の選挙でゼネコンをフル稼働させていた。菅官房長官が札幌入りした際には、東京から大手建設会社の首脳クラスが、わざわざ札幌に飛び、企業団体向けの決起集会に出席。1000人の会場に1200人が集まったという。
「最終盤の和田さんの街頭演説に小泉進次郎衆院議員が応援に入った際も、動員とみられるユニホーム姿の建設会社員がいました。上が推薦を決めても末端がその通り投票するような時代ではありませんが、国会議員は延べ100人以上、北海道へ来たといいますし、敗北の可能性があっただけに、自民党はガチガチの組織選挙を徹底してやっていました」(現地で取材していたジャーナリストの横田一氏)
 震災利用と企業団体の締め上げ。自民が自民らしい卑しい選挙戦を繰り広げて辛くも逃げ切った、というのが今度の結果だった。
それでも野党は粛々と共闘を深めるべし
 北海道5区の選挙結果は、参院選に向け共闘を加速させている野党にとっては、悔やみきれないほど残念な現実だ。
 野党統一候補だった池田は中卒、シングルマザー、生活保護というドン底から、一念発起して北海道大学の大学院にまで進んだ苦労人でタマもよかった。共産党が独自候補を降ろしたことで、自公をビビらせ、大接戦に持ち込めた。野党としては、民進、共産、社民、生活の4党が統一候補を立てて戦うモデルケースとして是が非でも勝利し、参院選に弾みをつけたいところだった。
 勝っていれば、俄然、野党共闘が盛り上がり、有権者の期待も高まっただろう。逆に、今回野党が負けたことで、共闘への期待感は萎んでしまいかねない。
 野党各党は今後、敗因分析をすることになるが、生活の党の小沢一郎代表が「共闘が十分でなく、安倍政権に代わり得る選択肢になっていないと国民に映った可能性がある」との談話を出していた。その視点は重要だ。政治評論家の野上忠興氏もこう言う。
「野党は悔しいでしょうが、落胆することはない。町村さんの弔い選挙という自民党が圧倒的に強いはずの選挙で、野党はここまで接戦に持ち込んだ。やり方次第で安倍1強を苦しめることができる。1歩後退した後に2歩進めるべく、むしろ野党は粛々と共闘を深めるべきです」
■日本人気質を見越した世論懐柔
 確かに地震発生まで、安倍自民は追い込まれていた。
 京都3区補選はゲス不倫のスキャンダルが原因だったし、甘利前経済再生相の口利き賄賂疑惑は特捜が事件として着手した。チンピラ議員による失言・暴言も枚挙にいとまがなく、政権の待機児童問題を軽視する対応に女性の怒りが爆発。今月に入っても、TPPの黒塗り文書や西川元農相の暴露本騒動など、不祥事が山ほどあった。5月に発表される1~3月期のGDPもマイナスが予想され、経済もガタガタだ。
 安倍政権を追い詰めるこれほどのチャンスはなかったのだが、それでも野党は勝てなかった。
 自民が逃げ切れたのは、長年培った組織選挙の盤石さや震災利用が背景にあったが、それに有権者がコロリとだまされてしまうことも問題だ。
「どうも日本人は情緒的で流されやすい。安倍政権はそうした日本人気質を見越した世論懐柔の戦略がうまかったということでしょう」(野上忠興氏=前出)
「勝利は勝利」と今後、安倍首相は、今まで以上に政権運営に自信を強めるだろう。負けていれば難しくなっていた衆参ダブル選挙も、その可能性が残った。
「ダブルに踏み切る怖さはこれまでと変わらないとは思いますが、判断は今後の環境次第でしょう。外交や1億総活躍プランなどに対する世論の支持を見て、悲願の憲法改正のため、参院で3分の2の勢力をどうしたら取れるのか見極めることになる」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
 憲法を踏みにじる暴力政権が、この先も我が物顔でますますのさばる理不尽。このままでは暗黒国家になってしまうという恐怖と危惧を抱いている国民は、絶望的な気持ちにならざるを得ない。
 だが、諦めてしまっては、さらに安倍首相を付け上がらせるだけということも、また事実である。



