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中国新聞 「自民政治の本質か」 知事選疑惑の教訓なく【決別 金権政治】<第5部・あしき慣習>(1)

2021-03-13 17:01:06 | 転載
中国新聞社 2021/03/13 07:21
写真:藤田(手前右)から時計回りに平、桧山、案里、奥原のコラージュ。背景は藤田への辞職勧告決議案を可決した広島県議会の議場© 中国新聞社


 広島県議会が初めて設けた政治倫理審査会が12日、動き始めた。2019年の参院選広島選挙区の大規模買収事件で「被買収者」とされる県議13人について、政治倫理条例が定める行為規範に違反するか否かを判断する。同条例が制定されたのは14年前。前知事の藤田雄山(故人)の知事選を巡る買収疑惑がきっかけだった。「あしき慣習」をなぜ断ち切れないのか。その要因を探る。

 「あの疑惑が全く教訓になっていなかった。情けないの一言。広島の体質は変わっていくと思ったが、嵐が過ぎたら、まあいいかという感じになったのか」。県議会が06年3月に設置した調査会で座長を務めた自民党の元県議、平浩介(66)が悔恨の思いを打ち明ける。

 ▽対策費や上納金

 当時調査したのは、藤田陣営が知事選のたびに自民党の県議らに配ったとされる「対策費」。藤田の後援会不正事件で検察当局の聴取を受けた元秘書が供述し、対策費を渡した現職県議10人の名前を記したとされるメモが押収されていた。自民党県連が藤田陣営から「上納金」と呼ばれる裏金を払わせたとの疑惑も浮上。元秘書は、対策費や上納金を「県政界のあしき慣習」と供述していた。

 政治不信が高まる中、調査会は関係者の招致に動いたが、元秘書から断られるなど難航した。県議会で最大勢力の自民党は藤田を支持する会派と、元議長の桧山俊宏(76)が属し、藤田と距離を置く会派に分かれ、政治的な駆け引きも続いた。18回の調査を重ねたが真相解明はできなかった。

 ▽全会一致で条例

 桧山が所属する会派が提案し、県議会は2度にわたり藤田への辞職勧告を決議。知事の政治責任を追及した。そして07年3月、県議選に突入した。

 投開票日。自民党系の現職10人が落選し、有権者の政治不信を反映する結果となった。県議選後、平は政治倫理条例制定などを促す報告書を議長に提出。県議会は同年10月、公正を疑われるような金品の授受を禁じ、疑惑が生じた場合に審査会を設置できると定める政治倫理条例を全会一致で制定した。当時4期目だった藤田は09年の知事選に立候補しなかった。

 真相解明はできなかったが、現職の大量落選という形で有権者の審判が下り、倫理条例もできた。「議員の意識も変わる」。15年の任期満了で、平は政界から身を引いた。

 ところが20年6月、元法相の河井克行(58)と妻の案里(47)が公選法違反(買収)容疑で逮捕された。19年夏の参院選広島選挙区で県議や市町議、後援会員ら100人に計2901万円を渡したとされる前代未聞の事件だった。平はがくぜんとした。

 12回の当選を重ね、今も現職の元議長奥原信也(78)=呉市=は3回にわたり計200万円を受け取っていた。他の複数のベテラン県議も「被買収者」に名を連ねていた。藤田陣営の疑惑で揺れた当時、県議として藤田批判の急先鋒(せんぽう)だった案里は現金を渡した側だった。

 07年の県議選で大量落選した一人である元自民党県議は複雑な思いに駆られる。「倫理条例まで作ったのに、また同じような事件が起きた。『選挙にはカネが必要』という考え方が自民党政治の本質なんだろう」。「あしき慣習」の根深さを痛感してもいる。(敬称・呼称略)

 <クリック>藤田雄山・前広島県知事の後援会不正事件 2003年の政治資金パーティーで8600万円を集めたのに、県選管には収入を5千万円と報告したなどとして広島地検が05年12月に後援会の元事務局長を政治資金規正法違反容疑で逮捕、起訴した。初公判で検察側が知事選での対策費の存在を指摘。元事務局長の有罪判決が確定後、裁判記録が開示され、藤田陣営が県議などの各種議員らに渡した対策費が最初の知事選で2億〜3億円、2期目が3千万〜4千万円だったとする元秘書の供述調書が明るみに出た。