-----------------
C 考察



 選挙結果をその時点で切り取って、数値的に分析することには不十分さがある。京都で圧勝し、北海道5区でも野党共闘がまずまずだった民進党の感想や分析に、日本共産党も同じレベルでいては、情けない。
 このまま野党共闘を民進党路線で続けて、参院選に臨めば、戦争法を廃案にし、立憲主義を回復できるか。私は甘いと思う。熊本地震という天災を悪知恵の限りを尽くして、池田まき&市民連合が逆転をしていた政治情勢を、再度逆転したのが、安倍政権の手法だ。
 安倍は、震災復興に野党も協力してほしいと各党に依頼し、各党は「与党も野党もない、震災復興のために全面的に協力する」と応じた。地震が起きた時も安倍政権は、TPPは脇においてこの際争うべきでない、と応じた。しめしめと思った与党は、インターネット規制法など何の充分な審議もなく、法案がとおり、TPP法案も審議するということが広く知られたとたんにあわてた。今回もそうだ。安倍総理に応じているような野党は、安倍が熊本地震を最大限に利用して、緊急事態条項や危機管理防衛体制をすそ野から踏み固めていこうとしていることに気づいていて、「与野党の争いなどせずに復旧のために」などと言っているのだろうか。
 地震発生とともに現地に入り、その後も熊本から住民とともに苦楽をともにした報道人がいる。彼の報道によって、現地に安倍政治は、福島原発対策と同様に、「住民の復興・復旧のために全力を尽くした行政」などほとんどうわべしかやっていない。
 日刊ゲンダイの扇情的なタイトルだけで、文章の内容もまともに検討していない市民運動家すらいる。Bは問題の本質をとりあげている。
 野党共闘は、誠意ある日本共産党の犠牲的な政策で、全国で野党統一がかなり進んでいる。それらの野党共闘をベースとしつつ、北海道5区でSEALDsの奥田愛希さんや諸団体が結集した「市民連合」の誠心誠意工夫と創意にみちた市民選挙が展開されたから、猛烈な自公の締め付けにもかかわらず、13万の和田候補に池田まき候補は12万を超える支持を勝ち得た。札幌市の該当区では、和田を大きく引き離している。
 野党共闘と市民団体、ではない。市民運動と提携した野党共闘でなければ、参院選もひそかに安倍が決意した衆院選も、安倍政権は、国会で多数派を獲得する。これから何が起こるかわからない。北海道の地域政党新党大地の鈴木宗男に引き替えの見返りを密約して、ごっそりと新党大地支持票を獲得している。安倍の政治は最低政治だが、安倍の選挙戦術は天才的な詐欺師戦術を駆使してことごとく当たっている。第1次安倍政権の惨敗を見ると、小泉劇場型政治を演出した世耕議員は、ナチスのゲッペルス以上の才能をもつ。おだやかなひとあたりで賞賛する共産党幹部がいるくらい巧妙なのだ。しかも安倍の後ろには内閣調査室をつくった佐々淳行警察OBトップや小泉内閣の参謀だった飯島勲もいる。
 いままで私は選挙で負けても接戦なら、健闘を祝して善戦と讃えてきた。今度の北海道5区は「勝っていた選挙」が「震災で大災難を背負った熊本・大分県民」を最大限に悪用した謀略的戦術で落選した。ここが関ヶ原として天下分け目の関ヶ原で負けても、のうのうと笑顔でますまずの成果もなどといっている野党幹部のにやけた顔を見ていて、私はプライバシーを晒しても天下国家の命運を意識して雨の中でずぶぬれで嗄れた声で、心に響く対話を説き続けた池田まきさんほど今回の選挙で死力を尽くした選挙運動家はいなかったと感ずる。
 関ヶ原、大阪の陣。この後は後がない。徳川封建政府が三百年続き、天草四郎、安藤昌益、大潮平八郎と幕府に異をとなえる者たちは虐殺され、沈黙を強いられた。
 小ブルジョア急進主義、という。いま日本で必要なものは、「市民の革新的刷新の事業」を市民団体が主体となり、野党共闘が強く支えて国会で多数派をめざし、憲法改悪阻止の議席数を勝ち取ることだ。「善戦」ではなく「憲法改悪阻止可能議席獲得」勝利、の闘いしかあり得ない。